blog 最終更新日:2018年3月29日 7:54 PM

『夢と錯乱』ふたたび光を見出すためには、一度死を経験しなければならないときもある

SPAC文芸部 横山義志

『夢と錯乱』は最後の作品になる、と演出家クロード・レジは言っています。もうこの先、自分が納得のいく作品は作れないだろうから、と。レジさんは今94歳。もうすぐ95歳になります。

個人的な話になりますが、フランスに留学していたころ、毎年レジさんの作品を観に行くときだけは、とにかくその瞬間に集中できるように、一週間前から生活のリズムと体調を整えて、なるべく一人で、一時間前には劇場に着くようにしていました。そして終わったら、なるべく人に会わないように劇場を出て、余韻を持ち帰ろうとしたものでした。

はじめてレジさんの作品を観たときの衝撃は、今でもよく憶えています。ほとんど生理的に耐えがたいような経験でした。でも、この経験は自分のうちの何かを開いてくれるものだ、という直観がありました。この経験を受けとめられるようになれば、何か違うものが見えてくるのではないか、と感じたのだと思います。舞台作品を見て、この作品を受け止められるような人間になりたい、と思ったのは、これが初めてだったかもしれません。

全てが溶けてしまったような、まったくの暗闇がつづき、時間がどれくらい経ったのかも分からなくなる頃、ぼんやりと、少しずつ、人影が見えてきます。ベンチに座った男女、と気づくまで、何分かかったのかも分かりません。全く動かない人影。よく見ると、少しずつ口を開いているようです。男が本当に小さな声でつぶやくのが、大きな地響きのようにすら感じました。ヨン・フォッセ作『誰か、来る』という作品で、1999年のことでした。

それ以来、レジさんの作品を日本で紹介するのが、私の夢のようなものになっていました。落ち着きのないフランスの観客よりも、日本の観客の方が、このレジさんの世界を受けとめてくれるのではないか、という気もしていました。とりわけ、これから作品を作っていく世代に、こんな世界もありうる、ということを体感してもらいたいと思っていました。

それから、いろいろな偶然が重なって、2007年からSPACで働かせていただくことになりました。レジさんの作品に出会っていなかったら、現場で働くことを選んでいなかったかも知れません。でも、実際に劇場で働く側になってみると、こんな作品を上演するのがいかにリスキーなことかも分かってきました。

2009年のアヴィニョン演劇祭でレジ演出、フェルナンド・ペソア作『海の讃歌』を観たあと、一緒に観た宮城さんと制作スタッフと三人で、夜中の3時くらいまで、この作品を招聘することがありうるか、延々と議論して、結局「やっぱり無理じゃないか」という結論に至りました。男が一人、ほとんど暗闇のなかで、一歩も動かず、二時間ペソアの詩を語りつづける、という作品でした。そのときは、たしかに無理かもな、と思って、諦めていました。それから紆余曲折あって、2010年の演劇祭で上演できることになりました。その初日、水を打ったように静かな楕円堂の客席から、終演後一呼吸、二呼吸置いて、割れるような拍手が響いたときには、本当にこの劇場で働いていてよかった、と思いました。お客さんはもちろんですが、こんな作品を好きになってくれるスタッフがこれだけいる劇場というのも、世界中探しても、なかなかないでしょう。それに、日本平の山のなかで、舞台芸術公園の木立の下を一番奥まで歩いて、さらに地下に降りていかないとたどりつけない楕円堂ほど、この作品にふさわしい劇場はなかなか見つからなかったと思います。

それから、まさかレジさんと一緒に作品を作れることになるとは思いませんでした。レジさんが楕円堂でSPACの俳優とともに作り上げたメーテルリンク作『室内』は、2014年に初演されてから、アヴィニョン演劇祭、フェスティバル・ドートンヌ(パリ)、ウィーン芸術週間、クンステン・フェスティバル・デ・ザール(ベルギー、ブリュッセル)、アジア芸術劇場オープニング・フェスティバル(韓国、光州)、神奈川芸術劇場と世界各地で上演されました。作品のために最良の環境を求めて、なかなかフランスの外に出ようとしなかったレジさんが、日本平で作品を作ったことをきっかけに、これだけあちこちに足を運んでくれたのも、とてもうれしく思いました。フランス演劇の極北ともいえる歴史が、こうしてアジアとつながったのも。

