腹話術師たち、口角泡を飛ばす

© Falk WENZEL

Program Information

ジャンル/国名 演劇/フランス・ドイツ
公演日時 5/6(土)15:00、5/7(日)13:00
会場 静岡芸術劇場
上演時間 110分
上演言語/字幕 英語上演/日本語字幕
座席 全席指定
構成・演出 ジゼル・ヴィエンヌ
© Estelle HANANIA
© Estelle HANANIA
© Falk WENZEL

作品について

会話に見え隠れする本音、しだいに孤独の淵が露呈する

人形を介して人間のダークサイドをえぐる衝撃作を発表し、ヨーロッパ演劇界でも異彩を放つ演出家ジゼル・ヴィエンヌ。2014年の演劇祭で上演された問題作『Jerk』などで長年コラボレーションを続ける米国の作家デニス・クーパーと、かつてない会話劇を生み出した。実在する腹話術師の国際会議をモデルに、9人の腹話術師たちが相棒片手に軽妙なトークをくりひろげる。個性豊かな人形が、主人である人間と分裂して人格を持ち始めるおかしみには、コミュニケーションの不可思議さと不気味さがにじむ。あなたのその顔、ウラ?オモテ?それとも・・・?腹話術師は挑発する。

ドイツ屈指の公立人形劇団、その驚愕のテクニックを堪能

子どもから大人まで観衆を選ばない多彩なレパートリーで、その実力を世界に轟かすドイツの公立人形劇団「パペットシアター・ハレ」。専属の人形遣いの役者たちが、リアルな腹話術師として実名で出演し、人形とともに物語を創り上げている。作品ごとすべてオリジナルで製作された精巧な人形を自在に操り、まるで別人格と会話しているかのような演技は、腹話術師という職業の妙味をもたっぷりと見せてくれる。魔法のように命を吹き込まれた人形たちに観客はいつの間にか感情移入し、思いがけず人間の内面に潜む孤独や葛藤をのぞき見てしまうのだ。

あらすじ

年に一度の国際会議が始まった。自慢の人形を紹介し合い、思い出話に花を咲かせる一同。互いの記憶違いやまぎれ込んだ素人の存在に時おりぎこちない空気が流れるも、ハイテンションなテレビスターのニルスが強引にトークを盛り上げる。幾度の「手術」でよみがえった伝説の人形のお披露目や、ニルヴァーナのボーカル、カート・コバーン人形の生ライヴに皆が熱狂。しかし、人形でも人間でもない第三の声が聞こえ始め、人形と人間は仲たがいし…。会議は深い混乱へと落ちていく。

演出家からのビデオメッセージ

皆様こんにちは。
この作品は、米国のケンタッキー州で毎年行われる腹話術師の会議をフィクションとして再構築したものです。役者と人形師たちと一緒に、この会議での腹話術の様々な面を調査しました。この会議を虚構的に再構築することによって、人形と人間、人形と人形、人間と人間が交わす奇妙で強烈な会話が生み出されました。
この舞台は、私が出会った人形師の中でもヨーロッパ最高の技量を持つ、ドイツ出身の人形師・役者たちによって演じられます。この舞台では言葉の様々なレイヤー(層)が明るみになり、私達がどのように話し、異なるレイヤーを通じて対話を生み出すのかということついて語られます。
例えば、私があなたに話しかける時、声と一緒に私の感情にともなう思考や無意識も伝えていることは明らかです。私達が作りだす様々なレイヤー(層)が、対話に組み込まれています。人間と人形による複層の声の存在が、奇妙で強烈な対話を生み出すのです。挑戦的な試みによって、ユーモア、闇、愛へと感情が振幅する舞台が生み出されました。
私達皆に関わる問題を扱い、極めて不条理でおかしな状況が形而上学的な問いへと変わる舞台です。私達が経験してきた感情や思考を、分かち合うことができれば幸いです。
劇団員全員が日本に行くことをとても楽しみにしています。日本の劇場や人形の歴史を重んじる私達は、とても興奮しています。最新作で日本を再訪できて嬉しいです。
加えて、特に私にとって、文化的な違いから、日本で自分の作品を見せることは特別です。私の作品が、日本の観客と非常に深く複雑な対話をしていることを感じ、私もその対話の幅を理解しようと努めてきました。
こうした日本の観客に、新作をお見せできることをとても楽しみにしています。

演出家プロフィール

© Estelle HANANIA

ジゼル・ヴィエンヌ Gisèle VIENNE
1976年生まれ。振付家、演出家。哲学科を卒業後、人形劇の学校として著名なフランス国立高等人形劇芸術学院で学ぶ。アヴィニョン演劇祭でもたびたび作品を発表しているほか、日本での活動も旺盛で、2007年、招聘アーティストとして京都のヴィラ九条山での5か月の滞在を経て10年にはフェスティバル/トーキョー・京都国際舞台芸術祭で『こうしておまえは消え去る』を上演して話題を呼んだ。04年から続く作家デニス・クーパーとのコラボレーションでも数多くの作品を生み出し、14年には同氏との『Jerk』を、同じく活動初期からの共同製作のパートナーである演出家エティエンヌ・ビドー=レイとの『マネキンに恋して』とともにSPACで上演。ダンサーやアイススケート選手との共同製作を行うほか、自身による写真やインスタレーションも発表。現在は17年11月に発表予定の、15人のダンサーからなる新作を手がけている。

