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メッセージ

さあ青だ いやもう一度 みぎひだり

 今の世の中、「負の感情」が無敵になってしまいました。
 たとえばあるコミュニティで「カワイソウだ」という感情が多くのメンバーで共有されるとき、その「カワイソウだ」に同調しないメンバーは、まるで冷血な人非人のようにみなされてしまいます。「こんなひどいことをするなんて許せない」という感情が多数派になると、「許せない」という強い感情が正当化されて、「許せないと思わない人間は仲間じゃない」となってしまいます。

 感情というものは、人間にとってやっかいなものです。いくら論理でものを考えていても、感情は、論理とは別の軸に存在し続けます。論理で考えれば感情が抑制される、とはとても言えないのです。特に「負の感情」が自分の中に沸き起こったとき、論理的思考でそれを押しとどめることはほぼ不可能ではないでしょうか。たとえば「嫉妬」を、論理的に考えたら愚かな判断だとわかったのでやめました、という人はまずいないだろうと思います。
 つまり、感情というものに対しては、「その感情は正しくない」と言うことができないんですね。負の感情を「抱かないようにする」ことができる人間はほとんどいないからです。
 その上、負の感情は容易に伝染します。人々は負の感情によって強く結束します。

 それゆえ、ひとたび社会を動かす原理として負の感情を前面に出してしまったら、それはコントロール不能になり、社会が乱れる、だからなるべく負の感情を他者の前で隠しておこう、という知恵を人類は蓄積してきたはずです。
 しかし今や、世界中の政治家が人々の「負の感情」を煽り、それを利用するようになりました。「ポピュリズムとか言われても、結果として既得権層が壊せるなら、世直しができるなら、それは正しいはずだ」と彼らは考えるのでしょう。
 でも負の感情が野放図に解き放たれた世界は、「同じ感情を感じていない人間を許容しない」社会です。そういう社会に暮らす者は、自己防御のために、いつのまにか周囲と同じことを感じるようになります。そうして巨大な塊となった負の感情は、最終的には暴力として発散されることになります。

 人間が負の感情を克服できない以上、せめて暴力として発散されることのないように、と人類が生み出した工夫のひとつが演劇やダンスです。
 目前で「激情に駆られた」人間の行為を見ることで、人は、実世界では抑制すべき暴力が舞台上で梁跋扈することの快感を味わいつつも、感情というものの「始末におえなさ」に思いを致します。
 なにしろ優れた作品とは、感情というものに客観的な形を与えることにほかならないのですから。
 とある負の感情が多数派になったとき、さあ青信号だ、行っちまえ、となりがちな人類は、一方でこうした制御装置を開発してきたんですね。

宮城 聰

宮城聰(SPAC芸術総監督)

© 新良太

宮城 聰 MIYAGI Satoshi
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡邊守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、またアウトリーチにも力を注ぎ「世界を見る窓」としての劇場運営をおこなっている。17年『アンティゴネ』をフランス・アヴィニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。2004年第3回朝日舞台芸術賞受賞。2005年第2回アサヒビール芸術賞受賞。2018年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

ふじのくに⇄せかい演劇祭とは

SPAC‐静岡県舞台芸術センターでは、1999 年に開催された世界の舞台芸術の祭典「第2 回シアター・オリンピックス」の成功を受けて、2000 年より「Shizuoka 春の芸術祭」を毎年行い、各国から優れた舞台芸術作品を招聘・紹介してきました。SPACが活動15年目を迎えた2011年からは、名称を「ふじのくに⇄せかい演劇祭」と改め、新たなスタートを切りました。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭」という名称には、「ふじのくに(静岡県)と世界は演劇を通して、ダイレクトに繋がっている」というメッセージが込められています。静岡県の文化政策である「ふじのくに芸術回廊」と連携しながら、世界最先端の演劇はもちろん、ダンス、映像、音楽、優れた古典芸能などを招聘し、静岡で世界中のアーティストが出会い、交流する――そんなダイナミックな「ふじのくにと世界の交流(ふじのくに⇄せかい)」を理念としています。

SPAC-静岡県舞台芸術センター

静岡県舞台芸術センター(Shizuoka Performing Arts Center : SPAC)は、専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う日本で初めての公立文化事業集団であり、舞台芸術作品の創造・上演とともに、優れた舞台芸術の紹介や舞台芸術家の育成を事業目的とする。1997 年から初代芸術総監督鈴木忠志のもとで本格的な活動を開始。2007 年より宮城聰が芸術総監督に就任し、さらに発展させている。演劇の創造、上演、招聘活動以外にも、教育機関としての公共劇場のあり方を重視し、中高生鑑賞事業公演や人材育成事業、アウトリーチ活動などを続けている。2013年8月には、全国知事会第6回先進政策創造会議により、静岡県のSPAC への取り組みが「先進政策大賞」に選出された。

スタッフ

芸術総監督 宮城聰
専務理事 宇佐美稔
芸術局長 成島洋子
制作部 大石多佳子(主任)、丹治陽(副主任)、仲村悠希、髙林利衣、中野三希子、中尾栄治、米山淳一、内田稔子、坂本彩子、雪岡純、梶谷智、計見葵、布施知範、西村藍、久我晴子、宮川絵理、入江恭平、北堀瑠香、永井健二、太田垣悠、尾形麻悠子、清水聡美、林由佳
創作・技術部 村松厚志(主任)
演出部班 内野彰子(チーフ)、山田貴大、降矢一美、守山真利恵、秡川幸雄、山﨑馨、菊地もなみ、杉山悠里
照明班 樋口正幸(チーフ)、小早川洋也、花輪有紀、島田千尋
音響班 右田聡一郎(チーフ)、林哲也、澤田百希乃、竹島知里
美術班 深沢襟(チーフ)、佐藤洋輔、渡部宏規、吉田裕梨
衣裳班 駒井友美子(チーフ)、清千草、高橋佳也子、川合玲子、佐藤里瀬
文芸部 大澤真幸、大岡淳、横山義志
事務局 小田益秀、小澤裕見子、堀由布子、大石直樹、坂田貞美、村田美由紀、山岡ひとみ
字幕監修 戸田史子
運営補助 SPACシアター・クルー
PR  
アートディレクター 太刀川英輔(NOSIGNER)
撮影 加藤孝
テキスト 阪清和
翻訳 田中伸子
ウェブサイト 株式会社メディア・ミックス静岡
ビデオ NOSIGNER

[ふじのくに⇄せかい演劇祭2019]
主催:SPAC-静岡県舞台芸術センター
助成:平成30年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
ふじのくに芸術祭共催事業

[ふじのくに野外芸術フェスタ2019]
主催:ふじのくに野外芸術フェスタ実行委員会
共催:静岡市

文化庁 静岡県文化プログラム beyond2020 ふじのくに芸術回廊 GOOD DESIGN AWARD 2018
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