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blog 最終更新日:2018年5月2日 12:50 PM

『シミュレイクラム/私の幻影』 ~今とはちがう「私」を選び取ること~

SPAC文芸部 横山義志
 
アルゼンチン人の男性ダンサーが女形として歌舞伎舞踊を踊り、日本人の男性ダンサーがスカートをはいてフラメンコを踊る。静岡駅に「リアルorフェイク?」という看板がありますが、どちらも、話だけ聞くと、かなり「フェイク」な感じがします。でも世界的に評価されているダンサーによる踊りを実際に見てみると、きっと話に聞くのとはだいぶ違う印象を受けるでしょう。

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▲静岡駅にある「リアルorフェイク?」の看板
 
そもそも、踊るということは「リアル」なのでしょうか、それとも「フェイク」なのでしょうか。盆踊りにしても阿波踊りにしても、踊りには多くの場合、何かしら「型」があります。この「型」はふつう、「自分のもの」ではありません。誰か振り付けた人はいるのでしょうが、誰がはじめたのかもよく知らないまま受け継がれ、踊られていきます。この意味では、踊りというのはたいていの場合は「自分のもの」ではないのかも知れません。

そしてある「型」を踊るとき、人はふだんの自分の人格とはちがうものになっています。ふだんとは違う目つき、手つき、足の運びをしています。カラオケで歌を歌うときだってそうですよね。

でもよく考えてみれば、「ふだん」の日常生活でも、人はいろんな役を演じているような気もしてきます。会社員の役、公務員の役、パートタイマーの役、上司の役、部下の役、学生の役、お父さんの役、お母さんの役、息子・娘の役等々。目つき、手つき、足の運びといった振付から節回しや歌詞にいたるまで、それぞれの役に合ったものを、誰からともなく学んで、踊ったり歌ったりしています。「男」にも「女」にも、それぞれに合った振付や節回しが用意されています。

Entre la Vida y la Muerte homenaje al alma de Federico2
▲ふじのくに⇄せかい演劇祭2013で上演された『生と死のあわいを生きて ―フェデリコの魂に捧げる―』
 
「シミュレイクラム」というのは「幻影」という意味ですが、幻影には必ずしもオリジナルや本物・本体があるとは限りません。全くオリジナルがないような幻影も、人間の社会のなかで一定の機能や影響力をもっているのではないか。この言葉はそんな意味で使われています。

「私」が「私」になる、というのは、きっとそんなシミュレイクラムの振付を少しずつ選び取って、あるいは選び取らされて、憶えていくことなのでしょう。

でも、「私」はもうちょっと別の「私」でもありえたかも知れません。

ちょっと別の「私」を選び取ることは、かなり勇気がいることです。でも、それを選び取ることで、世界がもっと楽しいものに見えてくるかも知れません。

別の「私」になるために、生涯を賭けて自分を鍛え抜いてきた二人の出会いに触れると、きっと今とはちがう自分を選び取る勇気が湧いてくるはずです。
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▲左)ダニエル・プロイエットさん、右)小島章司さん

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『シミュレイクラム/私の幻影』
演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン
歌舞伎舞踊振付/音楽『Natsue』:藤間勘十郎
出演・振付:小島章司、ダニエル・プロイエット
製作:ウィンター・ゲスツ
5月3日(木・祝)12:30開演、4日(金・祝)12:30開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら
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blog 最終更新日:2018年4月25日 10:11 AM

『寿歌』~風の中から現われた謎の男・ヤスオ(春日井一平)~

こんにちは。『寿歌』キャラクター紹介ブログ第三回目では、春日井一平が演じる、謎の男・ヤスオをご紹介します。
実名は「ヤソ」といい、漢字で書くと「耶蘇(やそ)」になります。この言葉は、「イエス(Jesus)」の中国音訳語で、
「イエス・キリスト」、また「キリスト教およびキリスト教徒」を意味する言葉だそうです。

「蘇(よみがえ)る」という言葉が入っていますが、復活したのか、タイムスリップしてきたのか、
ゲサクとキョウコの前に突然「ヌッ」と現れます。

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▲前:ヤスオ、後ろ左:ゲサク、後ろ右:キョウコ

ヤスオの特技は、名づけて「物品引き寄せの術」!
物品、例えば干し芋や米粒など何でも、元さえあれば手品のようにゾロゾロと増やせてしまいます。

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▲ヤスオの「物品引き寄せの術」のポーズ

この特殊な能力があれば、ゲサクとキョウコにとっても食ベ物の当てができ、好都合。
行く方向も同じということで、二人の旅に迎え入れられました。
コンビからトリオになり、旅路はさらに賑やかになります!

