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blog 最終更新日:2018年6月7日 4:02 PM

【シアタークルーレポート】『寿歌』2

「ふじのくに⇄せかい演劇祭」が閉幕してから早1ヶ月。
SPACの本拠地・静岡芸術劇場では、今週末『繻子の靴』公演が行われますが…一方で『寿歌』は全国ツアー真っ只中!ゲサクとキョウコ、そしてヤスオの旅はまだまだ続いているんです!!明日の茨城県ひたちなか市での公演を前に、シアタークルー・かさまみちよさんのレポートをご紹介します。

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寿歌 -笑える。笑えるからどことなくちょっと寂しい。

この作品は絶対観たい!!と、チラシを見た時から思っていました。

『寿歌』という作品を知ったのは、実は10代後半の頃でした。
今から30年も前です。
先輩の出ていた昔の古い公演ビデオを借りたので、公演はもっともっと前、ということになります。
その時私が受けたメッセージは今とはちょっと違っていて、ざっくり言うと
「みんな違ってみんないい」「ここに居場所がなくてもそこにある」
そんなところだったのかもしれません。

戦争や死をまだあまり意識しない10代ということ、
宮崎から言葉のなまりもとれない状態で就職して間もなかったこともあって、
はじめて味わう「孤独」と寿歌の「寂しさ、孤独」がリンクしたのかもしれません。

その寿歌が2018年にSPACさんで観れる!!
どんな風になるのかな。案内のチラシ観た時からワクワクしていました。
チラシは
鏡でうつしたようなカラフルな、街の風景のようなお飾りの写真でした。
この同じ世界ではなく、異次元の世界を表しているのだろうか、と思わせるものでした。
舞台を組み立てている時のブログも見ました。
使わなくなったプラスチックを集めてカラフルなビニールを組み合わせている。

どんな世界か、ますます気になり、
そしてついに公演日になりました。
野外劇場「有度」。
その目の前に広がる不思議な世界。
木々の中にうかびあがるカラフルな「瓦礫」
メビウスの輪のような舞台。
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とても近代的なものでした。

そこに主人公「ゲサク」はすでにいました。
私たちが会場に入り、ざわついている時、満席なので、つめたりしているのにまったく気にせず、
すごく自然に舞台の上で寝て、くつろいでいました。
あそことこっち
時空が違うような気がしました。

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ゲサクとキョウコと、そしてヤスオさん。
なんだかやさしい3人組。
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核戦争後、まだミサイルが飛び交う廃墟を旅しています。
ヤスオさんは神様・・・のようなのですが、ちょっとたよりない怪しい感じです。
背中にムチの痕でしょうか。深い傷を負っています。ゴルゴダの丘を目指しているようです。
生命力ある木々での中でのその3人の様子は
なんというか水晶玉を通してながめているような、そんな気分になりました。

INO_190_寿歌

そして10代の頃では感じえなかった
生きることの寂しさ、むなしさも、作品を通して伝わってきました。

笑える。笑えるからどことなくちょっと寂しい。
命をかけても、一生懸命やってもせいぜいがその程度。

でも確かに現実ってそんなもの。

最後に、キョウコがヤスオのことを
「マボロシだった」と言っていたのですが、私は3人ともがマボロシのような気がしました。

大きな戦争があってみんな亡くなって、
ホタルたちは亡くなった人々の魂で
ゲサクとキョウコも魂だけが残ってメビウスの輪のようなあの道をずっとずっと終わりのない旅をしているのかなって。

核戦争
本当にあるかも、と、そんな時代になりました。
どこかが爆発したら、きっともう終わり。
もしも「その時」がきた時、私は灰になるのかそれとも「ホタル」になるのか。
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たきいみきさん演じるキョウコのやさしい歌声が耳に残って、
いつか自分が亡くなる「その時」も聞いていたいような気持ちになりました。

今回16歳の娘と観ました。
娘と私はやはり感想が違っていて、それを話すのもまた楽しい時間になりました。
ずっと心に残る、3人の物語です。
そしてまたいつか、観たいです。

