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世界が見る「おとなのための人形劇」の夢 ~『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』~

横山義志(SPAC文芸部)
《演劇祭の海外招聘を担当する横山義志のブログ第2弾です。》
 
一昨年の演劇祭でも『聖☆腹話術学園』という作品がありましたね。そんなに腹話術が好きなのか、と思われるかもしれませんが、そう、好きなんです。というか、人形劇が好きなんですね。

1_腹話術メインビジュアル(高画質)_Ventriloques025
『聖☆腹話術学園』(ふじのくに⇄せかい演劇祭2015)
演出:ジャン=ミシェル・ドープ / 作:アレハンドロ・ホドロフスキー

 
昨年も『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』『It’s Dark Outside おうちにかえろう』と、人形劇が二作品ありました。最近はいつも人形劇がいくつも候補作品に挙がってしまって、悩んでいるくらいです。

2_Ubu_181
『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』(ふじのくに⇄せかい演劇祭2016)
演出:ウィリアム・ケントリッジ / 製作:ハンドスプリング・パペット・カンパニー

 
SPACの作品では、よく一人の登場人物を二人の俳優で演じる、という手法が使われています。一人は動きだけ、もう一人は声だけで演技をします。これは文楽や、それを真似た歌舞伎の「人形振り」からヒントを得ています。文楽もおとなのための人形劇ですよね。日本ではけっこう昔から、おとなのための人形劇の歴史があったわけです。

ヨーロッパでは、ある時期から、人形劇は子どものためのもの、というイメージが定着してしまいましたが、最近再びおとなのための人形劇を作るアーティストが増えてきたようです。これには、1987年に創立されたフランス国立高等人形劇芸術学院の貢献も少なくありません。この学校はシャルルヴィル=メジエールという小さな町にあるのですが、この町では、毎年世界最大規模の国際人形劇祭が開催されていて、世界中の人形劇関係者がここに集っています。ここは世界の名だたる人形遣いから個人指導を受けることができる非常に贅沢な環境で、3年に一度、17人程度の学生しか採らず、人形劇教育の最高峰ともいえるでしょう(昨年から2年に一度になったようです)。

3_Portrait GV(©Estelle Hanania)
 
『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』の演出家ジゼル・ヴィエンヌもこの学校の卒業生で、「人形劇」のイメージを最も大きく変えたアーティストの一人です。ジゼルはシャルルヴィル=メジエールで生まれ、フランスやドイツなどを転々としたあと、この学校で学ぶためにこの町に戻ってきました。そこで出会った淡路人形座の文楽も、ジゼルがつくっていく「おとなのための人形劇」のモデルの一つになったのかも知れません。『腹話術師たち・・・』に出演しているジョナタン・カプドゥヴィエルはジゼルと同級生で、卒業以来、ジゼルの重要なコラボレーターとなっています。ジゼルのお母さんはオーストリア出身のアーティストで人形作家でもあり、シュルレアリスムの人形作家として有名なハンス・ベルメールなどとも親交がありました。ジゼルは理想的な人形劇の英才教育を受けて育ったともいえるでしょう。

以下に岩城京子さんによるジゼル・ヴィエンヌのインタビューがあります(2010年)。
http://kyokoiwaki.com/ARTicle/archives/761
 

4_JERKクレジットMathilde DAREL

ジョナタン・カプドゥヴィエルは2014年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」で、『Jerk』というかなりハードコアな人形劇を一人で演じていたので、ご覧になった方はよく憶えていらっしゃるでしょう。『Jerk』の後半では、ジョナタンが人形を置いて、ほとんど動かないまま、腹話術だけで、悪夢のような拷問の場面を演じていました。何も見えないのに、演劇でこれほど恐ろしい場面を「見た」ことがあっただろうか、と思わせる体験でした。

『Jerk』
http://spac.or.jp/f14jerk.html

ところが、今回の『腹話術師たち・・・』には、このジョナタンがかすむほどに強烈なキャラクターの人形遣いたちが他に8人も出演しています。この舞台は、ドイツでも珍しい公立の人形劇団パペットシアター・ハレとのコラボレーションで、ドイツ語圏から選び抜かれた人形遣いたちとジョナタンとの夢の共演が見られるのです。ジゼルのお母さんはドイツ語が母語で、お父さんはドイツ語の先生をしていて、ジゼル自身もドイツ語圏で暮らしたことがあるのですが、ドイツのアーティストたちとの本格的なコラボレーションはこれがはじめてです。これほどの技術を持った人形遣いを贅沢に使える機会もはじめてでしょう。
 
5_photo_dennis_cooper(©Dennis Cooper)

台本を書いたデニス・クーパーはアメリカ出身で、小説家・詩人として知られています。初期の作品では、青年時代に別れて音信が途絶えてしまったボーイフレンドの記憶が重要なモチーフになっていましたが、ある時、そのボーイフレンドがすでに自殺していたことを知ります。2004年からのジゼル・ヴィエンヌとのコラボレーション、そしてアメリカからパリへの移住も、彼にとって、このショックを乗り越えるための手段でもあったのかもしれません。サディスティックな暴力が支配する『Jerk』の世界とは打って変わって、今回の作品はブラックユーモアに溢れた心理劇となっています。この作品はクーパーにとっても一つの転機になっているような気がします。

これまでのジゼル・ヴィエンヌの作品では、人間の体とハイパーリアルな人形の体とが共存する夢想的なイメージが中心となる作品が多かったのですが、今回はすごく芸達者なドイツの人形遣いたちとの出会いもあって、ジゼルが手がけたはじめての「会話劇」ともいうべき作品になっています。ですがもちろん、その「会話」も一筋縄ではいきません。この作品の原題は『腹話術師会議(The Ventriloquists Convention)』といいます。「アメリカで世界中の腹話術師の世界大会があるらしいんだけど、腹話術師たちが自分の人形を持ち寄って、人間と腹話術の人形が入り乱れて会議をしてたら、ちょっと面白くない?」こんな話をジゼルからはじめて聞いたのは原宿のカフェで、「このあと新宿で、大阪の友だちがやってるバンドのライブがあるんだけど、一緒に行かない?」と誘われたのに、用事があって断ってしまいました。最近、静岡芸術劇場に行くと『腹話術師たち・・・』のプロモーションビデオでニルヴァーナの曲が流れていて、それを聞くたびに、この日のジゼルの熱っぽい口ぶりを思い出します。フランス、ドイツ、アメリカ、日本・・・とジゼルの軌跡をたどってみると、なんだかこの人を通じて、世界が新しい人形劇の夢を見ているような気すらしてきます。

ずっと見たかった舞台が、ようやく静岡に来てくれることになりました。

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腹話術師たち、口角泡を飛ばす
構成・演出:ジゼル・ヴィエンヌ
作:デニス・クーパー(出演者との共作)
5月6日(土)15:00開演、5月7日(日)13:00開演
静岡芸術劇場
詳細はこちら
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