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【クルーレポート】『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』

ふじのくに⇄せかい演劇祭が閉幕し、早2週間が経ちました。

ご来場くださった多くのお客様が、ご自身のSNSなどで様々なご意見・ご感想を書いてくださっており、心より感謝いたしております。

5/3(火・祝)、4(水・祝)に静岡芸術劇場にて上演した『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』の観劇レポートをシアタークルーの岩橋くるみさんが寄せてくださいましたので、ご紹介いたします。

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舞台が明るくなると、お母さんのような人が、スープを作っている。鍋をくるくるかき回し、味見をしては、少し調味料を加える。
そしてまた何度か味見をし、整えていく。スープを作る音だけが響き、穏やかな時間が流れている。そこには何気ない日常があった。

毎日、毎日夜中に帰ってくるユビュ王はシャワーを浴び、何かを一生懸命洗い流している。

妻はそれを浮気相手の女の匂いと考え怒るが、流れているのは殺した人の骨であった。消している匂いは火薬の匂いであった。

アパルトヘイト政策のもとで、極秘の虐殺や暴力を繰り返していたユビュ王。しかし、アパルトヘイトが終わりを迎え、真実和解委員会が立ち上がる。

この中で、アパルトヘイト政策の下で行われた数々の虐殺や暴力行為などに対して、その被害者による証言が行われ、ユビュ王のような加害者は、それに対して同様に真実を語ることを求められる。しかし、ユビュ王は自分のしてきたことを恐れるあまり、なかなか真実を語ろうとしない。

この作品では、手描きのアニメーションが全編に用いられており、それらは時に背景、時に小道具のような役割をはたしていて、とても興味深かった。時には場面をとても分かりやすくしてくれるけれど、時には何だろう?と思わせて色々なことを想像させる。
そして、アニメーションと劇中のアパルトヘイトの被害者による証言が組み合わさると、その衝撃的な内容に加え、情報が限られていることでより一層心に迫ってくるものがある。
黒い影の向こうで一体何が行われているのだろうか、と考えるとすべてが見えない分、より恐ろしい。

先に述べたように、真実和解委員会では、アパルトヘイトのもとで行われた虐殺や暴力の被害者と、ユビュ王を始めとするその加害者によるそれぞれの「真実の」証言がなされることが求められる。そしてこの場で、虐殺や暴力の被害者は驚くような「真実」を語る。
虐殺や暴力の被害者による証言が語られるとき、その内容があまりにも衝撃的で、聴いている人はそれに動揺してしまう。

しかし、本当にそれがすべてなのだろうか。語られることは、ある一人の人の目から見た出来事であり、意図的でなくてもその人の感情や思いによって消されたり、逆に強調されていることもあるかもしれない。そのため、実は必ずしも「真実」ではない。
さらに、加害者であるユビュ王は証言台で意図的に嘘をつき続け、自らの行為を隠す(最終的には自分の行ってきたことを語り、悔い改めの言葉も発しているが)。結局、本当の真実はどこにあるのか、真実を知る、ということの難しさを感じた。

劇に出てくるパペットたちは、一見かわいいペットのようであるのだが、機密文書を食べたり、ユビュ王を脅迫したりと不思議で重要な役割を担っている。そして、パペットは歌い、踊り、時に大事なメッセージをユビュ王に与えている。笑ったり、憤慨したりと、表情も豊かである。ひとたび動き出すと、舞台上の他の俳優にも負けないくらいの圧倒的な存在感と生命力を感じさせた。

演劇祭の最初に観た『三代目、りちゃあど』では多様なものが共存することは可能なのだ、ということを感じたが、今回はアパルトヘイト政策について扱っていることもあり、異なるものが共存することへの難しさを感じた。

SPACシアタークルー 岩橋くるみ

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