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blog 最終更新日:2016年12月26日 1:25 PM

【クルーレポート】「オリヴィエ・ピィのグリム童話『少女と悪魔と風車小屋』」

「ふじのくに⇄せかい演劇2016」のトリを飾った『少女と悪魔と風車小屋』
野外劇場に響くノスタルジックな演奏と歌声、そして珠玉の言葉の数々に胸を打たれた方も多いのではないでしょうか?親子でご来場くださったお客様も多く、「わかりやすい物語・演技で子どもと一緒に楽しめた」とご好評いただきました。
本作の観劇レポートを、シアタークルーの白木菜々美さんが寄せてくださいましたので、ご紹介します。

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この作品は、皆一度は読んだことのある「グリム童話」の中の物語『手無し娘』を、フランスの演出家オリヴィエ・ピィ氏が『少女と悪魔と風車小屋』として潤色したものである。せかい演劇祭の前身となる「SHIZUOKA春の芸術祭2009」にて多くの観客を魅了したが、今回は2014年にアヴィニョン演劇祭で上演した新バージョンとして、野外劇場「有度」に登場した。

ある男が森に迷って悪魔に出会うが、彼は相手が悪魔だと知らず「小屋の後ろにあるものを3年後に渡す」という契約で金持ちにしてもらう。男は小屋の後ろには古びたリンゴの木があるばかりだと思っていたが、実はそのとき小屋の後ろには洗濯物を干している自分の愛娘が居た。
3年の月日が経ち、悪魔が契約の通りに娘をもらいに行くが娘はあの手この手で抵抗する。悪魔は男に娘の両手を切り落とすよう命じ、男は逆らえず斧で娘の手を切り落としてしまう。両手を失った娘は家を出て、行く当てもなく彷徨っていくと偶然王様の庭にたどり着き、そこで王様と出会う。

出演者はたったの4人。彼らは演じる役をころころと替えながら物語を進めていく。また森に囲まれた野外劇場「有度」の舞台上に設置された白い壁と台も、俳優と同じようにころころと変わっていく。それは小屋にもなれば庭にもなる。時には王宮になったりもする。さらに、作中には様々な歌が登場する。娘の歌う風車小屋の歌、悪魔の歌などなど。庭師の歌は、なんと日本語の歌詞であった。綺麗な歌声とたどたどしい日本語が、美しさとコミカルな雰囲気とを両立させていてとても面白かった。どの歌も耳に残り、一緒に歌いたくなるような魅力をもっていた。

物語は、娘が両手を切り落とされて家を出る、というとても悲しい出来事から始まる。それなのに、物語はなんだか楽しげで軽快に進んでいく。時には笑いが巻き起こり、美しい歌声に拍手が送られる。その様子は、両手を失ってもなお前を向いて進んでいく娘そのもののように思えた。

物語の終盤、悪魔の仕業によって命の危険にさらされた娘は、庭師によって森に逃がされる。戦争によって離ればなれになっていた王様と娘は森の中で再会し、元通りになった娘の手を見て王様は「奇跡だ」と大いに喜ぶ。その姿を見て娘は自分の手が生えるように、木々は葉を落としてもまた緑を芽吹かせ、花は咲くのだと話す。そして最後に王様が娘に向かって言う台詞、私はフランス語を話すことも聞いて理解することもできないが、この言葉に心を強く揺すぶられた。「これからはすべての奇跡に驚こう。」
私たちの周りには、多くの奇跡が転がっている。たとえ悲しいことがあっても、その奇跡ひとつひとつを大切に新鮮に驚くことで、幸福な毎日を過ごすことができる。そんなメッセージが込められているように、私は感じた。

SPACシアタークルー 白木菜々美

blog 最終更新日:2016年6月9日 8:42 PM

【クルーレポート】『三代目、りちゃあど』

「ふじのくに⇄せかい演劇祭2016」にてそのセンセーショナルな演出とキャスティングで大きな話題となった『三代目、りちゃあど』(オン・ケンセン演出)。本作の観劇レポートをシアタークルーの白木菜々美さんが寄せてくださいましたので、ご紹介いたします。

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 本作品は、鬼才野田秀樹氏がシェイクスピア『リチャード三世』を潤色し、1990年に上演された『三代目、りちゃあど』に、シンガポールの演出家オン・ケンセン氏が新たな息吹を吹き込んだものである。舞台は法廷。被告はリチャード三世。彼の悪事を問い詰め、罪を認めさせようとシェイクスピア本人が検事として対峙する……。出演者は歌舞伎、狂言、影絵芝居など多様なジャンルで高い評価を受ける実力派揃い。「はやく見たい!」とはやる気持ちを抑えて開演を待った。

