リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~

© Tristan JEANNE-VALÈS

Program Information

ジャンル/都市名 演劇/リモージュ
公演日時 4/28(土)13:00、4/29(日)13:00、4/30(月・祝)11:00
会場 舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
上演時間 130分
上演言語/字幕 フランス語上演/日本語字幕
座席 全席自由
演出(共同創作) ジャン・ランベール=ヴィルド ほか
製作 リムーザン国立演劇センター
© Tristan JEANNE-VALÈS
© Tristan JEANNE-VALÈS
© Tristan JEANNE-VALÈS

作品について

フランス演劇界の異端児による、アニミズム的感性あふれるシェイクスピア

フランス演劇界の異端児、ジャン・ランベール=ヴィルドがシェイクスピア作品のなかでも随一の魅力を放つ悪漢の物語を二人芝居に仕立てた。演出家自ら、自身のトレードマークでもある道化姿で現れ主人公リチャードを演じ始めると、道化がもう一人。怪優ロール・ヴォルフが他のあらゆる登場人物を見事に演じ分け、二人の道化が演じる『リチャード三世』という入れ子状の舞台が展開する。インド洋に浮かぶ、仏海外県・レユニオン島という特異な風土で育まれたランベール=ヴィルドの詩的想像力とアニミズム的感性、そして悪戯心に満ちた演出が、孤独と幼児性が合いまったリチャードの心の闇を浮き彫りにし、二人の道化が仕掛ける罠に観客までもがはまっていく。

ダークヒーローが暴れあそぶ、グラン・ギニョール(見世物小屋)へようこそ

約40もの人物が登場する原作を二人芝居にする前代未聞の試みで、「第三の役者」として不気味な存在感を放つのが、目にも鮮やかな舞台美術。05年よりランベール=ヴィルドとの共同創作を行い、毒っ気のある絵本などで日本にも熱狂的なファンを持つアーティスト、ステファヌ・ブランケが手掛けている。びっくり箱のような視覚的トリックは、まるで「グラン・ギニョール(見世物小屋)」。そこで次々と繰り出される心理ゲームは子どもの遊びのようでもあり、狂気と残虐さを増していく。もう一つ目を奪われるのは、フランス伝統の「リモージュ焼」で作られたリチャードの鎧。繊細かつ硬質な磁器の鎧で戦うその姿に、深い悲しみが滲む。

あらすじ

二人の道化が芝居をはじめる。一人はパジャマ姿、自らを主人公に重ねているようだ。15世紀のイングランド。世界を憎悪するリチャードは自分自身への忠誠心だけを武器に、巧妙な心理作戦とあらゆる甘言で人々をだまし、裏切り、殺し、ついには血塗られた王座に就く。悪の限りを尽くしたリチャードは深い孤独に呑み込まれ、破滅へと向かいはじめる。演じていたはずの道化も、悪夢から抜け出せなくなり…

演出家プロフィール

© Thierry LAPORTE

ジャン・ランベール=ヴィルド Jean LAMBERT-WILD
1972年、南インド洋に位置するフランス海外県・レユニオン島生まれ。劇作家・演出家・俳優。特異な風土で培われた詩的想像力と、魔術的演出術が高く評価され、異例の若さでフランス各地の国立演劇センターの芸術監督を歴任。代表作に、偽自伝的作品群である『ヒュポゲウム(墓)』、ブラジルの原住民と制作した『脱皮』、『ゴドーを待ちながら』等。2014 年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受賞。SPACでは『スガンさんのやぎ』(11年)、『ジャン×Keitaの隊長退屈男』(14年)を上演。19年にはSPACとの共同創作で新作を発表予定。

舞台美術デザイナープロフィール

ステファヌ・ブランケ Stéphane BLANQUET
1973年生まれ。コミックスをはじめ、絵画、アニメ―ション、舞台美術など多彩な領域で活動する現代のフランスを代表するビジュアルアーティスト。外国での出版や個展も精力的に行い、その幻視的でダークな作風は世界各地で熱狂的なファンを持つ。代表作の『幸福の花束』は日本語にも翻訳され、10年の東京Span Art Galleryでの展示会は国内でも大きな話題を呼んだ。05年よりジャン・ランベール・ヴィルドとの共同創作を始め、16年よりテアトル・ド・リュニオン=リム―ザン国立演劇センターのヴィジュアル部門芸術監督に就任。