追伸・・・ヤスオさんの太鼓・・・お水のボトル、
あんなにいい音が出るとは思いませんでした!!!楽器ですね。新発見でした。
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シアタークルー・かさまみちよ

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ひたちなかでの公演後、『寿歌』は今回のツアーのスタート地点でもある愛知県に戻り、知立市そして小牧市を巡ります。比較的近場ですので、是非皆様足をお運びいただき、野外公演とはひと味違った舞台をお楽しみいただければ、そして最後まで3人の旅を応援いただければと思います!

★☆★ 今後のツアー予定 ★☆★
https://hogiuta.com/

<茨城公演>
■日時:2018年6月8日(金)19:00
■会場:ひたちなか市文化会館小ホール
■料金:一般2,500円 U22 1,200円 
■問い合わせ:ひたちなか市文化会館 029-275-1122

<愛知・知立公演>
■日時:[劇場と子ども7万人プロジェクト]学校招待公演/2018年6月13日(水)~15日(金) 一般公演/6月16日(土)14:00
■会場:パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)花しょうぶホール
■料金:一般2,500円 25歳以下1,000円 
■問い合わせ:パティオ池鯉鮒 0566-83-8102

<愛知・小牧公演>
■日時:[劇場と子ども7万人プロジェクト]学校招待公演/2018年6月21日(木)・22日(金) 一般公演/6月23日(土)14:00
■会場:小牧市市民会館
■料金:一般2,500円 U25 1,000円 
■問い合わせ:こまき市民文化財団 0568-71-9700

blog 最終更新日:2018年6月1日 4:14 PM

【レポート】ふじのくに⇄せかい演劇祭2018(後半:5月3日~6日)

沢山のお客様とともに駆け抜けた「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」。舞台写真がそろいましたので、演劇祭後半を写真とともに振り返ります。

5月3・4日、静岡芸術劇場で上演された『シミュレイクラム/私の幻影』は、フラメンコの小島章司さんとコンテンポラリーダンスのダニエル・プロイエットさんによるデュオ。お二人のダンス、そして人生をじっくりと味わうような舞台でした。

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スペイン語、日本語、英語で丁寧に発せられる言葉、そしてダンスで物語を紡ぐ。

日本で生まれスペインでフラメンコ舞踊を極めた小島さん、そしてアルゼンチンで生まれヨーロッパで活躍し日本で歌舞伎舞踊を習得するに至ったプロイエットさん。この作品を日本で上演することには、お二人とも特別な思いがあったそうです。静岡公演用に台本にも手が加えられ、プロイエットさんの日本語のセリフも増えていました!

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細かく刻まれる力強いステップ、78歳とは驚くばかり。

後半は、歌舞伎舞踊の衣裳に身を包んだプロイエットさんが登場。小島さんの亡き母の幻影として、静かに舞い踊ります。二人の人生と出会いを飾ることなく舞台に乗せる、その強さを感じさせる作品でした。
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3日の午後、駿府城公園では「広場トーク」も開催されました。フェスティバル・ガーデンという野外の会場ならではのオープンな雰囲気で、「世界で勝負する舞台芸術とは?」をテーマに和やかなトークが展開しました。

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▲(向かって左から)司会の中井美穂さん、国際交流基金理事長の安藤裕康さん、Noism芸術監督の金森穣さん、そしてホストにSPAC芸術総監督の宮城聰

金森さんは、「今の時代を生きる“地球上の一芸術家”として、感じる苦悩や未来への意思に普遍性を見出したい。そこにあるのは言語の壁ではなく、世界の中の一個人という認識に立てるかという精神的な壁」だとお話しされました。その壁を打破する方法は、「自己否定。自分を培ってきたものを疑うことから始まる」と言う金森さんに対し、宮城は「僕は逆の作戦かもしれない。外から(外国人)からどう見られるか意識することで、彼らの方が一生懸命僕らをのぞき込んでくれる」という持論を展開。また安藤さんは、「世界の違うものと出会ったときに新しい衝突が起きて新しいクリエーションができていく、そこが芸術の一番大切なこと」だと、若いアーティストにもエールを送られました。
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▲トークに聞き入るたくさんのお客様
 
