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【シアタークルーレポート】『寿歌』

【クルーレポート】『寿歌』

「ふじのくに⇄せかい演劇2018」の前半のハイライトとも言える『寿歌』。
“核戦争後の荒野”という設定とは相反するような、木々のざわめき・鳥の声・月の光に囲まれた野外劇場「有度」で上演された本作は、美術家・カミイケタクヤが手掛けた装置とも相まって、何とも言えない不思議な世界観で観客を魅了しました。
本公演のレポートを、シアタークルーの越智良江さんが寄せてくださいましたので、ご紹介します。

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ふじのくに⇄せかい演劇祭2018!
シアタークルーで入らせていただきました、越智良江です。
今回、私は舞台芸術公園 野外劇場「有度」で公演されました『寿歌』のお手伝いで入らせていただきました。

『寿歌』が行われるのは、舞台芸術公園 野外劇場「有度」。
私はこの舞台芸術公園は初めてで、昼は日差しが降り注ぎ、鳥の声がして、歩いているだけでとても気持ちよく。
演劇しかない時間と、演劇しかない空間に、とてもとても幸せでした。
こんなところで『寿歌』が行われるとは・・・!とゲネをとても楽しみにしておりました。

しかし・・・!昼とは打って変わって、ゲネが行われる夜はとても寒い・・・!!!
今回『寿歌』は夜公演でしたが、それは日没にあわせて上演されるためでした。

スタッフさん、俳優さんは分単位で時間と格闘され、そのこだわりにとてもとても感銘しましたし、そのおかげで野外劇場ならではの「特殊効果」と共に『寿歌』のゲネは行われました。

だんだんと影を落としていく山々と、劇場の空天井からは月が見え、その光の中で繰り広げられる「ええかげん芝居」は、本当に切なかった。
こんなに笑えてええかげんなのに、そのええかげんさが更に切なく見えるんです。
ゲサクの背中に空いた穴のようにスースーと、笑いも賑やかさも、暗い山の奥へ、高い高い空へ消えていくようでした。

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私は『寿歌』がとても好きで、今回、この公演クルーを希望させていただきました。
が、ずっとずっと、分からないまま、不思議だったところがありました。

それは、キョウコの 櫛 です。

キョウコが髪をといていると、櫛が折れてしまうんです。
が、旅先で出会った不思議な男・ヤスオは、物品引き寄せ術という特技を持っていて、何か元の物があって、ポケットに入れて叩けば、いくつもその物を取り出すことが出来る、いう能力でした。

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キョウコの櫛をヤスオはポケットに入れて新しい櫛を出してくれます。
最後のシーンでは、ゲサクがキョウコに「櫛をもらったお礼に干しいもを渡してこい」と、後を追わせるという、あの櫛。

ずっととても不思議だった。
だって、キョウコの櫛は折れたんです。となると、ヤスオが「キョウコさんに」と出してくれたこの櫛も、折れているのではないのか?

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だって、ヤスオのポケットから、「ぞろぞろ」で出てくるのは、ポケットに入れたそのものの複製なので、折れた櫛をポケットに入れれば、折れた櫛が出てくるはずではないか。

なのにお芝居では、元通りの、折れる前の櫛であるかのように、話は進むのです。

これがどうしても分からなくて、

あの櫛は折れてるのか?
三人には折れたのが見えてないのか?
いやいや、あのポケットは引き寄せの術だから、新品の新しいのがやってくるのか?
そんなはずはないぞ。

とぐるんぐるんしていました。

それが、今回、初めて分かりました。

「櫛が折れる」のは「苦」と「死」が折れること。解放されること。

良いことの象徴なのです。ヤスオと出会って櫛が折れた。
彼は人類の罪を背負っていく象徴でした。
キリストが人類の罪を背負って亡くなったように、救いでした。

それが最後に、新品の新しい櫛が登場し、また二人の手に戻ります。
「苦」と「死」が、最初に戻ってしまったんです。
「苦」と「死」をまた手に、二人は歩いていかなければならない。

回り、回る、終わりの無い旅。
まさにこの無限の美術セットがよくよく表していて、ああ・・・なるほど、と全て繋がったときに鳥肌が立ちました。

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もちろん、この解釈は私がしたのですから、他の方は違う感想や、よく分からないままにしておく面白さもあります。
人それぞれの感想が出るのも作品の魅力だなぁと思います。

ラストのシーンでは、櫛を再び手にしながら、それでもリヤカーを引いて進んでいく二人の姿に。
でもきっと、マリアのように身ごもったキョウコのお腹に希望を。
拍手は長く長く続きました。

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公演は両日満席で、終演後の皆様のお顔を見ると、作品が分かります。
こういうのが一番に感じられるのも表周りスタッフの特権ですね。

「寿歌」は難解でありますが、分かりやすい芝居の楽しみとまた違って、「あれはどういう芝居だったんだろう」と何かしらずっと心に留まる作品もとても面白いものだなぁと思います。

静岡の自然と、お芝居から力をもらって、私も、リヤカーを引いて歩いていける気がします。

シアタークルー 越智良江

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静岡公演は30日(月・祝)に千穐楽を迎えましたが…、
実は、ゲサクとキョウコの旅はまだまだ続くんです!
是非、謎の男・ヤスオのように、ゲサクとキョウコの旅に一瞬寄り添っていただけると嬉しいです!

★☆★ 今後のツアー予定 ★☆★

<熊本公演>
■日時:2018年5月18日(金)14:00、19日(土)14:00
■会場:ながす未来館
■料金:一般2,000円、高校生1,500円(中学生以下無料)
■問い合わせ:ながす未来館 0968-69-2005

<福岡公演>
■日時:2018年5月26日(土)14:00 、27日(日)14:00
■会場:北九州芸術劇場小劇場
■料金:一般3,500円 高校生〔的〕チケット1,000円
■問い合わせ:北九州芸術劇場 093-562-2655

<茨城公演>
■日時:2018年6月8日(金)19:00
■会場:ひたちなか市文化会館小ホール
■料金:一般2,500円 U22 1,200円 
■問い合わせ:ひたちなか市文化会館 029-275-1122

<愛知・知立公演>
■日時:[劇場と子ども7万人プロジェクト]学校招待公演/2018年6月13日(水)~15日(金) 一般公演/6月16日(土)14:00
■会場:パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)花しょうぶホール
■料金:一般2,500円 25歳以下1,000円 
■問い合わせ:パティオ池鯉鮒 0566-83-8102

<愛知・小牧公演>
■日時:[劇場と子ども7万人プロジェクト]学校招待公演/2018年6月21日(木)・22日(金) 一般公演/6月23日(土)14:00
■会場:小牧市市民会館
■料金:一般2,500円 U25 1,000円 
■問い合わせ:こまき市民文化財団 0568-71-9700

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