作家プロフィール

ウィリアム・シェイクスピア William SHAKESPEARE(1564~1616)
劇作家、詩人。豊かな言葉と人間の内面世界を極限まで追求した巧みな心理描写で、最も優れた英文学の作家と評され、後世に多大な影響を与えた。四大悲劇『ハムレット』『マクベス』『オセロー』『リア王』をはじめ、『ロミオとジュリエット』『ヴェニスの商人』『夏の夜の夢』『ジュリアス・シーザー』など今も世界中で親しまれる多くの傑作を残した。現代においても、国内外で様々な演出家が斬新な演出を試みている。

トーク

◎プレトーク:各回、開演25分前より

出演者/スタッフ

演出:ジャン・ランベール=ヴィルド、ロレンゾ・マラゲラ
原作:ウィリアム・シェイクスピア

出演:ジャン・ランベール=ヴィルド、ロール・ヴォルフ
仏語訳・翻案:ジャン・ランベール=ヴィルド、ジェラルド・ガルッティ
空間音響・音楽監督:ジャン=リュック・テルミナリアス
美術:ジャン・ランベール=ヴィルド、ステファヌ・ブランケ
舞台監督:クレール・スガン
照明:ルノー・ラジエ
ビデオ操作:フレデリック・メール
衣裳:アニック・セレ=アミラ
通訳:平野暁人
エグゼクティブ・プロデューサー:カトリーヌ・ルフ―ヴル

製作:テアトル・ドゥ・リュニオン=リム―ザン国立演劇センター
共同製作:
コメディ・ドゥ・カーン=ノルマンディ国立演劇センター
フューチャーパーフェクト・プロダクションズ
ル・ヴォルカン=ル・アーヴル国立舞台
レスパス・ジャン・ルジャンドル=コンピエーニュ劇場
モンテ=テアトル・デュ・クロシュタン
レ・アール・ドゥ・スカールビーク=ヨーロッパ文化推進拠点
ラ・カンパニー・キャラクテール
支援:
フューズボックス・フェスティバル
テキサス大学オースティン校(演劇・ダンス部門)
在ヒューストンフランス領事館

SPACスタッフ
舞台監督:佐藤大祐(KAAT神奈川芸術劇場)
舞台:守山真利恵
照明:藤田隆広、久松夕香、佐藤花梨
音響:牧大介
ワードローブ:駒井友美子
字幕製作:平野暁人、長島菜美子(松岡和子訳による)
字幕操作:平野暁人
制作:林由佳、太田垣悠
シアタークルー(ボランティア) :澤口さやか、藤田泰史、松本万有