 
3日夕刻、駿府城公園でいよいよ開幕したのは『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』。

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▲市街の夕景をバックに上演が始まる

前日2日の大雨も上がり、3~6日の4日間はお天気に恵まれました!この時期ならではの夜の冷え込みはありましたが空には星も見え、満員の観客とともに一体感のある熱い舞台となりました。

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『マハーバーラタ』は2015年にも同じ駿府城公園で上演されていますが、その時よりもリング状の舞台の高さを少しだけ抑えられた分、駿府城公園の木々が近く感じられ、まさに「絵巻舞台」の一部に。リズミカルな生演奏と客席を取り囲むダイナミックな俳優たちの動きに、連日大きな拍手が送られました。

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4~6日、静岡市の繁華街にあるレストラン・フランセでは、メキシコのVaca35による『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』が上演されました。以前は結婚パーティなども行われていたフロアの昭和レトロな待合室で、開演前に演出家のダミアン・セルバンテスさんからラム酒が配られます。そして薄暗い場内に入ると、痩せぎすと巨漢の女優さんお二人がすでに向き合ってスタンバイ!極小空間に着席すると・・・、「カーン!」とゴングが鳴ったかと錯覚するほど唐突に、二人は大声でセリフをまくしたてせわしなく動き回り始めます。

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▲写真はゲネプロの様子

しかし倒錯した時間も束の間、つましく静かな日常の時間が訪れ、最後には二人肩を寄せ合い童話を語り始めます。小さい頃に読んだ本の1ページのように、いつかこの濃密な時間が心によぎる――そんな予感が胸に残る舞台でした。
 
演劇祭後半は、街にも演劇があふれました。
「ストレンジシード」は昨年よりも上演ステージを増やし、駿府城公園を中心に6カ所で16組のアーティストが様々なパフォーマンスを展開しました。公演の合間に全ては見尽くせませんでしたが、それぞれの場の特徴を活かしたパフォーマンスに、「演劇」という先入観なく、幅広い観客が楽しんでいる様子が印象的でした。

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▲商店街ステージ(七間町名店街~札の辻)を沸かせた「壱劇屋」の路上パフォーマンス

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▲「off-Nibroll+山中透」のパフォーマンスは芝生ステージ(駿府城公園内)の緑に映える。

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▲初登場の「ままごと」。街の風景をダイナミックに取り込んだ作品『Tour』(市役所ステージにて)
 
 
6日最終日。静岡芸術劇場の『ジャック・チャールズ vs 王冠』は1回だけの貴重な上演。
オーストラリア先住民に対する政府の人種隔離政策という負の遺産を、まさにその被害者の一人であるジャック・チャールズ本人が舞台上で語る。事実の重さもさることながら、本人がその場にいることの重みは、彼が明るく朗らかに語るほど身に迫ってきました。
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▲バンドの生演奏とともに、ジャックの明るい歌声が響く

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終演後、舞台を下りたジャックさんは、スタッフとの別れを惜しみながら「オーストラリアに帰ったら、収監者への厚生プログラムをもっと充実させていきたいんだ」と情熱的に語っていました。まるで舞台の続きを見ているようで、彼が舞台上だけでなく現実の中でも多くの人に希望を与え続けていることに改めて感銘を受けました。
 
 
そして6日の最終日は、満員御礼の『マハーバーラタ』をもって終了しました。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」へのご来場、誠にありがとうございました!
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大・小、そして野外など様々な劇場で上演された8演目、そして街中で行われたストレンジシードのパフォーマンスの数々。演劇と一口に言っても、その広さ、深度は計り知れないことを私たちスタッフも体感した7日間でした。

