ジャック・チャールズ vs 王冠

© Bindi COLE

Program Information

ジャンル/都市名 演劇/メルボルン
公演日時 5/6(日)13:00
会場 静岡芸術劇場
上演時間 80分
上演言語/字幕 英語上演/日本語字幕
座席 全席指定
演出 レイチェル・マザ
製作 イルビジェッリ・シアター・カンパニー
© Bindi COLE
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作品について

オーストラリア先住民の人気俳優、激烈な半生を語り歌う!

1970年頃まで続いたオーストラリアの「児童隔離政策」で先住民の子ども達は家族から強制的に引き離され白人社会に同化させられるなど非人道的な扱いを受けた。その悲しみと抵抗の歴史を誰よりも知るジャック・チャールズが、自らの生い立ちと波乱万丈の人生を歌い語る、涙と笑いのミュージック・ワンマンショー。孤独で悲惨な幼少期を過ごしたジャックは、陶芸・音楽・演技の才能に恵まれ、俳優やミュージシャンとして活躍するように。一方で薬物や犯罪に度々手を染め・・・。しかし、その半生を追ったドキュメンタリー映画『バスターディ』で一躍世界から注目を浴び、自らの行いを省みたジャックは遂に更生し、犯罪歴への法的救済を求めて法廷に立つ。今や負の連鎖から抜け出したジャック、その魅力溢れる語りはすべての人に生きる希望と喜びをもたらす。

ストールン・ジェネレーションの苦闘を胸に

オーストラリア政府による同化政策は、1969年に廃止されるまで100年にわたり続いた。政策により親から引き離された子どもたちは、後に「ストールン・ジェネレーション(盗まれた世代)」と呼ばれ、1943年生まれのジャック・チャールズもその一人。ジャックは自らの人生を舞台で語ることでオーストラリア先住民の受難の歴史を知らしめるとともに、多くの困難を乗り越える人間の力も明るく示している。本作はオーストラリア各地、またイギリスやカナダなどでも上演され、大きな反響を呼んだ。

あらすじ

舞台の上には、ろくろを回し陶器を作るジャックの姿。背後では映像や写真とともに数々の犯罪歴が読み上げられている。彼は語り始める。――国の政策で家族から引き離された生い立ち。白人の育ての親にも見放され、教護院に送られると不品行が目立つように。俳優・ミュージシャンとして才能を発揮しながらも、薬物中毒や窃盗で服役を繰り返した。しかしドキュメンタリー映画への出演をきっかけに自らの姿を省み、立ち直っていく。

演出家からのビデオメッセージ

演出家プロフィール

レイチェル・マザ Rachael MAZA
1964年オーストラリア生まれ。俳優・演出家。ウェスタンオーストラリア舞台芸術学院卒業。同学院卒業後より、グリーン・ルーム・アワードやシドニー演劇批評家協会賞を受賞するなど、その才能は注目される。2009年より、オーストラリアを代表する先住民族劇団イルビジェッリ・シアター・カンパニーの芸術監督を務める。同劇団での演出作には『ジャック・チャールズ vs 王冠』をはじめ、『フォーリー』 (11年)、ビューティフル・ワンデイ』(12年)、『ウィッチ・ウェイ・ホーム』(16年)など。俳優としてオーストラリア国内の映画・テレビでも活躍し、数々の賞を受賞。

出演者プロフィール

ジャック・チャールズ Jack CHARLES
1943年オーストラリア生まれ。俳優・ミュージシャン・陶芸家。国の先住民隔離・同化政策により、少年時代を児童収容施設で過ごし、長年にわたり薬物や犯罪による服役を繰り返した。その半生を描いたドキュメンタリー映画『バスターディ』は世界的に絶賛される。2014年に「グリーン・ルーム・アワード」を受賞。「TEDxSydney」のプレゼンテーションにも登壇。

トーク

◎プレトーク:開演25分前より
◎アーティストトーク:終演後

出演者/スタッフ

脚本:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル
演出:レイチェル・マザ
音楽監督:ナイジェル・マクレーン

出演:ジャック・チャールズ、ナイジェル・マクレーン(ギター・バイオリン)、フィル・コリングス(パーカッション)、マルコム・ベヴァレッジ(ベース)
ドラマトゥルク:ジョン・ロメリル
舞台装置&衣装:エミリー・バリー
照明デザイン:ダニー・ペッティンギル
音響・映像デザイン:ペーター・ウォーランド
プロダクション・マネージャー:ジョン・バーン
舞台監督:ヴィッキー・クックスリー
音響操作:ゲイリー・ドライザ
製作:イルビジェリ・シアター・カンパニー
国際営業コンサルタント:フェン・ゴードン
助成:オーストラリア政府
   Australia nowスポンサー


SPACスタッフ
舞台監督:村松厚志
舞台:佐藤洋輔、降矢一美、平尾早希
照明:樋口正幸、花輪有紀、久松夕香、滝井モモコ
音響:山﨑智美、加藤久直、澤田百希乃
ワードローブ:川合玲子
通訳:相磯展子
字幕翻訳・操作:佐和田敬司