技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括:加藤久直

支援:平成三〇年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業 文化庁 beyond2020

助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

寄稿

道化師断章

大島 幹雄

  道化師(クラウン)は近代サーカス誕生とともに生まれた。1780年、退役軍人フリップ・アストリーが、ロンドン・テームズ川のほとりに半円型劇場「アストリー・ロイヤル演劇劇場」を開設、曲馬を中心に、アクロバットや綱渡りを織り込んだショーを上演し、大成功をおさめる。近代サーカスの歴史は、このアストリーの半円形劇場からはじまる。彼はこのショーのためにポーターとフォーチュネリーというふたりの道化役者を雇い、下手な曲乗りのパロディを演じさせた。「ビリー・ボタン」と名付けられたこのコミックショーは、曲馬ショー以上に人気を呼ぶ。ひとつの芸が終わり、そのパロディを演じるクラウンが登場するというスタイルが、近代サーカスに定着していく。サーカスのクラウンは、なくてはならない存在として近代サーカスの出発とともに登場したのである。
 サーカスにクラウンたちが登場するはるか前から、笑いを職業とする一群の放浪芸人たちがいた。サルタンバンク、ジョングルール、ザニ、スコモローフと呼ばれた彼らは、街道の四つ辻や広場、市など人が集まるところにどこからともなく現れ、民衆たちを楽しませていた。こうした放浪芸人たちのルーツをさらに遡るなら、古代ギリシア・ローマ時代のミモスと呼ばれた喜劇役者までたどりつくことになるだろう。笑わせることで人を楽しませる道化師は、有史以来、姿、形、名前をかえながら、いつの時代にも存在し、また必要とされていたのである。
 そしてこうした道化たちはシェイクスピアの芝居でも、フォルスターフ(『ヘンリー四世』)、タッチストン(『お気に召すまま』)、フェステ(『十二夜』)、サーサイティーズ(『トロイラスとクレシダ』)、そしてあの『リア王』の道化などに姿を変えながら、生き続けていた。彼らは劇の進展を説明すると同時に劇中の諸人物を動かすような狂言回しをしながら、シェイクスピア芝居にはなくてはならない存在になっていた。シェイクスピアの道化のルーツが、「愚人の祭典」という祭りから発した「愚人文学」、古くより民間に伝承され、伝説化された道化師の物語や王宮に養われた道化師たち、そしてシェイクスピア以前の劇に登場していた道化で、この3つの流れがまじりあって、シェイクスピア劇の道化を生む広大な流れとなったと、中橋一夫は『道化の宿命』(中央公論 1948)の中で論じている。この著は、シェイクスピア戯曲の底流にある道化性を徹底的な読みで分析したもので、シェイクスピアを道化という視点から考察した先駆的な仕事であった。
 詩人ボードレールは、芸術家を道化師の姿に託して、飛翔と転落、高みと深淵、「美」と「非運」という矛盾した使命を授けられていると語っているが、道化が放つ永遠の魅力は、人間の魂の中にある内的な矛盾をいつも抱えながら、笑いに昇華しているからではないか。道化師に限りない愛を捧げていた映画監督フェリーニも「道化師は人間の不合理な側面を表現する風変わりな創造物の化身」と書いている。
 いつの世も民衆が笑いを求めるのは当然のことなのだが、民衆が道化を求めていたのはそれだけではなかった。道化たちが笑いを武器に、ふたつの世界を変幻自在に行き来できた、境界を越えることを許されたヒーローだったからだ。道化たちはいつの時代も、相反するふたつの貌を持っていた。反逆者でもあり救済者であったかと思えば、愚者でありながら聖者でもあるというように、相反するふたつの世界を抱え込んだところに、道化が脈々と生き続けてきた存在理由があるといえるだろう。
 中橋一夫は「道化は元来、一寸法師のような醜い姿をして、人々の嘲弄の的となっていた」が、それは悪魔を防ごうという迷信が因になっている、顔を黒く塗り、悪魔に扮した人間が村で悪戯をした後で、村人一同の喧々囂々(けんけんごうごう)たる弾劾をうけて村から追い立てられる風習をとりあげ、「この悪魔に扮した人間が実に道化の祖先なのであった」と書いているが、もしかしたら悪の権化ともいえるリチャード三世の祖型はこんなところにあるのかもしれない。
 二人の道化が演じるという、ジャン・ランベール=ヴィルド演出『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』は、どんな道化の世界をみせてくれるのだろう。とても楽しみである。


<筆者プロフィール>
大島 幹雄 OSHIMA Mikio
1953年宮城県石巻市生れ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業。在学中はメイエルホリドを研究。ソ連・東欧などのアーティストを招聘する会社を経て、現在はアフタークラウディカンパニー(ACC)に勤務、ディミトリーやミミクリーチなどの世界の道化師の公演などもプロデュース。ウェブサイト「デラシネ通信」を主宰、雑誌「アートタイムス」を刊行、さらに2016年から生れ故郷石巻で地域誌「石巻学」を刊行している。
主要著作
『サーカスと革命』、『海を渡ったサーカス芸人『サーカスは私の「大学」だった』、『明治のサーカス芸人はなぜロシアに消えたのか』、『サーカス学誕生』他

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