おちょこの傘持つメリー・ポピンズ

Program Information

ジャンル 演劇
公演日時 4/28(水)18:00・29(木・祝)18:00・30(金)18:00
会場 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間 120分
上演言語/字幕 日本語上演/英語字幕
座席 全席自由
演出 宮城聰
製作 SPAC-静岡県舞台芸術センター
© MIURA Koichi
© MIURA Koichi
© MIURA Koichi

作品について

アングラ熱は止まらない…
唐十郎×宮城聰、一年越し!待望の新作野外劇!!

さびれた傘屋を営む若僧・おちょこと訳アリの男・檜垣、彼らの前にメリー・ポピンズさながら突如として現れる謎の客・石川カナ。彼女は天使か、はたまた狂犬か。1960年代以降の小劇場演劇をリードしてきた劇作家・演出家の唐十郎が描いた、切ない犬死にの哀歌(エレジー)が、一年の時を経て今宵、日本平の夜空へ解き放たれる!!

本作は、昨年4月、新型コロナウイルス感染症の拡大により上演中止となったが、本番予定時刻に『おちょこの傘持つメリー・ポピンズのいない劇場』として野外劇場「有度」の空舞台をライヴ配信した。日没から約2時間、“不在”の時間を共有する試みは大きな話題を呼んだ。

あらすじ

相愛橋のある横丁で傘屋を営む「おちょこ」は修理を頼みに来た客の「石川カナ」に恋をした。いつか彼女に「メリー・ポピンズの傘を持たせる」という夢を描きながらロマンチックな気分にひたるおちょこだが、瀕死の状態のところをおちょこに助けられて以来、傘屋に居候している檜垣は、カナがかつて人気歌手の子どもを産んだ挙句にショッキングな出来事を引き起こした張本人だと気づく。カナをめぐって次々と湧き上がる謎。おちょこと檜垣を巻き込みながら物語は混乱の中へ

演出家プロフィール

© KATO Takashi

宮城 聰 MIYAGI Satoshi
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡邊守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、またアウトリーチにも力を注ぎ「世界を見る窓」としての劇場運営をおこなっている。17年『アンティゴネ』をフランス・アヴィニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。2004年第3回朝日舞台芸術賞受賞。2005年第2回アサヒビール芸術賞受賞。2018年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。19年4月フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

劇作家プロフィール

唐十郎 KARA Juro
1940年東京生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業。63年「劇団状況劇場」を旗揚げ。実験精神と独自性に富む街頭での野外劇を試みるなど、小劇場運動の先陣を切った。67年新宿花園神社に初めて紅テントを建て『腰巻お仙』を上演。以後テント公演を中心に活動、海外公演も行う。70年『少女仮面』で岸田國士戯曲賞、82年『佐川君からの手紙』で芥川賞など受賞歴多数。88年「劇団唐組」を結成。劇団を率い、現在までほぼ年2回のペースで新作上演を続けている。また、ドラマ、CM出演等、俳優としての活躍は演劇、映画にとどまらない。

出演者/スタッフ

演出:宮城聰
作:唐十郎
美術:カミイケタクヤ
衣裳デザイン:駒井友美子
照明デザイン:小早川洋也
ヘアメイクデザイン:梶田キョウコ

<出演>
SPAC/泉陽二、奥野晃士、春日井一平、片岡佐知子、河村若菜、木内琴子、杉山賢、鈴木陽代、関根淳子、たきいみき、ながいさやこ、若宮羊市[五十音順]

<スタッフ>
舞台監督:小川哲郎
演出部:山﨑馨、三輪絢香
音響:澤田百希乃、竹島知里
照明操作:盛田穂乃歌
照明:神谷怜奈
ワードローブ:山本佳奈
美術助手:武智奏子
美術担当:渡部宏規
ヘアメイク:高橋慶光

技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括: 澤田百希乃

英語字幕翻訳:エグリントン・みか、アンドリュー・エグリントン
字幕操作:Ash
制作:内田稔子、宮川絵理、川口海音、込江芳
シアタークルー(ボランティア):立林学、松本孝則

舞台照明機材提供 丸茂電機株式会社
舞台美術資材提供 白鳥畳店、坪井畳店

製作:SPAC-静岡県舞台芸術センター
助成:令和3年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業

注意事項

◎未就学児との入場はご遠慮ください。
◎背もたれのない客席になります。
◎雨天でも上演いたします。客席では傘をご利用いただけませんので、雨ガッパなどをお持ちください。夕方以降は冷え込みますので、防寒着をご用意ください。

託児サービス

以下の公演では「保育支援グループすわん」による託児サービスをご利用いただけます。
4/29(木・祝)18:00開演回
託児場所:舞台芸術公園内
利用料:お子様1人500円
対象:6カ月~7歳(定員あり・先着順)
託児時間:開演30分前~終演後まで
お申込み:<要予約/定員あり/先着順>
4月22日(木)までにSPACチケットセンター(電話:054‐202-3399)へお申込みください。

スノドカフェ出張営業

日時:4/28(水)・29(木・祝)・30(金) 各日16:00〜18:00
会場:舞台芸術公園「カチカチ山」
メニュー:
・ドリップコーヒー
・ラテ類(抹茶、ほうじ茶、カフェ)
・自家製シロップドリンク(ハニーレモン、ジンジャー、クラフトコーラ)