作家プロフィール

© Dennis COOPER

デニス・クーパー Dennis COOPER
1953年アメリカ生まれ。小説家・詩人。社会の周縁へと追いやられた人々の心理を深くえぐった作品を次々と発表し、ゲイ・パンク文化をリードしてきた。和訳された著書に『その澄んだ狂気に』(92年)『ジャーク』(94年)など。2012年にはポンピドゥー・センターでジゼル・ヴィエンヌとの共同作品の回顧展 “TEENAGE HALLUCINATION”(十代の幻覚)が開催され注目を集めた。最新作は15年に発表されたgifアニメーションからなるホラー小説 “Zac’s Haunted House”(『ザックの幽霊屋敷』)。

カンパニープロフィール

パペットシアター・ハレ
1954年設立。ドイツ語圏における唯一の人形劇団として、子ども向けだけでなく、大人も楽しめる作品を上演することで有名。95年より、演出家であり作家であるクリストフ・ヴェルナー氏が芸術監督を務め、劇団の国際的な評価を確立した。現在は9名の腹話術師と、1名の人形制作者が所属している。アーティストと人形との間のユニークな関係性により紡ぎだされる知的で魅惑的な作品が評価され、世界中のフェスティバルや劇場に招かれて公演を行う。年間上演される5本前後の作品には、あらゆるジャンルの集団との共同製作も多い。また、作品ごとにすべてオリジナルの人形を製作することも大きな特徴の一つ。ジゼル・ヴィエンヌとの共同製作による『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』(原題:The Venriloquists Convention)は2015年に製作されて以降、スイス、フランス、アメリカほか各国で上演されている。

トーク

◎プレトーク:各回、開演25分前より
◎アーティストトーク:5/7(日)終演後

出演者/スタッフ

構成・演出:ジゼル・ヴィエンヌ
作:デニス・クーパー(出演者との共作)
出演・共同創作:
ジョナタン・カプドゥヴィエル、ケルスティン・ダレイ=バラデル、ウタ・ゲーベルト、ヴィンツェント・ゲーレ パペットシアター・ハレ/ニルス・ドレシュケ、ゼバスティアン・フォルタク、ラース・フランク、イネス・ハインリッヒ=フランク、カタリーナ・クンマー
照明:パトリック・リウ
サウンドデザイン:KTL (スティーヴン・オマリー&ピーター・レーバーグ)

製作:パペットシアター・ハレ(ハレ/ザーレ)、DACM(ストラスブール)
共同製作:ナンテール-アマンディエ国立演劇センター、フェスティバル・ドートンヌ・パリ、レ・スペクタクル・ヴィヴァン-ポンピドゥ・センター、オルレアン=ロワ レ=サントル国立演劇センター、 TJP アルザス国立演劇センター(ストラスブール)、ル・マイヨン ストラスブール劇場、ラ・バティ ジュネーヴ・フェスティバル、カンプナーゲル – ハンブルク国際サマーフェスティバル、カゼルネ バーゼル、ル・パルビス タルブ国立舞台(ピレネー)、フライブルク劇場、ボンリユー アヌシー国立舞台、hTh モンペリエ国立演劇センター、フィデナ・フェスティバル(ボーフム)

助成:ドイツ連邦政府文化財団、一般社団法人プロ・ハレ、ザーレ・シュパーカッセ銀行、バーゼル=シュタット准州/バーゼル=ラント准州ダンス演劇専門委員会、アンスティチュ・フランセ [Théâtre Export]、アンスティチュ・フランセ・ドイツ – 演劇・ダンス部門、SACDボーマルシェ協会、在ニューヨーク・フランス大使館文化部

助成(ジゼル・ヴィエンヌ・カンパニーに対して):文化コミュニケーション省、Drac アルザス=シャンパーニュ=アルデンヌ=ロレーヌ グラン・テスト地域圏、ストラスブール市、バーゼル=シュタット州文化部