レジさんはフランス演劇史のなかで最もクレイジーな演出家の一人、アントナン・アルトーの弟弟子でもあります。二人とも、シャルル・デュランという戦前のフランス演劇を代表する演出家の一人に師事していました。レジさんがパリの劇場で仕事をはじめたころ、劇場には馬小屋があって、デュランは馬で通っていたといいます。その後演出家として独立してからは、古典戯曲の読み直しによる再演が主流のフランス演劇界にあって珍しく、現代作家による新作を中心に演出活動をつづけてきました。マルグリット・デュラスやナタリー・サロートなどのフランスの作家だけでなく、イギリスのハロルド・ピンターやサラ・ケーン、ドイツのボート・シュトラウスやオーストリアのペーター・ハントケ、ノルウェーのヨン・フォッセやタリエイ・ヴェースオースなど、レジの演出によってフランスで知られるようになった作家は少なくありません。

レジさんがゲオルク・トラークルの詩『夢と錯乱』に興味を持っているという話は、もう何年も前から聞いていました。他にもいくつか、やりたい作品を考えていらしたようで、まさかこの作品が最後になるとは思いませんでした。最後の作品として、若くしてほとんど無名のうちに亡くなった、このかなりパンクな詩人の作品を選んだのは、レジさんらしいという気もします。

ヤン写真(プレス発表会)

3月15日の記者会見には、香港公演を終えた俳優のヤン・ブードーさんが駆けつけてくれました。ヤンさんは「テクストには書かれていることと、書かれていないことがあります。詩人が言葉にできたことと、言葉にできなかったこと、あるいはあえてそうしなかったこと。その両方を、俳優はその身体を通じて、感じとることができなければならないのです」とおっしゃっていました。

トラークルが死の数ヶ月前に書いた、日本語で10ページにも満たない詩のなかには、27年の短い生涯の中で、詩人が感じた苦悩と歓喜とが凝縮されています。ヤンさんは「ふたたび光を見出すためには、一度死を経験しなければならないときもある」ともおっしゃっていました。一度は俳優をやめて農業をやっていたことがあるヤンさんにも、そんな時期があったのかも知れません。レジさんの作品もトラークルの詩も、観てから時間をおいて、人生の節目で脳裡に蘇ってくるような、ちょっと時限爆弾のような作品だと思います。

レジさんの作品には録画はなく、劇場でしか体験できません。楕円堂での公演はあっという間に満席となってしまいましたが、まだキャンセル待ちもございますし、京都公演もあります。観ないといけないような気がしてきた方は、なんとかぜひ試してみてください。

 

 

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『夢と錯乱』
演出:クロード・レジ
作:ゲオルク・トラークル
仏語訳:ジャン=クロード・シュネデール、マルク・プティ(ガリマール社)
出演:ヤン・ブードー
製作:アトリエ・コンタンポラン

4月28日(土)16:00開演、20:30開演、29日(日)16:00開演、30日(月・祝)20:30開演
舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」
*詳細はこちら

*京都公演(5月5日、6日)についてはこちらご参照ください。
ドキュメンタリー映画『クロード・レジ:世界の火傷』の上映(4月21日)もございます。

関連記事:
レジ『彼方へ 海の讃歌』奮戦の記/横山義志(2010年)
『彼方へ 海の讃歌』公演情報
●不定期連載 クロード・レジがやってきた(1)~(6)/横山義志(2013年、『室内』クリエーションに向けて)
(1) (2) (3) (4) (5) (6)
『室内』出演俳優によるヨーロッパ・ツアー レポート(2014年)
『室内』 最終公演を終えて/横山義志(2015年)
『室内』公演情報(2015年)
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blog 最終更新日:2018年3月26日 12:14 PM

『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』女優二人の格闘演技!

