メッセージ
いまや「先進国」に住んでいる人たちの過半数が「なんか自分たち、ワリくってるなあ」という“不遇感”にとらわれるようになってしまいました。自分たちが不遇だと感じた次には、どこかにトクしてる連中がいるんだろう、それはどいつだ?と憎悪の対象探しが始まります。で、ひとたび「憎悪をエネルギー源として自分を元気にする」やり方を覚えると、それには一種の中毒性があって、常に憎悪の対象が欲しくなり、自分の不遇の原因究明などよりもただ憎悪の対象を見つけることに血マナコになってしまいます(憎悪をあおる政治家は人気が出て、憎悪をあおるメディアは部数を伸ばします)。
こうして考えてくると、人間というものはつくづく変わらないものだなあとガッカリしますが、実はひとりひとりは苦い経験によって変わることができていて、けれども、ひとりひとりの「痛恨の思い」はその人が世を去るとともにその社会からも消えてしまうために、こうしたことが繰り返されてゆくのかもしれません。そして「痛恨の思い」は“相続”できないが、「憎悪」はいともかんたんに相続されてゆくんですね。しかも憎悪は最強の伝染病で、たちまち国境を越えてひろまってゆきます。インターネットはその速度をも数倍に加速します。
いま、世界はかなりギリギリの淵に立っていると僕は思います。はたして人類は土俵際で踏みとどまることができるでしょうか?私たちには何ができるのでしょうか?
踏みとどまるには、人間が「熱狂する」のではなく「面白がる」方を選べばいいのだというところまではわかります。「熱狂する」は同種の人たちの閉じたサークルに没入することですが、「面白がる」は対象と距離をとる冷静さが前提になりますから(いわば「醒めた目の愛」ですね)。
けれど実際は、その場にいると「熱狂する」方が明らかに喜びが大きいし、一方「面白がる」の方は本質的に「フキンシン」と隣接する精神の作業ですから、肝心の局面でついつい自粛してしまいがちです…。
ただ、人が冷静になるために効果的な方法がふたつあることが知られています。
ひとつは自分自身の姿をふと、ありのまま見てしまうこと。メイクとすっぴんの関係で考えてみると、メイクというのはとある人間集団の中でキレイとかカワイイとかカッコイイと共有されているイメージに近づく作業ですから没入できて盛り上がるわけですが、すっぴんの自分の顔をふとした拍子に見てしまうととたんに冷静になりますよね。
もうひとつはその人間集団の外の人、つまり「お客様」から自分が見られること。人間の面白いところは、「お客様」から見られると自動的に「少しでも良く見られたい」という見栄が生じることです。そのとき、自分たちのモノサシが相対化され、冷静になれます。
えーと、我田引水になりますが、この2つの「冷静作用」が演劇と演劇祭には備わっているんじゃないかと、そんなことも僕は思っています。
是非、演劇と演劇祭を、面白がって下さい。
宮城聰(SPAC芸術総監督)
宮城 聰 MIYAGI Satoshi
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。14年7月アヴィニョン演劇祭から招聘されブルボン石切場にて『マハーバーラタ』を上演し絶賛された。その他の代表作に『王女メデイア』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。
ふじのくに⇄せかい演劇祭とは
SPAC-静岡県舞台芸術センターは、ゴールデンウィークに「ふじのくに⇄せかい演劇祭2017」を開催いたします。「ふじのくに(静岡県)と世界は、演劇を通じてダイレクトに繋がっている」というコンセプトのもと、国内外の多彩な舞台芸術を、静岡の地で広く体験していただける演劇祭です。本年も、世界の現代演劇シーンをリードする演出家たちの新作・日本初演作を上演します。また前回に引き続き、「ふじのくに野外芸術フェスタ」を同時開催し、静岡市中心部の駿府城公園を会場として公演を行います。関連企画では、静岡市「まちは劇場プロジェクト」との連携事業で、静岡市街の路上を舞台にパフォーマンスを繰り広げる「ストレンジシード」がさらに充実。また、毎年好評の静岡を中心に活動する有志によるゲストハウス企画「みんなのnedocoプロジェクト」もあります。地域に根差し、世界とつながる、「静岡をあげての演劇祭」を実現していきます。
SPAC-静岡県舞台芸術センター
静岡県舞台芸術センター(Shizuoka Performing Arts Center : SPAC)は、専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う日本で初めての公立文化事業集団です。舞台芸術作品の創造と上演とともに、優れた舞台芸術の紹介や舞台芸術家の育成を事業目的として活動しています。1997年から初代芸術総監督鈴木忠志のもとで本格的な活動を開始。2007年より宮城聰が芸術総監督に就任し、事業をさらに発展させています。より多彩な舞台芸術作品の創造とともに、「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の開催、中高生鑑賞事業や人材育成事業、海外の演劇祭での公演、地域へのアウトリーチ活動を続けています。13年8月には、全国知事会第6回先進政策創造会議により、静岡県のSPACへの取り組みが「先進政策大賞」に選出されました。また14年7月、フランスの世界的演劇祭「アヴィニョン演劇祭」に、『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』と『室内』の二作品が公式プログラムとして招聘され、称賛を浴びました。
スタッフ
芸術総監督:宮城聰
専務理事:宇佐美稔
芸術局長:成島洋子
制作部:大石多佳子(主任)、丹治陽(副主任)、仲村悠希、髙林利衣、中野三希子、中尾栄治、米山淳一、尾形麻悠子、内田稔子、中澤翠、林由佳、坂本彩子、塚本広俊、雪岡純、梶谷智、計見葵、佐藤亮太
創作・技術部:村松厚志(主任)
演出部班:内野彰子(チーフ)、山田貴大、林哲也、降矢一美、神谷俊貴、横田宇雄、守山真利恵
照明班:樋口正幸(チーフ)、小早川洋也、神谷怜奈
音響班:加藤久直(チーフ)、山﨑智美、澤田百希乃
美術班:深沢襟(チーフ)、佐藤洋輔、三輪香織、渡部宏規
衣裳班:駒井友美子(チーフ)、大岡舞、清千草、高橋佳也子、川合玲子
文芸部:大澤真幸、大岡淳、横山義志
事務局:栗田豊喜夫、小澤裕見子、浪越崇正、加藤一輝
渉外アドバイザー:西尾祥子
字幕監修:戸田史子
運営補助:SPACシアター・クルー
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アートディレクター:黒田武志
人形制作:渡部真由美
撮影:内池秀人
テキスト:阪清和
校正:久我晴子
翻訳:田中伸子
ウェブサイト:株式会社メディア・ミックス静岡
ビデオ:ニシモトタロウ
認定:ふじのくに芸術祭共催事業
主催:SPAC-静岡県舞台芸術センター