ジゼル・ヴィエンヌは2014年よりナンテール-マンディエ国立演劇センターのアソシエイト・アーティストです。

助成(ジゼル・ヴィエンヌ・カンパニーに対して):文化コミュニケーション省、Dracグラン・テスト、グラン・テスト地域圏、ストラスブール市

本ツアーはアンスティチュ・フランセより助成をうけています。 Institut Français

協力:京都造形芸術大学舞台芸術研究センター、東京ドイツ文化センター GOETHE INSTITUT

注意事項

◎一部刺激の強い表現があります(12歳以上推奨)。

寄稿

表層の下に闇がにじんでくる
「人形劇」を遥かに超えたジゼル・ヴィエンヌの世界

石井達朗

 ジゼル・ヴィエンヌの作品を初めて見たのは、2010年のフェスティバル/トーキョー(F/T)で招聘された国際共同作品『こうしておまえは消え去る』だった。
舞台一面が、演技する場所もないほど「林」になっているのには驚いたが、それ以上にその作風に心奪われた。演劇でもなくダンスでもない。登場する人物たちの佇まいに漂う異様なまでの緊張感。時間の流れは何かが起こりそうな予兆を孕む。そして何かが起こる。血を見たかもしれない。あとあとまでも尾を引く戦慄……。
 ロマンティック・バレエの代表作のタイトルロール、ジゼルは美しく純粋、けなげで儚いけれど、同じ名をもつジゼル・ヴィエンヌがつくる世界は、あまりにその対極にある。作品から判断すると、インスタレーションを主に展開するアーティストかと想像したが、人形作家としての背景があることは意外だった。そういえば舞台に人形もあった、というぐらいの印象しかないのだ。「人形劇」などというものを遥かに超えている。パフォーマンスアートというのでもない。とてもひとつのジャンルに収まりきれない。
 過剰にはならずに、説得力のあるインスタレーションがある。そこに人形がいて、人物が行動し、照明がゆっくりと変容し、言葉や声が飛び、サウンドがかぶさる……。それらがトータルに働きかける。ジゼル・ヴィエンヌの舞台では、どんな人形であっても、そのリアルな存在感は不気味なほどだ。しかし、不思議なことに人形そのもののイメージは次第に後退してゆく。形容しがたい暗雲のようなものが舞台に充満してきて、観客席にまで漂い始める。そんな異物感が人形も人間も包み込んでゆく。
 2014年にSPACが招聘した2作品『Jerk』と『マネキンに恋して』は、一筋縄では捉えられない特異なアーティスト、ジゼルを再確認するのに充分だった。前者は27人の青年を強姦殺人したという実際に起きた事件を下敷きにした人形劇。ひとりのパフォーマーがグローブ(手袋)人形を使い分けながら演じてゆく。子供に腹話術を見せるような偽りのエンターテインメントを装いつつ語られる残酷と暴力。このおぞましさはどうだろう。後者はマネキンたちとダンサーたちが同じ舞台に共存し、ジェンダーイメージを撹乱する。スペクタクル性のなかに官能と戦慄を漂わせる傑作だった。
 『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』は、『Jerk』の原作者でもあるデニス・クーパーが出演者との共同脚本で参加し、9名の腹話術師たちが1年に1度集まる会議というのが背景である。これは空想の物語ではなく、アメリカのケンタッキー州で毎年開催される国際的な腹話術師たちの会議から発想を得たという。かなり濃いキャラの腹話術師たちと、さらに輪をかけて強い個性を見せる人形たちがいる。
 「腹話術」と言えば身近なところでは、いっこく堂の唇を動かさずに何体もの人形を使い分ける素晴らしいテクニックに親しんでいるし、アメリカには歴史に残る腹話術師エドガー・バーゲンがいる。バーゲンの魅力的な腹話術は、幸いにも銀幕のなかに残っている(とくに当時の有名なコメディアン、W・C・フィールズと共演した『あきれたサーカス』(1939年)がいい)。いっこく堂でもバーゲンでも例にもれないが、腹話術というのはひとりの腹話術師が一体か複数の人形を扱うというのがふつうである。
 そう考えると9名もの腹話術師たちが、それぞれの人形たちと一緒に同じ舞台にいるという設定自体が尋常ではない。複雑なのだ。舞台の上には腹話術師と人形の数だけの人格が存在するのだろうか。いや、事態はそれ以上に入り組んでいる。「腹話術師」という職業をもつ、生の人間たちもいるのだ。さらには誰のものともわからない第三の言葉がどこからともなく聞こえてくる。この異様な状況が生まれるテキストをつくったデニス・クーパーの仕事は、見事というしかない。
 腹話術の楽しみ方というのは、一般的に腹話術師と人形とのあいだの、噛みあったり噛みあわなかったりの受け答えである。人形があたかも独立したキャラクターであるかのように滑稽と皮肉があればあるほど、観客は満足する。個性的な人形たちは、彼ら自身では存在しえず、絶えず腹話術師たちにより息を吹きこまれる存在である。人形は、もうひとりの分裂した腹話術師でもあるのだ。
 ある種の儀礼的な社交性をもって会議は始まる。人形は次第にヒトガタとなり、ありがちな表層の下に闇の領域をおびき寄せる。そして闇がにじむ。頭をもたげようと何やら蠢いているものがある。その不吉なものは何なのだろう。


<筆者プロフィール>
石井達朗 ISHII Tatsuro
舞踊評論家。ニューヨーク大学(NYU)演劇科・パフォーマンス研究科研究員、慶大教授を経て愛知県立芸大客員教授。関心領域として、サーカス、呪術文化、パフォーマンスアート。著書に『異装のセクシュアリティ』『身体の臨界点』『男装論』『サーカスのフィルモロジー』ほか

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