こんにちは。
今回のブログでは、制作部の雪岡から『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』の見どころをご紹介します。

メキシコから招聘される本作のいちばんの見どころは、目の前で繰り広げられる女優二人の体当たり演技です!

冒頭のシーン、一方は使用人のように水周りでせっせと働きますが、もう一方はご主人さまのようにこき使い、あれやこれや横から口を出し、次第に言い争いへと発展していきます。

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激しいぶつかり合いにハラハラしますが、実はこのけんかは、けんかをしているふりの「ごっこ遊び」! つまり、演技で、「劇中劇」のようなものです。

ジャン・ジュネの戯曲『女中たち』の設定が借りられていて、二人の女中が奥さまの留守中に、一人が奥さまの役、もう一人が女中の役を演じるという「ごっこ遊び」が興じられていたのでした。

皆さんも、学校にいる変わった先生や会社の上司など、仲間とモノマネをして遊んだりしていませんか? 恐らく彼女たちもそんなノリで鬱積した気分を発散し、日々を楽しんでいるのかもしれません。

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女子プロレスさながらに、熱気ムンムン、気持ちも身体もぶつけ合う、手加減なしの格闘演技が続いていきます。

しかし演技の熱が冷めると、狭く薄汚い部屋に転がるのは、貧しい現実と孤独。貧困という境遇の中で闘いながら生きているようです。それでも、共に過ごす人がいれば大丈夫!

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ふざけ合いながらお皿を洗うこともあれば…、

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くだらないことで張り合い、競って掃除をすることもあれば…、

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大げんかでこみあがり、涙をこぼしながらご飯を食べることもあったり。

そして…

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彼女たちの生活は、「ごっこ遊び」やフラメンコの音楽と踊り、

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おやすみ前に語る「おとぎ話」など、
自分を少し高めてくれたり、心を豊かにしてくれる、劇的な瞬間で溢れています。
姉妹のような、悪友のような、睦み合う姿はなんだか微笑ましくておもしろい!

 
 

最後に上演会場についてもご紹介します。
会場となる「レストラン フランセ」は、静岡市内の七間通りに佇むビルで、昭和30年代に建てられました。かつて2階はレストランとして、3階は結婚式場としても使われていたそうです。ちなみに1階ではパン屋さんが営業されており、美味しいパンが食べられます。

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▲ 「レストラン フランセ」外観

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▲ 上演会場の3階フロアへと続く階段

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▲「レストラン フランセ」3階の様子

どこか懐かしく落ち着いたレトロな空間での、女優の二人芝居にどうぞご期待ください!

 

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『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』
演出・作:ダミアン・セルバンテス
製作:Vaca35 (バカ35)
5月4日(金・祝)16:30開演、5日(土・祝)13:30開演/16:30開演、
6日(日)16:30開演
レストラン フランセ 3F (静岡伊勢丹向かい)
*詳細はこちら
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blog 最終更新日:2018年3月21日 11:49 AM

東京プレス発表会を開催しました!

3/15(木)に<ふじのくに⇄せかい演劇祭2018 東京プレス発表会>を開催。 多くのプレス関係者、演劇・劇場関係者の皆さまにご出席いただき、盛況のうちに終了いたしました。 その様子をこちらでも少しご紹介します♪ 今年の会場は、ゲーテ・インスティテュート東京(東京ドイツ文化センター)の図書館。 ドイツ語やドイツ関連の書籍に囲まれた、明るい会見場となりました。

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今回はゲスト登壇者に、『夢と錯乱』にご出演の俳優、ヤン・ブードーさん、『シミュレイクラム/私の幻影』にご出演される舞踊家の小島章司さん。 そして、ゲーテ・インスティテュート東京の所長、ペーター・アンダースさんをお迎えし、皆さんのお話しを交えながら今年のラインナップをご紹介しました。

まずは、約13年ぶり!待望の来日となるトーマス・オスターマイアー氏率いるベルリン・シャウビューネの『民衆の敵』。 ドイツ演劇界の大スターでもあるオスターマイアー氏のメッセージビデオをご覧いただき、ゲーテ・インスティテュート東京 所長のアンダースさんから作品の見どころについてお話しいただきました。(メッセージビデオは追ってアップいたします!)