『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』は今秋、フランス・パリでの日本博「ジャポニズム2018」での上演を控えています。「ふじのくに⇄せかい」の名称のように、作品もまた静岡と世界を行き来し、多くのお客様との出会いを重ねていきます。
SPACの今後の活動にも、ぜひご注目ください。

◆ジャポニズム2018  https://japonismes.org/
公演日時 2018年11月19日(月)~25日(日)
会場 ラ・ヴィレット(仏パリ) https://lavillette.com/

◆SPAC年間ラインナップ2018年度⇒詳細はこちら

blog 最終更新日:2018年5月25日 9:32 PM

【シアタークルーレポート】『マハーバーラタ』

今年の演劇祭後半の目玉だったSPAC祝祭音楽劇の頂点『マハーバーラタ』。2014年には世界最高峰の演劇の祭典「アヴィニョン演劇祭」の公式プログラムとして招聘を受け、伝説の会場「ブルボン石切場」で上演。約1,000席の客席を連日満席にし、スタンディングオベーションの嵐を受けました。
その後も各地で上演を重ね、さらに深化した本作が、2015年以来3年ぶりに静岡・駿府城公園に登場。待ちわびたSPACファンをはじめ多くのお客様が詰め掛け、4公演全て満席となり、まさにせかい演劇祭の大トリを飾るにふさわしい盛り上がりとなりました。
本作の公演初日(5/3)の模様を、シアタークルーのペンネーム「IVY」さんが寄せてくださいましたので、紹介します。

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5月2日。『マハーバーラタ』(以下、『マハ』と略す。)の初日を明日に控えての大雨。宮城さんは雨男らしいので、流石といえば流石だが…明日の天気はどうだろうか…。

そして翌日。晴天ではないが雨は降らないとの予報。一安心。『マハ』初日のこの日はお昼に芸術劇場で『シミュレイクラム/私の幻影』が上演された。私はこれを観た後、『マハ』のために駿府城公園へと移動。私以外にも多くの人が『マハ』を観るため駿府城公園へ行く模様。

16時30分。『マハ』の開演は19時頃だが早めに来たのはフェスティバルgardenでの広場トークを聞くため。リラックスした雰囲気の中、安藤裕康さん、金森穣さん、宮城聰さんの3人で「世界で勝負する舞台芸術とは」というテーマでトークが行なわれた。テーマがテーマだけに演劇に興味のある私にとっては貴重なお話が聞けた。

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特に面白いと感じたのは金森さんと宮城さんで世界に対する考えや戦略が正反対だったこと。世界で戦うお二人はまた日本で数少ない芸術監督でもあるが、この違いは非常に興味深かった。

そして気付けば一時間が経過しトーク終了。

18時15分から同じくフェスティバルgardenでプレトーク。『マハ』に関しては多少の知識があったが、もちろんこれにも参加。プレトーク終了後、みんな仮設劇場に向けてぞろぞろと動き出し、チケットに記載された整理番号順に整列。

18時40分。お客様が今か今かと入場を待ちわびるなか、ようやく客席開場。私の番号は80番台というかなりいい番号。いつもどおり、宮城さんをはじめSPACのスタッフの方たちに温かく迎えられ客席へ。

野外さらに円形(ドーナツ型)という特殊な舞台。舞台の雰囲気も演劇というよりお祭り会場と表現したほうが近く、いつもとは違った演劇体験になるなと感じた。最初はパイプ椅子に座ったが、最前列の桟敷席が空いていることに気付いた私。せっかくなので最前列のど真ん中に座った。

お客様の入場が終わり、演奏開始。演奏に注目していると、俳優さんたちが列になって登場。この登場の仕方が非常に幻想的というか非日常を強く感じさせ、私はこの登場で『マハ』の世界に引き込まれてしまった。

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この劇では衣裳や小道具が白い折り紙を連想させるようなものだったり、また、この日は何かの綿毛(ポプラの綿毛らしい)がひっきりなしに舞い散っており、さらに劇を幻想的なものにしていた。

