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『アンティゴネ』木津潤平が語る舞台美術プラン

今年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の目玉、SPAC新作 『アンティゴネ~時を超える送り火~』は、
今年7月、世界最高峰の演劇の祭典「アヴィニョン演劇祭」に招聘され、
最大の会場「法王庁中庭」で同演劇祭のオープニングを飾ることが決定しています。
宮城は、人間を「敵か味方か」に二分しない王女アンティゴネの思想に、
日本人の「死ねば皆等しく仏になれる」という死生観を重ね、
キリスト教の総本山であった法王庁で上演することで、憎悪の嵐が吹き荒れる今日の世界に、
演劇的メッセージを放とうとしています。
この宮城の考えを、実際の劇場空間に視覚的に落とし込んでいくのが、
宮城と長年タッグを組み、数々の斬新な舞台美術プランを提案し続けてきた建築家の木津潤平さん
東京プレス発表会で、その驚きのプランが明らかになりましたので、ご紹介します。

※以下木津潤平さんの東京プレス発表会での発言要旨

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「死んだら、皆、仏」という死生観をどう表現するか、この法王庁中庭という特別な空間をどうやったら味方に付けられるのか、という2つの課題があって、それにどう応えるかということが私の一番のテーマでした。

そこで、まずステージ部分に全面に渡って水を張ることにしました。これは、「この世」と「あの世」をつなぐ場所、つなぐ境界としての水面です。わかりやすい例で言えば、平等院鳳凰堂のような、浄土の表現としての水面というものを設定しています。これは「死生観」という言葉にも表れていると思います。「死生観」というのは「死」の次に「生」があるんです。「生死」じゃないんです。つまり「死生観」という言葉の中には、「生の終わりが死である」という定義ではなく、まずベースに死というか何もない状態があって、その上に「生」が存在しているという考え方があるんです。そのように捉え、この水面は、「魂の帰る場所」というものをイメージしています。

antigone空間デザイン資料_1その中に、龍安寺の石庭のようなイメージで、石をところどころ、島のように配置します。つまり「生」というのは、この「魂の空間」の中に浮かんだ島のようなものである、と。舞台上にいる俳優たちは、皆等しく仏、「無垢な魂」です。そのうち、石の上に乗っているのが、アンティゴネやクレオン、ハイモンといったこの芝居に登場する人物です。石の上に乗っている間が、ほんの短い人の一生である、というふうに表現できるかな、と思いました。

ただ、このまま何の工夫も無しにやってしまうと、失敗するだろうな、というのが正直目に見えていました。その理由は、2つ目の課題、法王庁の巨大な空間です。2,000人を収容する客席をすっぽりその内側に抱え込んでいて、3面に25m強の高さの壁がそそり立っています。そのため、客席の後ろの方からは、登場人物がとんでもなくちっぽけにしか見えません。それでは、神話の世界を表現しようがない、それが最大の課題でした。
似たような課題が、2014年にアヴィニョン演劇祭のメイン会場の1つ、ブルボン石切場で『マハーバーラタ』を上演した時にもあって、この時は客席の配置を通常と全く変え、地面ギリギリの低いところにある客席から舞台を見上げる、というプランで解消できました。しかし、去年の夏下見に行った際、アヴィニョン演劇祭のテクニカルディレクター・フィリップさんに、「この会場を使うにあたっては、絶対に客席はいじるなと」挨拶もそこそこに言われてしまいまして(苦笑)。

antigone空間デザイン資料_2そこで、これを逆手に取って、この壁をいかに使えるか、ということを考えました。そそり立つ巨大な壁面を野球のスタンドのような客席から見下ろしますので、目の前に大きなスクリーンがあるようにしか見えない。ですので、この巨大な壁面をスクリーンに見立て、俳優の影をそこに映し出すことで、影絵芝居にしてしまったらどうだ、ということを宮城さんに提案しました。水辺に漂っている魂に光を当てると、壁面に影絵が浮かぶようになる。その影絵で、王女アンティゴネの悲劇の物語がどんどん展開していく。この奥行のない影絵、二次元の世界が実はこの世であって、手前の三次元の部分はあの世である、という見方をすると、ちょっと面白いんじゃないか、ということで、プロダクションが進んでいます。

 

IMG_1652この「現世の肉体は、あの世の魂が投影された陰である」というコンセプトは、どこかで引っかかりがあると記憶を探りましたら、般若心経の「色即是空」に割と近い。「この世の形あるものは皆何かの影、空である」ということを言っているらしいので、そういう意味でも日本的な死生観・宗教観を影絵によってあらわせるんじゃないかと思っています。

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駿府城公園での公演でも、舞台上に水を張り、影絵を出すというプランを可能な限り行う予定です。

木津さん曰く、この芝居は、影絵を観て良し、俳優の身体を感じて良し、音楽を聞いてさらに良し、と3回は楽しめるとのこと。世界に先駆けての駿府城公園での上演、どうぞご期待ください!

 

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ふじのくに野外芸術フェスタ2017
第71回アヴィニョン演劇祭オープニング招待作品
アンティゴネ 時を超える送り火
構成・演出:宮城聰 / 作:ソポクレス / 出演:SPAC
5月4日(木・祝)、5日(金・祝)、6日(土)、7日(日)各日18:30
駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
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*アヴィニョン公演の詳細はこちら
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