blog 最終更新日:2018年4月9日 1:34 PM

『シミュレイクラム/私の幻影』東京での稽古にお邪魔してきました!

桜満開、全国的に夏日となった某日、出演者のダニエル・プロイエットさんが来日し、東京都内にある小島章司フラメンコ舞踊団の稽古場でリハーサルをされるとのことで、取材の立ち合いも兼ねて見学しに行ってまいりました!

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小島さんのご友人が描かれたという絵画がたくさん飾られていて、異国情緒ただよう雰囲気のあるとても素敵なスタジオでした。 午前中、稽古場に到着するとダニエル・プロイエットさんがお出迎えくださり、色々とお話しを伺うことができました。 ダニエルさんは、アルゼンチン・コロン劇場のバレエ学校のご出身で、同級生には現・英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、マリアネラ・ヌニェスなど、名だたるダンサーたちと幼いころから切磋琢磨しながら、クラシックバレエを学ばれました。現在、コンテンポラリーダンサーとして第一線で活躍されていて、2012年にはシディ・ラルビ・シェルカウイによる漫画家・手塚治虫をモチーフにした作品『TeZukA』に出演し、その名を日本でも広く知らしめました。 その『TeZukA』のなかで、ダニエルさんはピノコや奇子(あやこ)といった女の子のキャラクターを演じることが多かったらしく、それを観た日本のプロデューサーの方より歌舞伎舞踊の女形を勧められて、それ以降ライフワークとしてずっと続けていらっしゃるそうです。 そんなダニエルさんは、振付家としても注目を集めており、同じく5月に、東京・オーチャードホールで開催されるウィーン国立バレエ団のヌレエフ・ガラで振付を手掛けた作品が上演されるとのこと。http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/18_wiener/

午後には、小島章司さんも稽古場にいらっしゃり、『シミュレイクラム/私の幻影』のワンシーンを稽古。

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これまで、ノルウェー・オスロ、アメリカ・ヒューストン、そしてフランス・パリでこの作品は上演されましたが、それぞれの国の言葉を組み込んできたらしく、今回は小島さんだけでなくダニエルさんも日本語で台詞を喋ります。そのシーンをちょっと見せていただきましたが、とてもお上手!2012年以来、度々来日されて藤間流の教室でお稽古を受けていらっしゃることもあり、その場にいる誰よりも“日本人”らしいオーラが漂っていました。 小島さんも「70代後半になった自分に新しい刺激を与えてくれる」と仰っていましたが、2012年にダニエルさんと演出のアランさんと出会って以降、ノルウェーやフランス、アメリカでワークショップやクリエーションを行い、作中では日本語のみならず、スペイン語、フランス語、英語で台詞を喋るなど、新しい挑戦をたくさんされたのだとか。 そんな小島章司さんよりメッセージをいただいていますのでご覧ください♪

2016年の初演から各国を巡演し、進化(深化)し続けている『シミュレイクラム/私の幻影』に、乞うご期待ください!

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『シミュレイクラム/私の幻影』
演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン
歌舞伎舞踊振付/音楽『Natsue』:藤間勘十郎
出演・振付:小島章司、ダニエル・プロイエット
製作:ウィンター・ゲスツ
5月3日(木・祝)12:30開演、4日(金・祝)12:30開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら
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blog 最終更新日:2018年4月7日 7:24 PM

『民衆の敵』「私たちにとってよいもの」とは何か

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文芸部 横山義志

トーマス・オスターマイアーとはここ10年近く、毎年のように出会い、毎年のように作品を観てきて、何度も「次は静岡で」という話をしてきたので、ようやく実現できて、ちょっと感慨深いです。

オスターマイアーはアヴィニョン演劇祭で毎年のように作品を発表しています。ドイツ国外で最もよく知られたドイツの演出家の一人でしょう。でも、日本で作品を紹介するのは実に13年ぶりだと言います。

そういえば、はじめてのオスターマイアーとの出会いは、ちょっと不思議なものでした。アヴィニョンの郊外に、上演時間が何時間もある作品を観に行ったのですが、途中で市内に帰らなければならなくなりました。一人で劇場の外に出たもののタクシーもつかまらず、途方にくれていると、同じく劇場から出て来た人が車に乗ろうとしていたので、声をかけてみました。振り向くとサングラスをかけた大男で、快く乗せてくれました。ドイツ訛りのフランス語を話し、大きなドイツ車を運転している姿を見て、どこかで見かけたような気がして、「アーティストの方ですか?」と聞いたら、「トーマス・オスターマイアーです」とおっしゃって・・・。それから会うたびに、次にいつ日本でできるかな、という話をしたものでした。