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途中には演奏タイムやCMなどが入り、どこかいつものSPACを思わせるような笑いも。そんなこんなで気がつくとあっという間にエンディング。最後はナラ王とダマヤンティ姫がみんなに祝福され大演奏で終了。

360度のリング状舞台ということで、いろんなところから俳優さんが登場し、そのたびに客席からは歓声があがったり、ネタでは笑い声が聞こえたり、最後は大拍手。帰るお客さんの顔を見るとみんな大満足の様子。

360度の大パラノマ、迫力ある生演奏、動きと語りどれも素晴らしく。まさに、SPAC祝祭音楽劇の頂点と呼ぶのにふさわしい作品だった。

シアタークルー ペンネーム IVY

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『マハーバーラタ』は、今秋フランスで開催される日本博「ジャポニスム2018」の公式プログラムとしてパリのラ・ヴィレットで上演されます。さらなる深化を続ける本作とSPACを、引続き応援よろしくお願いいたします!

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◆公演日時
2018年11月19日(月)~25日(日)
◆会場
ラ・ヴィレット(仏) https://lavillette.com/

※「ジャポニスム2018」の詳細はこちら
https://japonismes.org/

blog 最終更新日:2018年5月24日 6:02 PM

【シアタークルーレポート】『民衆の敵』

「ふじのくに⇄せかい演劇2018」が閉幕して2週間がたちました。おかげ様で今年は完売の公演も多く、例年以上の盛り上がりを感じました。

そんな今年の演劇祭における最大の目玉は、ヨーロッパ演劇界きっての人気演出家トーマス・オスターマイアーの『民衆の敵』ではなかったでしょうか?イプセンの社会劇をアクチュアルな問題作として立ち上げた本作。バンドの生演奏やペンキを使っての場転など随所にスタイリッシュとも言える演出が見られましたが、中でも町民集会の演説シーンで観客が町民に見立てられ、意見を求められるという演出は、劇中における「とある田舎町の公害問題」という以上に様々な問いを我々に投げかけたと感じます。

本作のレポートを、シアタークルーの野秋昂太さんが寄せてくださいましたので、ご紹介します。

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温泉専属医であるトマス・ストックマン博士は、温泉地の源泉が汚染されていることに気付き告発しようとする。しかし、兄の市長は町の経済のためにこの事実を隠そうとする。博士は兄に対抗するため集会を開くが、その内容はマスコミや周りに流される、多数派の市民を批判する内容だった。

原作では、上記のように社会への問題提起をする作風であるため、重々しいイメージを受けます。 しかし、今回の劇では役者のセリフやしぐさが笑いを誘うものが多く、社会派作品でありながら、エンターテインメントとしても楽しめる作品になっていました。

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上記の点や、テーマに沿った音楽の使い方も素晴らしい演出でしたが、何よりも一番観客を引き込んだのは、中盤のストックマン博士の演説です。

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原作では博士が民主主義を批判し、集会で集まった民衆から怒りを買い孤立するシーンになります。
しかし演出家のトーマス・オスターマイアーは、博士の主張が正しいかどうか、その場にいる観客に直接答えさせる試みを行いました。
それに対して思った以上に発言する観客が多く、演劇というより激しい議論のような雰囲気で、大いに盛り上がりました。
発言の中には、水俣病が起こった国として環境汚染に不安がある、博士の言い分には賛同できないがそうさせたのは周りが追い詰めたせいと、様々な意見が出ました。中には計画の見通しの甘さや、今後の調査内容について激しく追及したときは、会場に一番の笑いと拍手が起こりました。
私は二日間とも見ましたが、上記の試みから新鮮な気持ちで楽しむことができました。公害や原発事故が起こった日本だからか、環境問題の観点から博士への賛同の声が上がったのは興味深かったです。もし日本以外の国だったらどういう意見が飛び出るのか?時代や国によってそれぞれ違った発見ができそうです。