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▲ ヤスオの大ボケにずっこけるゲサクとキョウコ

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▲ キョウコの「乞食踊り」を真似して一緒に踊るヤスオ

サービス精神たっぷりに芸を披露する三人でしたが、
サービス品としてお客に配ったロザリオ(十字架のついた首飾り)に雷が落ち、
お客に責められ、一座はピンチに追い込まれていきます。
そんな中、瀕死の重傷を負うゲサクでしたが、
ヤスオはキョウコと一緒にゲサクの生き様の果てにそっと寄り添い…。

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▲ ゲサクが語る寓話(キツネとクマとウサギの話)に耳を傾けるヤスオ

この後、まだもうひと展開待っていますが、続きは劇場でどうぞ!
 
 
最後に春日井一平から一言。
~・~・~・~・~
この世界に突如現れたヤソ(ヤスオ)。
一見浮浪者のような、それでいて尊い存在のような、
でもただの人間みたいだったりして。

ゲサク・キョウコと出会い、
一時、共に旅をする中で、変化するヤスオ、
変わらず側に寄り添うヤスオを、
感じて頂けたらなぁと思います。

この時期、夜の野外劇場はまだ寒いです。
普通の方は「裸同然」の格好では過ごせませんので、
是非暖かい格好でお越し下さい。
お待ちしております。
~・~・~・~・~

 
 
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▲ 舞台美術・カミイケタクヤさんによってヤスオの背中に傷跡が刻まれます
(3月末『寿歌』愛知公演、開演前の楽屋の様子)

防寒対策もどうぞお忘れなく☆

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愛知県芸術劇場・SPAC共同企画
『寿歌(ほぎうた)』
演出:宮城聰、作:北村想
美術:カミイケタクヤ、照明:木藤歩
出演:SPAC/奥野晃士、春日井一平、たきいみき

【静岡公演】
日時:2018年4月28日(土)、30日(月・祝)各日18:15開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
*詳細はこちら

*『寿歌』公式サイトはこちら
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blog 最終更新日:2018年4月21日 8:09 PM

【レポート】「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」キックオフミーティング

演劇祭開幕まで2週間を切った4月15日(日)「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」のキックオフミーティングを開催しました! ボランティアスタッフ「シアタークルー」の皆さんをはじめ、ストレンジシード」「みんなのnedocoプロジェクト」といった関連企画の関係者、プレスの方々など総勢約60名(?!)が静岡芸術劇場に集結。 P1570303 P1570256

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参加者それぞれが、演劇祭はもちろん、自身が関わる上演作品や関連企画について熱く語り、改めてこの演劇祭が本当に多くの方々の愛と熱意に支えられていることを実感しました。

 

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歓談の後、SPAC俳優・永井健二プロデュースのおたのしみ企画「SPACウルトラクイズ」を開催♪ 「Shizuoka春の芸術祭」時代から今に至る19年間の演劇祭の歴史を振り返りました。 繰り出されるマニアック(?)な問題に、何とSPAC生き字引(笑)の成島芸術局長が途中で脱落…。

 
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優勝はシアタークルーの立林学さん。 SPAC俳優・石井萠水から優勝賞品としてSPACトートバックとクリアファイルが贈呈されました!

 
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最後に、参加者全員で集合写真をパチリ。 演劇祭の成功に向けて、気持ちが一つになりました!

 
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さあ、演劇祭開幕までいよいよあと1週間です!! 

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ふじのくに⇄せかい演劇祭2018
4月28日(土)~5月6日(日)
静岡芸術劇場/舞台芸術公園/駿府城公園 ほか
http://festival-shizuoka.jp/
★開幕直前となり、各演目一気に席が埋まってきております!完売の演目も…。一日でも早いご予約を!!
SPACチケットセンター TEL.054-202-3399(10:00~18:00)
上記演劇祭特設サイトからもご購入いただけます。
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blog 最終更新日:2018年4月20日 4:10 PM

『シミュレイクラム/私の幻影』日本のフラメンコの歴史

計見さんと共に『シミュレイクラム/私の幻影』を担当しています、制作部の西村です。
この春からSPAC制作部の一員となり、演劇祭ではこちらのダンス作品を担当することになりました。
とはいえ私自身ダンスにはあまり馴染みがなく…。
今回のブログでは、担当するにあたって勉強した日本のフラメンコの歴史を少し紹介します!