②

③
▲右:ペーター・アンダースさん、中央:小高慶子さん(通訳)

続いて、SPACとも固い絆で結ばれたフランス演劇界の至宝、クロード・レジ演出の『夢と錯乱』について、ブードーさんにお話しいただきました。 ブードーさんは、1996年にクロード・レジさんのワークショップに参加して以降、レジさんの作品に多数ご出演されおり、今回は香港での公演を終えたその足で、このプレス発表会のために駆け付けてくださいました!

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▲左:ヤン・ブードーさん、右:SPAC文芸部 横山義志(通訳)

そして、フラメンコ界のレジェンド、舞踊家の小島章司さんのお話しを交えながら、『シミュレイクラム/私の幻影』をご紹介。 演出のアラン・ルシアン・オイエンさん、共演のダニエル・プロイエットさんとの、数年に渡った創作の様子についてお話しくださいました。

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▲小島章司さん

宮城演出の『寿歌』『マハーバーラタ~ナラ王の冒険』を含む、全8作品のご紹介のほか、「ストレンジシード」のプログラムディレクター、ウォーリー木下さんほか、参加アーティストの皆さんからのメッセージビデオをご覧いただきました。
早速、プレス発表会の様子をステージナタリーさんが記事にしてくださいましたので、あわせてご一読ください♪ https://natalie.mu/stage/news/273792

blog 最終更新日:2018年3月21日 12:26 PM

『ジャック・チャールズ vs 王冠』ジャックおじさんの波乱万丈物語

こんにちは、陶芸をかじっていた音楽好きの制作部の林よりお届けします。
この作品の見どころは、なんといってもジャック・チャールズ!
とてもチャーミングなジャック!のワンマンショーです!
彼はベテランの俳優であり、ミュージシャンであり、現在はエンターテイナーとしてオーストラリアで大活躍していますが、壮絶な幼少期を過ごしました。彼はオーストラリア先住民の子孫として生まれたのですが、政府が施行した同化政策によって、彼の人生は家族と引き離されて生活をするところからはじまります。人種差別的な政策の犠牲者となりながらも、現在は舞台や映画、音楽、陶芸で人々の心を癒しています。どんな境遇の元に生まれても、自らの持てる才能を力一杯に表現することで希望を見出すことができると強く思える作品です。

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ジャックが犯罪に手を染めるようになった原因でもあるとされる「同化政策」。1869年~1970年頃まで、オーストラリアでは先住民の子どもや白人と先住民との間に生まれた混血の子どもに対して、白人社会へ同化させようと、強制的に親から引き離し、強制収容所や孤児院などの施設に収容したり、白人家庭の養子にしたりするなどという児童隔離政策が行われていました。その子どもたちは「ストールン・ジェネレーション」(盗まれた世代)と言われているのですが、ジャック・チャールズもそのうちの一人なのです。生後4ヶ月で親から引き離され児童収容施設で少年時代を過ごしました。その後、あるとき知り合いになった同年代の子が自分の兄弟姉妹で、彼らから自分の生みの親や親戚の事、自身のルーツを知ります。そのことを喜びながら白人の育ての親に言ったところ、激怒されてしまい教護院に送られてしまいます。その頃からジャックは自身を受け入れてもらえなかった寂しさや孤独からでしょうか、薬物、窃盗、不法侵入など様々な犯罪に手を染め、ついには刑務所を出たり入ったりの生活に陥ります。そして、ジャックは刑務所の中で陶芸や音楽に出会います。

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上の写真で、ジャックがろくろを回しているのに気がつきましたか?なんとこの作品は彼が陶芸のろくろを回すシーンから始まります。ジャックは刑務所で服役していた時に陶芸の技術をみにつけたのだそうです(写真は陶芸の窯に座るジャック)。腕前は確かなもので刑務所でも陶芸ワークショップを開いていたとか!技術はオーストラリア先住民のドリーミングという思想で自分と霊的に繋がりのある鷲が、刑務所にいたジャックを見つけて授けてくれたものであるとジャックは言っています。土は先住民の土地のもの。土の匂いとか、手触りを感じながらジャックは陶芸を通してオーストラリアの太古からの大地やご先祖さまと繋がっているのかもしれませんね。

