MOON

Illustration © Caspar PICHNER

Program Information

ジャンル/国名 演劇/日本
公演日時 4/29(土)19:00、4/30(日)18:30、
5/3(水・祝)18:30
会場 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間 未定(120分以内)
作・演出 タニノクロウ
作品イメージ © TANINO Kuro
2015年『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』
© 田中亜紀
2015年『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』
© 田中亜紀

作品について

野外に解き放たれる、奇才タニノクロウの新境地

昨年、岸田國士戯曲賞を受賞し、今まさに勢いにのる演出家タニノクロウ。受賞後初となる新作を、野外劇場「有度」にて発表する。元精神科医というキャリアを持ち、独特の作品世界を生み出してきたタニノがいま関心を寄せるのは、観客と俳優、光や音、そして空間をつなぎ合わせる「場の一体化」。15年にはワークインプログレスとして、『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』を東京芸術劇場にて上演。観客を巻き込んでいく演出は大きな反響を呼び、その発展形を望む声も多くあがった。今回、野外の開放的な空間を得て、よりダイナミックに観客との共同作業が展開する。

2つの才能がひとつになり、観客とともに創り上げる集大成

タニノが本作でタッグを組むのは、舞台・映画美術で活躍するカスパー・ピヒナー。タニノがドイツの公共劇場から委嘱を受けた『水の檻』で2人は運命的に出会い、『タニノとドワーフ達(以下略)』で「場の一体化」というイメージを共有した。彼らは本作をその集大成と位置付けている。タニノにとって、境界線のない自由な心を引き出してくれるピヒナーは、この挑戦に不可欠な存在だ。2人の遊び心あふれる仕掛けによって、いかに観客は導かれ、どのような場が生み出されるのか。「奇跡を見てみたい」とタニノ自身が語る今回、2つの才能によって他に類を見ない実験的な舞台が誕生する。

演出ノートより

私たち参加者は自由と美を持ち寄って「MOON」に集まる。私たちは互いの顔や言葉が分からなくても、不安や恐怖を好奇心に変えて世界を捉えていく。この作品との過ごし方は自由であること。参加者の動くこと全て、感じること全てが時間を作り、物語を作ること。それが力強い希望であること。

タニノクロウ 演出ノートより

演出家プロフィール

© 山内信也

タニノクロウ TANINO Kuro
1976年富山県出身。「庭劇団ペニノ」の主宰、座付き劇作・演出家。セゾン文化財団シニアフェロー(2015年まで)。2000年医学部在学中に「庭劇団ペニノ」を旗揚げ。以降全作品の脚本・演出を手がける。ヨーロッパを中心に、国内外の主要な演劇祭に多数招聘。劇団公演以外では、2011年1月には東京芸術劇場主催公演で『チェーホフ?!』の作・演出を担当。狂気と紙一重な美しい精神世界を表現し、好評を得る。15年3月ドイツにて新作『水の檻』を発表。16年『地獄谷温泉 無明ノ宿』にて第60回岸田國士戯曲賞受賞。2016年北日本新聞芸術選奨受賞。16年同劇団が文化庁芸術祭演劇部門優秀賞受賞。

プロダクションデザイナープロフィール

カスパー・ピヒナー Caspar PICHNER
プロダクションデザイナー。ベルリン・HAU劇場をはじめ、マキシム・ゴーリキー劇場、シャウシュピールハウス・フランクフルト、オーバーハウゼン劇場、東京芸術劇場などで様々な演出家と作品創作を行う。また、美術監督を担当した映画『Love Steaks』は、ミュンヘン国際映画祭にてジャーマン・シネマ・ニュータレント・アワードの全部門と、マックス・オフュルス賞を受賞している。タニノクロウとの創作は『MOON』で3作品目となる。

出演者/スタッフ

作・演出:タニノクロウ
プロダクションデザイン:カスパー・ピヒナー
出演:マメ山田、赤星満、プリティ太田、ブッタマン、鍋田亜由美

製作:SPAC-静岡県舞台芸術センター、合同会社アルシュ
共同製作:東京ドイツ文化センター GOETHE INSTITUT
[Mプロジェクト]助成:公益財団法人セゾン文化財団 THE SAISON FOUNDATION

注意事項

◎本作は参加型の作品です。ご来場の皆様にはヘルメットをご着用いただきます。
◎会場内へのお荷物の持ち込みは制限させていただく場合がございます。クロークをご利用ください。

