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『アンティゴネ』美加理ロングインタビュー(後編)

このたびSPACは、世界最高峰の演劇の祭典「アヴィニョン演劇祭」(フランス)に招聘され、宮城演出の『アンティゴネ』を同
演劇祭のオープニングとしてメイン会場「法王庁中庭」で上演することが決定しました!

本作で王女アンティゴネを演じるのは、これまでも多くのSPAC作品に出演し、独特の存在感で観客を魅了してきた美加理。
稽古開始に先立つ1月末、本作『アンティゴネ』への思いや、舞台で演じるに際し大切にしていることなどを伺いました。
先日の前編に続き、後編をお贈りします。  
 
─ 舞台に立って演技をしながら、お客さまの反応を感じるようなことはありますか?
 
お客さまの反応は、体の動きはもちろん、心の動きのようなものも薄ら感じられる気はします。お客さまが舞台に集中していて、頭の中でイマジネーションがめまぐるしく動いているようなときは、役者はそのエネルギーのようなものをいただきながら演技していますし、同時に、「お客さまの集中した状態に水を差さないようにしよう」「余計なことをしないようにしよう」と思って演技を少しだけ抑えたりもします。逆に、あまり舞台に集中していないようなときは少し多めに動いたり。といっても、極端に変えるというよりは、無意識のうちに変化をつけている感じですね。

また、過去、そこにいた人たちの想いだったり熱気だったりを感じることもあります。私は、今いる観客の皆さまの反応や、過去の人たちの想いや熱気をまとめて“場のエネルギー”と呼んでいます。この“場のエネルギー”の存在を、ある舞台をきっかけに強く実感するようになりました。

浅草のトキワ座という劇場で一人芝居をしたときのことです。その劇場は、浅草が本当に賑やかだった時代に、エノケンこと榎本健一さんや古川ロッパさんも出演されていた劇場で、連日熱気に包まれていたそうです。そんな場所で一人芝居をしているうちに、毎日ここに人がいっぱい集まって、皆が声を上げて大笑いして……という“気”がうわーっと押し寄せてきた瞬間がありました。そのとき、「目には見えないけれど、人の想いはその土地にエネルギーとして残っているんだなあ」と実感したんです。

もちろん人気(ひとけ)だけではなく、樹木や石、大地や建物そのものの息遣いを、毎回敏感に感じ取りながら演技できるようになれたら良いのですが……。実際は、緊張したり、芝居をするのに精一杯だったりと、まだまだ難しいですね。

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─ どれだけ舞台経験を踏んでも緊張するものなのでしょうか。
 
いまだに緊張します! 舞台の初日でも何でもないのに、理由なく急に緊張しちゃうなんてことは日常茶飯事です。私自身は特に緊張していなかったのに、役者の誰かが緊張していてそれが連鎖して緊張するということもあります。

何週間かにわたる公演の、中盤になって少し慣れが出てくる頃も要注意なんです。芝居がルーティンになりかけているせいでしょうか、舞台上で意識がぽんと飛んでしまうようなことがあるんです。そこで、「意識が飛ばないようにしなくちゃ」と気をつけるわけですが、そうやって身構えると体がガチガチに固まってしまって、最終的にものすごく緊張してしまう、というケースもあります。
 
─ 意識が飛びそうになるときがあるんですね!
 
はい。そんなときは、必死で耳を澄ませます。これは宮城の教えなんです。宮城はよく、「舞台の上では何が起こるかわからない。だから、緊張してしまったり、違うことに意識が捕らわれてしまったりして危ないなと感じたら、まず耳を澄ませて周囲の音やほかの役者のせりふ、音楽を冷静に聞きなさい」と言っています。こうすると、意識がすっと戻ってくるんです。他にも、わからないように爪を立ててツボを刺激したり、お尻の穴を閉めたり(笑)するのも効きます。魂が落ちこぼれないように(笑)
 
─ 改めて『アンティゴネ』について伺います。2017年版の見どころを教えてください。
 
宮城からは、フィナーレの演出が大きく変わると聞いています。2004年版は葬列をイメージしたものだったんですが、今回は役者総出の盆踊りになるとか。このほか、宮城作品の特徴の一つである役者による生演奏についても奏者の配置がかなり変わるようですし、一つの役を「語る俳優」と「動く俳優」の二人で演じる上演スタイルになるかも、という話です。ですから、私たち役者にとっても今回の『アンティゴネ』は新たな挑戦と言える作品になります。そのあたりを見ていただけると嬉しいですね。

また、世界最古の演劇といわれるギリシア悲劇を、駿府城公園という身近な場所で、夜空を見上げながらご覧いただけるのも、今回ならでは。古代ギリシャや、古の人々の心に思いを馳せながら、今を感じ、未来を考える。そんなゴールデンウィークはいかがでしょうか?

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─ 「面白そうだな」思いつつも、「ギリシア悲劇って難しそう」「敷居が高そう」と尻込みする方も多そうです。
 
私もそう思います(笑)。ギリシア悲劇はとにかく壮大ですから。ですが、だからといって、現代を生きる私たちとまったく無縁かといえばそうでもないのでは?と思うんです。むしろ、ギリシア悲劇に込められた、神、人間の運命、国家と人の営みの関係といった問題は、この“今”という時代を生きる私たちだからこそ、より深く共感できる部分もあるのではないでしょうか。同時に、ギリシア悲劇で描かれる出来事を私たちの人生に置き換えて考えてみると、案外生きる上でのヒントが見つかるかもしれません。2500年たとうが、人間の変わらなさ加減を認めたうえで、何かはっと閃めく瞬間を見いだせることもあるだろうと思うのです。

また、ギリシア悲劇は、膨大な台詞や音楽などによって精神の緊張や高揚をもたらし、そのギリギリの肉体や精神の糸が切れる瞬間に、役者にも観客にも開放感(カタルシス)が訪れます。そこで繰り広げられる盆踊りが、皆さまの心や、世界の寿ぎの場になるよう念じて舞台に臨みたいと思います。

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─ 最後に、公演を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
 
私は「場」が持つエネルギーを感じるよう努めて演じています。エネルギーの素となっているのは、その土地の自然と、今いる観客の皆さまと、かつて生きていた人たちの存在や想い。そして我々作り手です。この目には見えないエネルギーの往き来が日々違うことで、立ち現われるものも変わります。それは公演を重ねるたびに蓄積され、作品の強度になっていきます。お客さまの心や魂が動くことで劇は完成されるのだと、つくづく感じます。

さらには、観客の皆様や私たちのご先祖様など、あの世の方々がふらりと芝居見物に来て下さるといいですね。

実は、本作『アンティゴネ』は駿府城公園でお披露目したあと、フランスで毎年開催される世界的な演劇の祭典「アヴィニョン演劇祭」で上演することになっているんです。ですから、できるだけ大勢の皆さまにご来場いただき、この駿府城公園の公演で立ち現れたエネルギーをアヴィニョンに携えていけたら…と考えています。皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

(2017年1月 静岡芸術劇場2Fカフェ・シンデレラにて)

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ふじのくに野外芸術フェスタ2017

アンティゴネ 時を超える送り火
構成・演出:宮城聰 / 作:ソポクレス / 出演:SPAC
5月4日(木・祝)、5日(金・祝)、6日(土)、7日(日)各日18:30
駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
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