壁が崩壊した直後のベルリンで激動の時代に青年時代を送ったオスターマイアーは、1999年に若干31歳で西ベルリンを代表する劇場シャウビューネの芸術監督になりました。日本では2005年に『ノラ』と『火の顔』を上演しています。イプセン『人形の家』の翻案『ノラ』では、ヒロインのノラが幕切れで夫と子どもを置いて出て行くかわりに、夫を撃ち殺してしまう場面が話題になりました。オスターマイアーが古典となった作品を上演するときには、つねに「それが発表されたときの衝撃を今の観客に体感してもらうにはどうすればよいのか」という問いかけがあるようです。

ノルウェー出身のイプセンは、シェイクスピアに次いで、世界で二番目に多く上演されている劇作家です。オスロ大学が6000近いイプセン作品の上演について調査したところ、オスターマイアーはイプセンの演出において最も影響力のある演出家であることが分かったといいます。オスターマイアーがツアーで回った都市では、別の演出家が同じイプセン作品を手がけるケースが多い、というのです。なぜそうなるのでしょう。

オスターマイアーははじめてイプセンの戯曲を読んでみたとき、「なんだ、お金の話ばかりじゃないか」と思ったのだそうです。イプセンの作品が私たちの心に迫るのはまさにそのためだろう、とオスターマイアーは言います。今の社会では、多くの人が今ある地位を失い、収入を失う恐怖のなかで暮らしています。近代以降の社会において、私たちは生まれながらの家族関係や身分や地縁から比較的自由になった反面、仕事とお金に大きく依存して生きています。仕事もお金も、ちょっとした社会的・経済的状況の変化によって、いつ失われるか分かりません。『民衆の敵』も、誰もが抱えているそんな恐怖についての作品でもあります。

はじめて『民衆の敵』を観たのは2012年のアヴィニョン演劇祭でした。今でも、ディスカッションの場面の興奮をよく憶えています。主人公の医師トーマスは温泉町の源泉に工場排水が混入していることに気づき、対策を呼びかけます。町民たちは、はじめはトーマスの研究を賞讃するのですが、その解決のためには数年間温泉を閉鎖し、多額の費用をかけて大工事をしなければならないことが分かると、掌を返したように離れていきます。温泉を閉鎖してしまうと商売が成り立たなくなる、というわけです。トーマスは多くの町民から敵視されながらも、集会を開き、町民に向かって最後の訴えをしようとします。その場面で、観客は町民となり、議論に巻き込まれていきます。東日本大震災のあとだったこともあり、日本ではどんな議論になるだろうと想像させられました。

『ハムレット』、『リチャード三世』、『マリア・ブラウンの結婚』など、記憶に残る作品はいくつもありましたが、昨年アヴィニョンでオスターマイアーと話したときに、やはり『民衆の敵』をやろう、という話になりました。今、日本で上演すべき作品はこれだろう、と思ったのです。でも日本だけでなく、この作品がこれだけ世界中で上演されてきたのは、きっと今、世界中で、経済と民主主義との折り合いが難しくなっていることが実感されてきているからでしょう。

この意味で、オスターマイアーの『民衆の敵』という作品は、ドイツにおける劇場の公共性という理念を体現している作品ではないかとも思います。シャウビューネはもともとは私立劇場でしたが、社会的テーマをもった作品を次々に発表することで評価を得て、今では大きな公的助成を受けて活動しています。シャウビューネに世界的名声を与えたのは、1970年に芸術監督に就任した演出家ペーター・シュタインでした。シュタインがその直前の1968年に上演したペーター・ヴァイス作『ベトナム討論』は、当時の西ドイツ社会全体を巻き込むような事件となりました。劇場が公共の資金をもって運営されているのはなぜなのか。それは、そこがまさに公共性というもの自体、つまり「私たちにとってよいものとは何か」ということ自体を問い直し、議論するための場でもあるからだ、とオスターマイアーは考えているのだと思います。