日本のフラメンコ人口は、なんと本場・スペインについで2位!
本格的なダンスだけでなく習い事としてなど、幅広い層に人気です。
では、フラメンコは日本にいつ・どのように伝わってきたのでしょうか。

フラメンコは、19世紀にスペインで生まれ、日本に伝わってきたのは20世紀になってから。
スペイン人によるスペイン舞踊の公演は1929年のラ・アルヘンティーナの来日が初でした。
こうした来日公演が、後に日本フラメンコの先駆者となる人物たちに大きな影響を与えました。

本作に出演される小島章司さんも、そうした先駆者のうちの一人です。
小島さんは、“フラメンコ界のレジェンド”と呼ばれる今年78歳の現役フラメンコダンサー。
日本人がフラメンコを習得するためにスペインに行くようになったのは、1960年代に入ってからで、
小島さんも1966年に単身スペインへと旅立ちました。(当時の交通手段は、なんとあのシベリア鉄道!)

留学の翌年早くもプロとしての活動を開始し、1970年のテレビ出演をきっかけにアンダルシア各地の一流タブラオ(*1)やフェスティバルで活躍するようになります。渡西から10年が経ち、故郷である日本に戻った小島さんは、作品を発表するだけでなく、スペインから一流のアルティスタ(*2)を日本に招くということも続けました。また、80年代以降には、日本のフラメンコを本場スペインで公演するという快挙も行われるようになりました。

Simulacrum. Photo credit Martin Flak
▲本作の舞台写真

小島さんは、舞踊家生活50年のインタビューで、未来のフラメンコの担い手に対して以下のように語っています。

“一つのちゃんとしたテーマなり、コンセプトなり、自分の哲学なり、そういうものを大げさではなくアピールできるように、人間の根源的な教養を培ってほしい。そして、それを比較芸術論として、芝居や音楽など、あらゆるジャンルの芸術と比較できるだけの、対等な力と芸術性を養いながら挑戦していただきたい。それが私の願いです。”

こうした意識を持ち、日本のフラメンコの普及と発展に貢献してきた小島さん。本作は小島さんと、アルゼンチン出身のコンテンポラリーダンサー、ダニエル・プロイエットの二人のライフヒストリーからなる作品です。
磨き抜かれたカリスマの身体とその軌跡を、ぜひ劇場でご覧ください!良いお席はお早めに♪

(*1)タブラオ…フラメンコを専門に見せる店のこと
(*2)アルティスタ…アーティストのこと

<参照:パセオフラメンコ2007年11月号>
 
『シミュレイクラム/私の幻影』関連ブログ
(その1)東京での稽古にお邪魔してきました!
(その2)シミュレイクラムってどんな意味?

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『シミュレイクラム/私の幻影』
演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン
歌舞伎舞踊振付/音楽『Natsue』:藤間勘十郎
出演・振付:小島章司、ダニエル・プロイエット
製作:ウィンター・ゲスツ
5月3日(木・祝)12:30開演、4日(金・祝)12:30開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら
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blog 最終更新日:2018年4月19日 10:33 AM

『ジャック・チャールズvs王冠』6万年の歴史を見つめながら、「明日」を夢見ること

SPAC文芸部 横山義志

オーストラリア現代演劇は、かつてない地殻変動を経験しています。先住民アーティストと先住民プロデューサーたちが、言ってみればほぼ二世紀ぶりに、この大陸の舞台芸術を牽引する状況ができつつあるのです。この状況を30年近くにわたって準備してきたのが、オーストラリアで最も長く活動している先住民劇団イルビジェッリです。「イルビジェッリ」はメルボルンの先住民クリン人(Kulin Nation)の言葉で「一緒にお祭りに行こう」という意味で、1990年に創立されました。『ジャック・チャールズvs王冠』は近年の代表作で、オーストラリアの友人に聞くと必ず「あれはすごい作品だ、ぜひ日本に紹介してほしい」と言われたものでした。「盗まれた世代」(1869年~1969年頃、先住民の子どもを白人家庭や白人が運営する施設で育てて「同化」させる政策の被害者たち)の一人で、幾度も犯罪や薬物に手を染めながら、演技や音楽、陶芸を通じて自己に打ち克ってきたジャック・チャールズは、オーストラリア先住民の苦悩と再生を象徴する存在となっています。この作品については、制作部の林さんによる詳しい紹介がありますので、こちらをご覧ください。
『ジャック・チャールズ vs 王冠』ジャックおじさんの波乱万丈物語(制作部・林)