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さてさて、ミュージックショーの時間ではジャックにとにかくしびれてください!歌うジャック。こちらも服役中に自分の音楽の才能で人々を幸せに、おだやかにできると知ったのだとか。この溢れ出る音楽の才能を目の当たりに体感できる上演が楽しみでなりませんね。音楽監督はナイジェル・マクレーンなのですが、ジャズピアニストのジョー・チンダモ等ともヴァイオリンで共演しており、日本へも度々来日しています。そのほかフィル・コリングスのパーカッション、マルコム・べヴァリッジのベースとジャズを聴く方でしたらその名前も知っているかもしれませんね。この作品は、音楽好きの方(ジャズやブルースやファンク)にも響くのではないでしょうか。

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ジャックを追ったドキュメンタリー映画『バスターディ(Bastardy)』という作品があります。この作品が英国で上映される事になり、トークゲストとしてジャックは招かれていましたが、数々の自身の犯罪歴からビザの発給を拒否されてしまいます。象徴的にでてくる番号3944は犯罪者としてのジャックに割り当てられた記録番号。その番号は国王から与えられたものだとジャックは議論をします。ジャックは、この時にはすでに更生し、薬物や犯罪とは無縁で、慈善活動も積極的にしていました。しかし過去の犯罪歴は現在の生活に影響を与え、この番号が社会生活の障害となっています。ジャックはこの番号がいまだに与える不利益を解消して欲しいと法廷に立ちます。白人がオーストラリアを植民地にしたのに、犯罪歴を理由にジャックが英国に入国するのを拒否するのは矛盾していると訴えます。この戦いは決着がつくのでしょうか・・・(この先は見てのおたのしみです)。

モノクロだった時代を自らの力で色を塗り続け、時には黒のインクが落ちて再度犯罪に手を染めた時もあったのでしょうが、なんども溢れ出る才能の鮮やかな色が塗り重ねられた色は誰にも到達することのできない味わいを醸し出しています。ジャックの生きた人生をこの作品で体験してみてください。終演の頃には元気がでてくると思います。

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上演日は5月6日(日)13時より静岡芸術劇場にて1日限りの上演です。
お見逃しなく!

 

*こちらから舞台映像の抜粋をご覧いただけます。↓

 

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『ジャック・チャールズ vs 王冠』

演出:レイチェル・マザ
作:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル
音楽監督:ナイジェル・マクレーン
出演:ジャック・チャールズ、ナイジェル・マクレーン(ギター・ヴァイオリン)、フィル・コリングス(パーカッション)、マルコム・ベヴァリッジ(ベース)
製作:イルビジェッリ・シアター・カンパニー

5月6日(日)13:00開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら 
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blog 最終更新日:2018年3月10日 4:15 PM

『リチャード三世〜道化たちの醒めない夢〜』 猪と薔薇のダークヒーロー

リチャード、エドワード四世、クラレンス、アン、エリザベス、ヨーク公爵夫人、皇太子エドワード、ヨーク公リチャード、バッキンガム公、ヘイスティングス卿、ケイツビー、グレイ卿、リヴァーズ伯、ドーセット候、ロンドン市長、暗殺者・・・。
沢山のカタカナが並んで目がチカチカするかもしれませんが、全て4月28日(土)から開催される、「ふじのくに⇔せかい演劇祭2018」で上演される『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』の登場人物です。

申し遅れましたが、私は今回の演劇祭で『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』を担当している制作部の太田垣です。
さて、これだけの人数が登場する作品なんて「かなり大きな規模の作品なのではないか?」と思われるかもしれませんが、ジャン・ランベール=ヴィルドは、数々の演出家が挑んできたこのシェイクスピアの問題作を大胆にも二人芝居に仕立て、一人が主人公のリチャード、もう一人が他のすべての役を演じ分ける、という斬新な切り口で新しいリチャード三世の物語を創りあげました。

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

上の写真の白塗りの道化姿、気になりますよね。 実は本作のもう一つの大きな特徴は「二人の道化が芝居小屋で『リチャード三世』の芝居を演じている」という劇中劇の設定である、ということなのです!
二人の道化の悪ふざけのような雰囲気の中物語は進んでいくのですが、道化とリチャードのアイデンティティーは次第にダブりはじめ、彼らの運命の歯車は軽快にそしてとても残酷に急降下を始めます。 最後に観客の心に残る感情はどんなものなのでしょうか・・・?