(参考リンク)
劇作家のための演劇を目指す 新生シャウビューネのオスターマイアーに聞く(国際交流基金Performing Arts Network Japan、2005年)
【ポストパフォーマンストーク】シャウビューネ劇場『ノラ~イプセン「人形の家」より』06/20世田谷パブリックシアター(「しのぶの演劇レビュー」、2005年)

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『民衆の敵』
演出:トーマス・オスターマイアー
作:ヘンリック・イプセン
出演:クリストフ・ガヴェンダ、コンラート・ジンガー、エファ・メクバッハ、レナート・シュッフ、ダーヴィト・ルーラント、 モーリッツ・ゴットヴァルト、 トーマス・バーディンク
製作:ベルリン・シャウビューネ

4月29日(日)19:00開演、30日(月・祝)14:30開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら
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blog 最終更新日:2018年4月5日 12:53 PM

『シミュレイクラム/私の幻影』シミュレイクラムってどんな意味?

今回このノルウェー・オスロからの招聘作品『シミュレイクラム/私の幻影』を担当しています、制作部の計見(けいみ)です。

さて、今年の演劇祭で唯一のダンス作品でもある、『シミュレイクラム/私の幻影』・・・シ、シミュ?シミュレイクラム??と、耳馴染みのない言葉がタイトルにありますが、これは「表象、イメージ」を意味するラテン語<simulacrum>を語源とする言葉で、日本語に訳すと【像、似姿、幻影、面影、偽物、見せかけ】となります。

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▲今回の公演チラシ

この作品の演出、振付をされたアラン・ルシアン・オイエンさんは以前より、フランス人哲学者、思想家のジャン・ボードリヤールの「シミュラークル=模擬・模造・幻影の意。複製としてのみ存在し、実体をもたない記号のこと。記号がひとり歩きして現実を喪失する状態のこと。」という思想に興味を持っていました。同じような言葉で「シミュレーション(模擬実験)」というのがありますが、ボードリヤールは<シミュラークルの産出過程をシミュレーション>とし、この考え方は現代美術に大きな影響を与えています。

このような思想を軸に、血筋をもって継承される日本の伝統芸能である歌舞伎をどう捉えるか、というところからこの作品の創作はスタート。確かに、クラシックバレエやフラメンコ、日本舞踊などは模倣することで受け継がれ、その模倣されたものがオリジナルになりますよね・・・

作中でも、アルゼンチン生まれのコンテンポラリーダンサー、ダニエル・プロイエットさんが女形の歌舞伎舞踊を舞うのですが、それをアランさんは、インタビューの中で「完璧なシミュレイクラム」という風に表現されています。
Simulacrum.Photo credit Erik Berg.0282

 
さて、アラン・ルシアン・オイエンさんという方、ご自身が主宰されている芸術家集団ウィンター・ゲスツでの活動の他にも、去年11月にパリのシャイヨー国立劇場で本作を上演後、今年に入ってすでに他の演出作2作品が同劇場で立て続けに上演されていたり、この6月には、 度々来日公演を行い日本でも熱狂的なファンを持つ、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団で長編新作を手掛ける、初めての外部演出家のひとりに選ばれるなど、今ヨーロッパで最も注目を集める演出、振付家です。

【こちらを使用】Alan Lucien Ø 1_c_massimo_leardini
▲演出・振付のアラン・ルシアン・オイエンさん

アランさんは、ノルウェーのベルゲンという街で育ちました。このベルゲンには『民衆の敵』の作者でもあるヘンリック・イプセンが設立した国立劇場があり、アランさんのお父様はこの劇場で衣裳係をされていたそうです。その影響で、幼いころから劇場や演劇に触れ、古典作品だけでなく、「イプセンの再来」「20世紀のベケット」とも呼ばれるノルウェー人劇作家ヨン・フォッセの世界初演なども、目の当たりにしていて、その後、ダンサーとしてのキャリアをスタートされますが、幼いころのこういった経験が、現在のダンスと演劇を横断するような作風に大きく影響しているのだとか。

ダンスや演劇などのジャンルを超えて、幅広く楽しんでいただける作品となっていますので、皆さまのご来場を心よりお待ちしております♪

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『シミュレイクラム/私の幻影』
演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン
歌舞伎舞踊振付/音楽『Natsue』:藤間勘十郎
出演・振付:小島章司、ダニエル・プロイエット
製作:ウィンター・ゲスツ
5月3日(木・祝)12:30開演、4日(金・祝)12:30開演
静岡芸術劇場
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