私の方では、こういった作品が出てくる文脈を、自分が見てきた範囲でご紹介できればと思います。ここ数年、縁あって、毎年のようにオーストラリアを訪れるようになりました。オーストラリアの舞台芸術界は、ちょっと前までは西洋的なものが圧倒的な主流だったのですが、数年の間に状況がずいぶん変わってきました。たとえば、今年のオーストラリア舞台芸術見本市(APAM)では、ほとんどの公演、ほとんどのスピーチの前に、「私たちはこの土地の・・・族の過去・現在・未来の長老たちに敬意を表します」という挨拶が入るようになりました。また、ちょっと前までは、先住民が出演する作品も白人がプロデュースするのがふつうだったのが、近年は先住民自身がプロデューサーとなるケースが増えてきています。昨年、メルボルンで、そんなケースについてのリサーチをする機会がありました。私がはじめて劇団イルビジェッリを率いるレイチェル・マザに出会ったのもそのときでした。

メルボルンの先住民アーティスト・プロデューサーのジェイコブ・ボーム(Jacob Boehme)が立ち上げたイーランボイ・ファースト・ネイションズ・アーツ・フェスティバル(Yirramboi First Nations Arts Festival, Yirramboiはクリン人などの言葉で「明日」)では、作品を作り、プロデュースする枠組み自体を、先住民長老たち(elders)に相談しながらつくっていく試みがなされています。ボームはメルボルン市長とともに、「この地域の6万年の歴史を見つめながら、一緒に「明日」を夢見ていこう」と呼びかけています。

イーランボイ・ファースト・ネーションズ・アーツ・フェスティバル

アボリジナル・フラッグとイーランボイ・フェスティバル(メルボルン)

アボリジナル・フラッグとイーランボイ・フェスティバル(メルボルン)

例えば、映画製作のための助成金申請には、ふつう脚本を提出する必要があります。でも、先住民アーティストは、出会いが大事なのだから、あらかじめ脚本を書いても面白いものはつくれない、といいます。それでも先住民プロデューサーは、その人がすばらしい作品をつくるアーティストであることを知っているので、それを信頼して、脚本なしで助成金が得られるように助成団体を説得することに成功しました。

今ある枠組みでは、演劇、ダンス、音楽、ビジュアルアート等々といったジャンルのそれぞれで、見せる場所もお客さんも違うので、違う形でプロデュースすることになっています。でも、オーストラリア先住民には、そういったジャンルの区別はありません。これらは全て、物語を語るための手段と考えてられています。また、オーストラリア先住民には「ドリームタイム」という概念があるとされています(正確には、そのいくつかの部族の話から西洋人の人類学者が抽出した概念のようですが)。全てのものが生成し、名前がつけられていく時間です。この過程には完成はなく、つねにつづいていきます。だから、作品の完成という概念もありません。すべては常に創造の過程にある、というわけです。でも、これではふつう、プロデューサーは困ります・・・。時間の概念が違うので、スケジュールや予算管理では、いわゆる近代的・西洋的なアプローチとは違う方法をとらなければいけません。

すべてはアーティスト本人と直接の信頼関係を築くことにある、と先住民プロデューサーたちは言います。書類やお金やテクノロジーを媒介とするのではなくて、人と人との関係を築くこと。とにかくこの人なら、最後には何かすばらしいものを見せてくれるはずだと信頼すること。お互いにそれができるようになるには、時間をかけて、真に人間同士の関係を築く必要があります。もちろん、仕事に時間をかけすぎて、家族や友人をおろそかにしてもいけません。でも、アーティストも友人の一人なので、それは切り離せないものだ、というのです。ときには職場に子どもを連れて行って、アーティストたちと一緒に時間を過ごします。

いろいろ話を聞いているうちに、西洋近代が作ってきた「芸術」という枠組みを越えていける可能性がここにあるような気すらしてきました。そして、この動きは、アジアから新たな物の見方、枠組みを提案する際の参考にもなるのではないかと思います。

2014年にアジアン・プロデューサーズ・プラットフォーム(APP)が立ち上がったとき、日本、韓国、台湾、そしてオーストラリアの四カ国/地域のプロデューサーが中心となっていました。なぜそこにオーストラリアが入っているのか、ちょっと不思議に思っていました。でもアジアのあちこちで何度も出会って、仕事ぶりを見ていくなかで、この人たちは本当にアジアでパートナーをつくっていきたいんだ、と感じるようになりました。そして2017年、メルボルンで開かれたアジア舞台芸術トリエンナーレ(Asia TOPA)の機会に、メルボルンでAPPキャンプが開かれ、先住民プロデューサーたちのリサーチに参加したのでした。