制作:米山淳一、太田垣悠、林由佳
シアタークルー(ボランティア):青島瞳、鈴木留美子、タン・シュー・ジン

技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括:加藤久直

支援:平成三〇年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業 文化庁 beyond2020

注意事項

一部刺激の強い表現があります(15歳以上推奨)。

寄稿

ジャック・チャールズが体現するもの

佐和田 敬司

〇ストールン・ジェネレーション
 劇団イルビジェリは、オーストラリアを代表する先住民劇団の1つである。イルビジェリは2002年の東京国際芸術祭(現在のフェスティバル/トーキョー)に招かれ、『ストールン』を上演した(ジェーン・ハリソン作、邦訳は『アボリジニ戯曲選』オセアニア出版社所収)。『ストールン』は、ストールン・ジェネレーション(盗まれた世代)を正面から取り上げた作品だった。アボリジニの子供、特に白人と混血の子供を、白人社会に同化させることを目的に、親から強制的に子供を連れ去り施設に入れた。この同化政策は20世紀始め(見方によっては19世紀末)から1970年頃まで行われ、無数のアボリジニの子供が肉親やコミュニティとの文化的繋がりを断ち切られた。イルビジェリの『ストールン』は、「子供の家」に送られた5人の子供のそれぞれの人生を、差別を内包した現実の社会を生きている5人のアボリジニの俳優たちが、役柄のみならず「当事者」として演じるものだった。そして今回の『ジャック・チャールズvs王冠』でも、才能に溢れたジャック・チャールズが波乱の人生を生きなければならなかった背後に、彼がストールン・ジェネレーションだという事実がある。作中でジャックが自らを指して「失敗した社会実験の道具」だという。このような「当事者」としての語りこそが、この作品に重い社会的な意味を与えるのである。

〇2つの『バスターディ』とオーストラリアの小劇場運動
 オーストラリアにおける現代演劇の起点は1960年代末から勃興した小劇場運動にあると考えて良い。英米戯曲に席巻されていたオーストラリアの舞台に、自分たちの声を響かせることを目的に、若い演劇人たちがメルボルンやシドニーの小劇場に集った。若い世代が様々な古い価値観からの解放を目指したこの時代、アボリジニに力を与えるための社会運動も勢いを増し、演劇もそれと無縁ではなかった。作中で語られるように、1970年代初頭、ボブ・マザ(本作の演出家レイチェル・マザの父)とともに黒人のための演劇運動の狼煙をあげたのは、他ならぬジャック・チャールズだった。
 一方、オーストラリア小劇場運動の中心的人物は、劇作家のジョン・ロメリルだった(ロメリルの代表作『フローティング・ワールド』と『ミス・タナカ』は日本でも翻訳上演されている)。主に白人からなる劇団APGを率いていたロメリルは、アボリジニの演劇人との協同を目指しており、1972年にジャック・チャールズのために戯曲『バスターディ』を書いた。チャールズが演じる主人公「ジャック」が、白人売春婦とそのアル中のヒモから酷い差別的な扱いを受けるも、冷静に自らのルーツ、つまり自分がその白人売春婦の子供(庶子=バスターディ)である事実を突きつける、という話である。それから36年後、本作で語られるようなチャールズの生き様を追った、アミエル・コーティン=ウィルソン監督によるドキュメンタリー映画が作られた。チャールズが代表的先住民俳優として復活するきっかけを作ったこの映画のタイトルは、かつてロメリルが書き、チャールズが主演した演劇作品から取られたのである。『ジャック・チャールズvs王冠』で実現したチャールズとロメリルの協同は、白人の若者もアボリジニの若者もともに参集した60、70年代の小劇場運動、そして『バスターディ』における二人の出会いから生まれたものである。

〇アボリジニのあゆみとジャック・チャールズ
 劇団イルビジェリとジャック・チャールズによる、本作以外で最近の注目作品に、『コランダーク』がある。コランダークはヴィクトリア植民地で1863年に設立され、アボリジニに運営が任せられていた農場である。新しく来た白人管理者の悪政に不満を積もらせたコランダークの人々は、ヴィクトリア植民地政府に請願を行い、植民地議会での審問を実現させるという快挙を成し遂げた。この審問の議事録を、そのまま台本として俳優たちに読ませ、演じさせたのがこの作品である。ジャック・チャールズはこの作品でコランダークのリーダー役を演じているが、彼の先祖ジョン・チャールズは、この請願に加わっていた人物だった。『ジャック・チャールズvs王冠』でも語られるこの事実、さらに先に触れたストールン・ジェネレーションや演劇史上のエピソードは、すべてアボリジニの歴史を見事に象徴していることに気づかされる。ジャック・チャールズの存在は、ひとりの俳優というだけにはとどまらない。その存在、彼の語ることすべてが、アボリジニとオーストラリアのあゆみそのものなのである。


<筆者プロフィール>
佐和田 敬司 SAWADA Keiji
早稲田大学教授、翻訳家。『ストールン』などの翻訳で第10回湯浅芳子賞受賞。単著に『オーストラリア先住民とパフォーマンス』(東京大学出版会)、『現代演劇と文化の混淆:オーストラリア先住民と日本の翻訳劇との出会い』(早稲田大学出版部)など。訳書に「オーストラリア演劇叢書」1-12巻(オセアニア出版社)など。

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