寄稿

無用と情熱の路頭へ~唐十郎と宮城聰

山内則史

 12年前、新聞社の文化部で唐十郎初の新聞小説を担当した。いかにも唐的な「朝顔男」という題名の小説が軌道に乗ったころ、唐さんから「軍艦島に行きましょう」と話があった。浅草や新宿界隈をうろつく主人公、奥山六郎を東京から離れたどこかへ連れ出そうと考えたらしい。
 当時、軍艦島は廃墟化した建物が危険なため、上陸は禁じられていた。石炭の採掘跡のような場所も見たほうが小説のヒントが多いのではと考えてネットで調べたら、同じ長崎県に池島炭鉱というのがある。坑道を下って地下の様子が見られるというのが魅惑的で、取材旅行の日程に加えた。
 挿絵担当の漫画家のうらたじゅんさんに、資料になる炭鉱跡の風景などを写真に撮って渡そうと、池島炭鉱ではあちこちにカメラを向けながら、それとなく唐さんの様子をうかがっていた。大胆不敵に見えて、濃やかでまめな人である。手書きの台本を見せていただいた時は、無地のノートに米粒のような文字が整然と並んでいるのに驚嘆させられた。取材も細かくやるのではと思っていたが、坑道の天井など眺め、場所の空気に身を委ねている。
 唐さんの目の色が変わったのは、炭鉱労働者が退職後に年金をもらうための手帳があったと案内の職員の方に聞いた時。炭鉱の歴史をたどる展示コーナーの新聞記事に、それは載っていた。手帳は表紙の色から「黒手帳」と呼ばれたと知って、唐さんの中で何かが抑えがたく沸き立つのが感じられた。
 「朝顔男」が始まったその年の唐組春公演は、小説と対をなす「夕坂童子」。黒手帳は「朝顔男」後半に登場し、翌年春の唐組公演は「黒手帳に頬紅を」だった。唐さんにとって「黒手帳」の響きと思い描いた質感が、創造の突破口になったことは間違いない。取材旅行中に唐さんがそれを発見したことを、愉快と不思議が入り交じった気分で時々思い出す。
 唐十郎は、ほとんどの人が通り過ぎてしまうような、片隅にあるさりげない一点から、意想外の世界を広げてゆく。「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」は、傘がひっくり返る=おちょこになる動きの中に、日常が別世界へ裏返っていくきっかけを見たのではなかったかと勝手に想像している。
 2020年は年明けから唐十郎イヤーの観があった。1970年の岸田賞から50年になるからなのか「少女仮面」が杉原邦生演出・若村麻由美主演と天願大介演出・月船さらら主演であいついで上演され、3月には演劇評論家の西堂行人氏が生誕80周年シンポジウム「持続可能な唐十郎演劇」を企画(開催延期)し、さらに宮城さん演出「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」が続く、はずだった。
 宮城聰×「おちょこ」の組み合わせを楽しみにしていたのには、個人的な理由がひとつある。私が初めて演劇を観ようと思って観たのは1984年、大学に入った春だった。学内にあった学生寮の、そのまた奥に駒場小劇場があり、冥風過劇団「巣鴨のルードヴィヒ」という芝居がかかっていた。当時は小劇場ブームのさなかで、トップを走る夢の遊眠社が、この劇場を拠点にしていたのだと、同行の友人に教えられた。
 「下町ホフマン」などに通じる唐的題名の「巣鴨のルードヴィヒ」を演出していたのが宮城聰。俳優としての存在感も尋常でなかった。公演を告知する立て看板からは沼気が立つようで、舞台もアングラテイストが濃厚だった(はずだ)。強くひかれ、駒小では好んで冥風を見るようになっていた。唐十郎作品と初めて出合ったのも、その夏の冥風公演「あれからのジョン・シルバー」。「石鹸箱のオブ」という言葉が耳にこびりついて離れなかった。
 同じ年、初めて花園神社で紅テントを観た。状況劇場「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」。半券と受け取ったチラシを古いファイルから引っ張り出すと、秋公演だとばかり思っていたのに公演期間は12月8日から23日。合田佐和子さんのポスター画は、真ん中に空を見上げる大きな眼の女性がいて、雲の上にメリー・ポピンズが。宮城さんも1984年、年の瀬の「おちょこ」を観ただろうか。
 「朝顔男」開始時に唐さんが新聞に寄せた「作者の言葉」は、こう結ばれている。「携帯にはない香りと臭(しゅう)、無用と情熱が読者諸氏を路頭に迷わすでしょう」。1984年、宮城さんの冥風過劇団が状況劇場へ導いてくれたように、今度は宮城さん演出の「おちょこ」が、無用と情熱の路頭へ誘ってくれるだろうか。コロナの風が止むころに。
(2020年 4月)

<筆者プロフィール>
山内則史 YAMAUCHI Tadashi
1964年青森市生まれ。読売新聞ではおもに文芸、演劇を担当。「朝顔男」の連載は2008年3月~10月。DVD「演劇曼陀羅 唐十郎の世界」で構成・聞き手を務めた。

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