シアタークルー 野秋昂太

blog 最終更新日:2018年5月6日 11:31 AM

【シアタークルーレポート】開幕式

「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」も残すところあと1日となりました!
どの公演も本当に多くのお客様がご来場くださり、例年以上の盛り上がりを感じる演劇祭となりました。
あまりに濃密だったので、開幕式が遠い昔のように感じてしまうほどですが…クルーのかさまみちよさんが、開幕式の模様をレポートしてくださいましたので、ご紹介します♪
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シアタークルー1年目のかさまみちよと申します。
今回私がうけたミッションは、開幕式の様子、舞台『寿歌』の前後、フェスティバルbarの様子をビデオカメラに収める、ということでした。

開幕式は野外劇場前広場で行われました。
私も初参加なのでドキドキわくわくしていました。

はじまる前に、「お茶でもどうぞ」という呈茶サービスがありました。
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静岡県のマスコットキャラクター「ふじっぴー」が、宮城聰SPAC芸術総監督と記念撮影をしています。
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簡易座布団を受け取ったお客様が、野外劇場前広場に座りはじめました。
そのお客様たちの目を最初に楽しませてくれたのはマスコットキャラクターペア、ふじっぴーと、すぱっくん。
すぱっくんが数歩あるくとふじっぴーがついてきて、ふりむくと止まる。
また歩くとついてきて、ふりむくと、止まる

また…
その様子にお客様も一緒に笑ってらっしゃいました。
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ふじっぴーは人気者です。

そして開幕式はスタートしました!!
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最初に、宮城さんからのご挨拶がありました。

文化にはいろいろな「ものさし」がある、「ものさし」がこんなに色々あることを楽しむ。
こんなものさしもあるんだ、という「ものさし」を増やしていく面白さについて話されていました。

挨拶が終わる頃、しげみの向こうからにぎやかな音がして…茶っきり節が!!
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『マハーバーラタ』に出演するSPACの俳優さん14名によるオープニングパフォーマンス「喫茶去(きっさこ)」始まりました。喫茶去(きっさこ)とは現代用語にすると「お茶でもどうぞ」ということなのだそうです。
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澄んだ歌声のあとに全員で太鼓(ジャンベ)の演奏。
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お客様も大喜び。
一緒にひざで拍子をとられている方もいらっしゃいました。

そして…スペシャルゲスト
静岡県の川勝平太静岡県知事が衣裳を着て中国の高僧として登場されました。
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中国は宋の時代、仏教の書に書かれた伝説の高僧、趙州和尚の言葉を元に構成したものです。
徳の高い和尚が訪れた客人には誰でも喫茶去(きっさこ)「さあお茶でもどうぞ」と招いたことから「ふじのくに⇄せかい演劇祭」、さらには新茶の香り高い静岡にお越しくださいました皆さまへの心からの歓迎の気持ちをこのパフォーマンスに込めました。

とのことでした。

次に川勝知事よりご祝辞を賜りました。

貴賤、貧富、職業、いっさい関わりなく誰にでもお茶をふるまった趙州和尚は120歳まで生きたといわれています。お茶を飲みますと健康寿命が長くなる。私たちは茶の都として、すべての人々に対しましておもてなしの気持ちを表すべく、この喫茶去(きっさこ)を始演式としてお見せした次第です。我々は演劇、スポーツを通して世界を平和にしていこうではありませんか。

と、話されました。

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開会式が終わると、お客様はチケットに書かれた整理番号順に広場前に並びました。

皆さん、わくわくした顔をされています。
日が少しずつ暮れはじめた頃、開場時間がきて入場となりました。
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開場や開演時間も演出上計算されつくしているのだそうです。
そして『寿歌』舞台がはじまりました(寿歌については長くなるので別レポートでご紹介します)。

舞台終了後は、フェスティバルbarが開催されている休憩所「カチカチ山」へ行きました。
色々美味しそうなものが販売され、お客様たちは、舞台の感想などを話したり、余韻に浸っているようでした。
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シアタークルー かさまみちよ

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