 開演してからはシンプルな舞台の上で繰り広げられる物語からほんの少しも目が離せなかった。登場人物たちは演じる俳優によって衣装のモチーフやムービング、台詞回しのテイストが異なり、その道のプロフェッショナルの洗練された動きは実に美しいものであった。また台詞は日本語、英語、インドネシア語の3つが入り乱れており、視覚だけでなく聴覚も存分に刺激された。日本語以外の台詞には字幕がつけられていて台詞の意味は理解することができるようになっているが、そういった仕組みの舞台を観るのが初めてだったため、物語序盤は少々苦戦した。しかし慣れてくると、異なる言語からのアプローチによって作品がよりエネルギッシュなものになっているように感じた。

 作中、戯曲の作者であるシェイクスピアと彼が生み出した作品の登場人物たちは言葉を交わし、様々な世界を飛び回る。シェイクスピアの人生を辿る中から見えてくる彼の「リチャード」という名に対する激しい執着といってもいい感情が、極悪人リチャード三世誕生に深く関わっていることが解き明かされていく。人の想像力は無限の可能性を秘めている。それは希望であるが、時として凄まじく凶暴でもある。シェイクスピアの生み出したリチャード三世は、果たして真のリチャード三世だったのだろうか。

SPACシアタークルー 白木菜々美

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本作は、シンガポール国際芸術祭を経て、今秋、東京・熊本・大阪・高知・福岡の5都市を回る全国ツアーが予定されています。さらなる進化を予感させる本作に、今後もご注目ください。

blog 最終更新日:2016年5月23日 2:10 PM

【クルーレポート】『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』

ふじのくに⇄せかい演劇祭が閉幕し、早2週間が経ちました。

ご来場くださった多くのお客様が、ご自身のSNSなどで様々なご意見・ご感想を書いてくださっており、心より感謝いたしております。

5/3(火・祝)、4(水・祝)に静岡芸術劇場にて上演した『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』の観劇レポートをシアタークルーの岩橋くるみさんが寄せてくださいましたので、ご紹介いたします。

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舞台が明るくなると、お母さんのような人が、スープを作っている。鍋をくるくるかき回し、味見をしては、少し調味料を加える。
そしてまた何度か味見をし、整えていく。スープを作る音だけが響き、穏やかな時間が流れている。そこには何気ない日常があった。

毎日、毎日夜中に帰ってくるユビュ王はシャワーを浴び、何かを一生懸命洗い流している。

妻はそれを浮気相手の女の匂いと考え怒るが、流れているのは殺した人の骨であった。消している匂いは火薬の匂いであった。

アパルトヘイト政策のもとで、極秘の虐殺や暴力を繰り返していたユビュ王。しかし、アパルトヘイトが終わりを迎え、真実和解委員会が立ち上がる。

この中で、アパルトヘイト政策の下で行われた数々の虐殺や暴力行為などに対して、その被害者による証言が行われ、ユビュ王のような加害者は、それに対して同様に真実を語ることを求められる。しかし、ユビュ王は自分のしてきたことを恐れるあまり、なかなか真実を語ろうとしない。

この作品では、手描きのアニメーションが全編に用いられており、それらは時に背景、時に小道具のような役割をはたしていて、とても興味深かった。時には場面をとても分かりやすくしてくれるけれど、時には何だろう?と思わせて色々なことを想像させる。
そして、アニメーションと劇中のアパルトヘイトの被害者による証言が組み合わさると、その衝撃的な内容に加え、情報が限られていることでより一層心に迫ってくるものがある。
黒い影の向こうで一体何が行われているのだろうか、と考えるとすべてが見えない分、より恐ろしい。

先に述べたように、真実和解委員会では、アパルトヘイトのもとで行われた虐殺や暴力の被害者と、ユビュ王を始めとするその加害者によるそれぞれの「真実の」証言がなされることが求められる。そしてこの場で、虐殺や暴力の被害者は驚くような「真実」を語る。
虐殺や暴力の被害者による証言が語られるとき、その内容があまりにも衝撃的で、聴いている人はそれに動揺してしまう。

しかし、本当にそれがすべてなのだろうか。語られることは、ある一人の人の目から見た出来事であり、意図的でなくてもその人の感情や思いによって消されたり、逆に強調されていることもあるかもしれない。そのため、実は必ずしも「真実」ではない。
さらに、加害者であるユビュ王は証言台で意図的に嘘をつき続け、自らの行為を隠す(最終的には自分の行ってきたことを語り、悔い改めの言葉も発しているが)。結局、本当の真実はどこにあるのか、真実を知る、ということの難しさを感じた。

劇に出てくるパペットたちは、一見かわいいペットのようであるのだが、機密文書を食べたり、ユビュ王を脅迫したりと不思議で重要な役割を担っている。そして、パペットは歌い、踊り、時に大事なメッセージをユビュ王に与えている。笑ったり、憤慨したりと、表情も豊かである。ひとたび動き出すと、舞台上の他の俳優にも負けないくらいの圧倒的な存在感と生命力を感じさせた。

演劇祭の最初に観た『三代目、りちゃあど』では多様なものが共存することは可能なのだ、ということを感じたが、今回はアパルトヘイト政策について扱っていることもあり、異なるものが共存することへの難しさを感じた。

SPACシアタークルー 岩橋くるみ

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blog 最終更新日:2016年5月19日 8:53 PM