寄稿

馴染む、居つく、住まう——タニノクロウの演劇と『MOON』

日比野 啓

  ドイツのなかでもライン川沿いでないと祝うことのない2月の謝肉祭。とくにケルンは有名だというので、8週間にわたる『水の檻』の稽古のオフの日に、タニノクロウと、舞台美術のカスパー・ピヒナーと、そして私の3人で、デュッセルドルフ近くの片田舎クレーフェルトからはるばる出かけていった。着いてみると聞きしにまさる盛り上がりで、日本でいえば週末の夜の歌舞伎町のような人混みと狂乱がケルンの通りという通りで見られた。私は少々ビビっていた。歌舞伎町だっていつ酔っ払いに殴られるかと身の危険を感じながら足早に通り抜けるのに、言葉もろくに話せないドイツで、ガタイもタッパも圧倒されるようなドイツ人たちの中にいるのだから無理もないだろう。
 ところが、ふと横を見るとタニノはこの上もなく幸福そうな微笑みを浮かべて辺りを見回している。ビックリした。こいつ、このお祭り気分をドイツ人たちと一緒に味わってやがる。酔っ払ってもないのに、周りの空気に感染して、カスパーに楽しそうに何か話しかけてはゲラゲラ1人で笑ってる。その時あらためてこの男の性格の一端を見たような気がした。タニノはどんな環境であろうと馴染むことができるのだ。ドイツにやってきたのは、クレーフェルト=メンヒェングラートバッハ公立劇場の委嘱を受けて『水の檻』をドイツ人俳優のクリストファー・ヴィントゲンスとともに作り上げるためだった。私は途中から参加したのだが、タニノがまるで自分の劇場であるかのようにファブリック・ヘーダーという名称の小劇場に居着き、スタッフと親しげに話していることにまず戸惑ったのだった。本番間近になってくると——泊まり込みこそ規則でできなかったものの——タニノは早朝から夜遅くまで劇場にいて、まるでそこが彼の住まいのようだった。
 馴染む、居つく、住まう。それがタニノの行動原理だ。そしてそれはタニノクロウの近年の演劇の成立条件でもある。最近大阪と東京で再演された『ダークマスター』では、観客は大阪の洋食屋の内部が再現された舞台を見ながら、イヤフォンを耳につけ、2階に引き篭もったまま出てこない「マスター」の指示を主人公の若者と一緒になって聞く。よく言われる「臨場感あふれる」という説明は間違っていないが、むしろ観客は主人公と一緒になって店に馴染み、居つき、住まうことが期待されている。
 東京芸術劇場アトリエイーストで2015年12月に上演された『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』でも、狭い空間にドワーフたちと一緒になって閉じ込められた観客たちはただドワーフが小竹信節によるオブジェを弄くり回すのを眺めるのではなく、ドワーフたちと一緒になってある作業を成し遂げることが求められる。これも「観客参加型」の演劇だといえばわかりやすいが、観客はここでドワーフたちと昔から友達であったかのように気をおかず、その空間に長年住んで馴染んでいるかのように動き回らないと楽しめない。
 タニノがそうやって観客に要求してくるこの種の感覚の共有は、赤の他人と交流する機会の余りない現代の日本人にとって最初は気恥ずかしく、また気後れするものだ。だが勇気を出してある一線を越えてしまうと、自己解放の気分で満たされることに驚かされるだろう。馴染む、居つく、住まう。それは結局、コミュニティを作る、ということだからだ。内側に閉じていこうとする自分の一部を譲り渡して、未知の時空間に自己を関わらせ、そこにいる他人とともに繋がることだからだ。
 このようなタニノの傾向は、『水の檻』でカスパーと共同作業をするようになって強まったように思う。昔は自閉的でひたすら自己の内部に沈潜していくような作品もあったが、カスパーとの出会いがタニノを変えたのだ。実際、昔は舞台美術はタニノが率先して作っていたが、最近ではカスパーはじめ他の舞台美術家が作品作りに関わっている。
 今回の新作『MOON』も、約1ヶ月前からカスパーとともに静岡に赴き、本当の意味で馴染み居つき住まった空間において、観客とのコミュニティ作りを目指すような作品になるようだ。いや、もっと色々聞いてはいるのだが、作っている途中でどんどん変わっていくだろうし、何よりも新鮮な目と耳でタニノの新作を味わってほしいのでこれ以上は何も言わない。ただ、覚えていてほしい。タニノは自身と同じように、観客が馴染む、居つく、住まうことを望んでいる。


<筆者プロフィール>
日比野啓 HIBINO Kei
演劇研究者。成蹊大学文学部教授。クレーフェルト=メンヒェングラートバッハ公立劇場委嘱作『水の檻』(Käfig aus Wasser、2015)原案・通訳。近刊は編著作『戦後ミュージカルの展開』(森話社、「近代日本演劇の記憶と文化」シリーズ)他。

↑ Page Top
Event Schedule