ブリスベンで行われた今年のオーストラリア舞台芸術見本市(APAM)では、先住民とアジアに焦点が当てられていました。開催前のプレイベントとして、世界の先住民アーティストと先住民プロデューサーをつなぐ「グローバル・ファースト・ネーションズ・エクスチェンジ(Global First Nations Exchange)」、先住民によるダンスを紹介する「ブラックダンス・プレゼンター・シリーズ(BlakDance Presenter Series)」、そしてアジアのアーティストやプロデューサーを紹介する「パフォーミング・アジア(Performing Asia)」が行われました。開会式は現地の先住民がニュージーランド、グアム、カナダ、米国、チリ、台湾などの先住民を迎える、という形式で、各自が民族儀礼を披露していきました。そして二日目には世界各地の先住民アーティスト20組があちこちでパフォーマンスを行う「オリジナル・ピープルズ・パーティー(The Original Peoples’ Party)」が行われました。

APAM (Australian Performing Arts Market)

閉会式では、先住民アーティストを代表して、劇団イルビジェッリ主宰のレイチェル・マザによるスピーチがありました。ブリスベンでのAPAM開催は今回が最後で、次回からはメルボルンでの開催が決まっています。マザはメルボルンのアーティストの代表でもありました。そしてブリスベンの先住民長老からメルボルンの先住民長老へ(ともに女性でした)、APAM受け渡しの儀式が行われました。ブリスベンの長老は自分の部族の言葉で語ったあと、英語で「2000世代にわたって多様性を尊重する伝統が培われ、育まれてきたこの地に、このように世界の多様な文化を新たに迎え入れることができたことを誇りに思います」と語ります。メルボルンの先住民長老は涙ぐみながら英語で話しはじめ、「私は彼女が自分の部族の言葉で話せるのを本当にうらやましく思いました。私たちの言葉はほとんど失われ、私は今になって、若い者から少しずつ学んでいるのです・・・」と話していました。

一方で、この閉会式では紛糾の一幕もありました。オーストラリア先住民の歌手が、自分の貧しい生い立ちや家族のことを語りはじめ、歌をなかなか歌おうとせず、ついには沈黙して客席を眺めたあと、「これは私の時間だ、話を聞いてくれ。このちょっと先では人々が飢えて死んでいっているんだ!おれには金がいる!金がいるんだ!」と叫びだしました。「オリジナル・ピープルズ・パーティー」に参加し、大きな資金が動くアートマーケットの様子を実際に見てみて、自分が生まれ育ったコミュニティとのギャップに怒りを感じたようです。それを受けて、次に出演したカナダ先住民系のアーティストも、最近殺害された先住民と、処罰を免れた加害者について語りだし、その人々も含めた地球上の多くの霊たちに歌と踊りを捧げることを会場に呼びかけ、参加者の多くが何重にも輪になって踊りだしました。

APAM閉会式でのレイチェル・マザのスピーチ

APAM閉会式でのレイチェル・マザのスピーチ

オーストラリア先住民に市民権が認められたのは1967年、ジャックが24歳のときでした。そして「盗まれた世代」に対して、首相が公式の謝罪をしたのはその40年後の2008年で、ほんの10年前のことに過ぎません。自然を加工する技術を基盤に作られてきた「文明」と、自然に寄り添いながら育まれてきた文化とのあいだの溝は、まだなくなったわけではありません。でも人と人とが見つめ合う、舞台芸術と呼ばれている営みには、きっとその溝を埋め、互いに学び合うことを可能にする力が具わっています。ヨーロッパでつくられた舞台芸術の枠組みやシステムを変えていくには、まだまだ問題が山積みですが、ジャック・チャールズやレイチェル・マザと一緒に、6万年の歴史に学びながら、明日の世界について考えていく機会にできればと思います。

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『ジャック・チャールズ vs 王冠』

演出:レイチェル・マザ
作:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル
音楽監督:ナイジェル・マクレーン
出演:ジャック・チャールズ、ナイジェル・マクレーン(ギター・ヴァイオリン)、フィル・コリングス(パーカッション)、マルコム・ベヴァリッジ(ベース)
製作:イルビジェッリ・シアター・カンパニー

5月6日(日)13:00開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら 
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