【クルーレポート】『火傷するほど独り』

5/7(土)、8(日)の2日間。静岡芸術劇場にて上演した『火傷するほど独り』
本作は、「Shizuoka春の芸術祭2010」にて『頼むから静かに死んでくれ』を上演し、私たちに鮮烈な印象を残したワジディ・ムアワッド氏自身が舞台に立つ一人芝居です。レバノンに生まれ、幼くしてフランスからカナダへ移った本人の生い立ちが作品には色濃く反映され、自らのアイデンティティーへの痛切な問いかけと自己の存在を刻み付けるかのような衝撃的なラストに、終演後しばらく動くことが出来なかった方も多いのではないでしょうか?
本作の観劇レポートを、シアタークルーの岩橋くるみさんが寄せてくれましたので、ご紹介します。

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『火傷するほど独り』を観てきました。私にとって、今回の演劇祭で観る最後の作品でした。

舞台の上にはたった一人しかいませんでした。それなのに、最初から最後まで、その演技に惹き付けられてしまいました。動きや仕草の一つ一つに隙がなく、そこから様々な気持ちがにじみ出ているようでした。

主人公のハルワンは父親や大学の教授など様々な人に電話をかけています。色々な人に電話をかけて、いわばずっと誰かと「つながっている」のです。それなのに、そのことでかえって主人公が孤独になっているように見えて、それがとても不思議でした。

でも、私にとってハルワンの感じているであろう様々な焦りや寂しさ、そして何とかして他の人に認めてもらいたい、というような気持ちには、すべてとは言えませんが、共感できるものがありました。

後半のシーンで、ペンキを次から次へと壁に塗っていく様子はとても強烈でした。沢山の色を、時にたたきつけるように、全身で塗りたくっていました。壁はとてもカラフルになり、一瞬きれいなようにも見えましたが、なぜかグロテスクな印象の方が強かったです。
狂ったように絵の具を塗っているのは、ハルワンが自分しかいない世界の中で、自分が今、ここにいるということを必死に確かめようとしているようにも見えました。

作品の中には時にレバノンの内戦についての話も織り交ぜられ、作品を観ていて、色々なことについてとても考えさせられました。
そして、自分自身は自分で認識できているようで、一人でいる時はこんなにとらえられないものなのか、と思いました。

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ムアワッド氏本人は出演しませんが…、2014年度の主な演劇賞を多数受賞した衝撃作『炎 アンサンディ』(作:ワジディ・ムアワッド、演出:上村聡史)が2017年3月、世田谷パブリックシアターで再演されますので、ぜひこちらもご覧ください!

blog 最終更新日:2016年5月18日 3:07 PM

【クルーレポート】『アリス、ナイトメア』

5/6(金)~8(日)に舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」にて上演した『アリス、ナイトメア』
舞台上にぽつんと置かれたベッド一台だけの簡素な舞台装置が、さまざまな仕掛けとプロジェクターの映像効果を借りて次々と変容していく様子に、衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか?
本作の観劇レポートを、シアタークルーの久保田雄介さんが寄せてくださいましたので、ご紹介いたします!

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当日の朝は生憎の小雨模様。天気もこれから始まる悪夢(ナイトメア)を予兆している様で、朝からなんだかソワソワしてきます。

舞台はBOXシアター。
今回の演劇祭の中では、最も小規模な舞台かと思います。
小規模だからこそ、演者と観劇者の関係が近く、会場全体に一体感が生まれます。BOXシアターならではの特別で唯一無二な空気感があり、作品をより深い次元まで進化させてくれる、そんな舞台です。

公演前にはプレトークが行われました。クルーレポートで、シアタークルーの松浦康政さんがプレトークに関する素敵な記事を書いて下さいましたが、やはりプレトークを聞いてから観劇する事をオススメします!今回改めて実感しましたが、お得な情報がたっぷりで、観劇前のワクワク感も増し、作品に対する想いも深まります!
プレトークについての詳細は、松浦さんのクルーレポートを参照して下さい。

シアター内に一歩足を踏み入れると、暗闇の中にキュウリパックをした女性がすでにベッドで寝ており、いきなりギョッ!とさせられます。え?!もう悪夢始まってるの?!笑
ある日、なかなか寝付けない女性が、ベッドの上でとんでもない事になっていく訳ですが、この狭い空間設定で、しかも1人で!あそこまで奥深い表現が出来るものかと衝撃を受けました。ベッドの上なのに、ベッドの上ではない、とても不思議で謎めいた光景を目の当たりにしました。
全体を通してホラー映画を観ている感覚に近く、ホラー映画が苦手な私にとっては、常に緊張感を強いられましたが(笑)。BOXシアターと作品の相性も良く、作品をより味わい深いものへと昇華させている印象も受けました。

観劇後にBOXシアターから出ると、気持ちのいい晴天!皆さんもここでようやく悪夢から目が覚めたかと思います(笑)

観劇後、無性にキュウリが食べたくなった事は言うまでもありません(笑)

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