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

演出・主演を務めるジャンさんが道化の姿で舞台に立つのは初めてではありません。
と言うよりも、ジャンさんが舞台に立つときはどんな作品でも道化の姿なのです。
なかなか不思議な話に聞こえるかもしれませんが、気付いた時にはこの道化のキャラクターは既に自分の中に存在していたそうで、ジャン自身の一部であり、常に共に切磋琢磨してきた関係であることをインタビューの中で語っています。
また相手役のロール・ヴォルフさんも同じく白塗りの道化姿で登場し、何人もの人物をダイナミックに演じ分けます。 まるで息をするかのように自然に様々な役を行き来するその姿は鳥肌ものです!変貌自在とはまさにこのこと・・・。

写真3

左の写真はこの『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』のフランス公演のポスターです。(出典 :Toute La Culture.com)

血に染まる白薔薇を咥えた猪の写真にジャンさんの眼に映るリチャード像のヒントがありそうです。
もともとリチャード三世という人物像に強く惹かれていたというジャンさん。
リチャードの厳しく一徹な性格や、自身への忠誠心を持っているところに深く共感し、そこに「彼がただの悪漢ではなく、ダークヒーローとして存在できる理由がある」と語っています。

リチャードの旗印は白い猪、銘は「Loyauté me lie(我が忠誠心が我を縛る)」だったことからも、自分の信念に忠実に猪突猛進の姿勢で生き抜いた彼の生き様を思い知ることができます。

 

 

最後に特筆しておきたいのは、舞台美術についてです。このグロテスクなおもちゃ箱のような舞台美術とクライマックスに登場するリモージュ焼きの鎧、写真の中でも大変目を引きますね!

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

デザインを手がけたステファヌ・ブランケさんはフランスを代表するビジュアルアーティストの一人で、そのグロテスクで毒っ気を含んだ作風は世界中で多くの人に支持されています。
2010年に東京で開催された個展もかなりの話題になりましたし、2011年にSPACで上演されたジャンさんの『スガンさんのやぎ』でも舞台美術を手がけていたので、彼の名を耳にした人もいるのでは?

ジャンさんの故郷のレユニオン島は、ヨーロッパやアジアなどの文化が混在し、自然の美しさと厳しさを兼ね備えた南インド洋に浮かぶ火山島です。 そんな島で育ったジャンさんの無国籍、かつアニミズム的な感性と世界観を舞台美術を通して代弁してきたステファヌさん。
二人は10年以上も共に共同創作してきた仲で、ジャンさんが芸術監督を務めるテアトル・ドゥ・リュニオン-リムーザン国立演劇センターのビジュアル部門監督をステファヌさんが任されている事からも、二人の深い信頼関係が伺い知れます。
二人のコラボレーションにも是非注目してみてください。

こんなにもチャーミングな見どころ満載の『リチャード三世~道化たちの醒めない夢~』の日本初演まで、残り約一ヶ月半です。 お時間のある方は、事前にシェイクスピアの原作を読んでからご来場いただけますと、より一層楽しい観劇となると思います。 それでは劇場でお会いしましょう!

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『リチャード三世~道化たちの醒めない夢~』
協同創作:ジャン=ランベール・ヴィルド、エロディ・ボルダス、ロレンゾ・マラゲラ、ジェラルド・ガリュッティ
原作:ウィリアム・シェイクスピア
舞台美術:ステファヌ・ブランケ
4月28日(土)・29日(日)13:00開演、30日(月・祝)11:00開演
舞台芸術公園BOXシアター内
*詳細はこちら
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