© Tommy Ga-Ken Wan
ジャンル/都市名 | ミュージカル/グラスゴー |
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公演日時 | 5/2(木・休)14:30、5/3(金・祝)13:30 |
会場 | 静岡芸術劇場 |
上演時間 | 95分 120分(途中休憩含む) 143分(途中休憩含む) |
上演言語/字幕 | 英語上演/日本語字幕 |
座席 | 全席指定 |
演出・作 | ロバート・ソフトリー・ゲイル |
製作 | バーズ・オブ・パラダイス・シアターカンパニー ナショナルシアター・オブ・スコットランド |
スコットランドから底抜けに明るいミュージカルがやってくる!そこはアマチュア劇団の稽古場、「次のテーマは“インクルーシビティ(包括性)”にしよう!」と目を付けたのは、映画『マイ・レフトフット』の舞台化だった。左足だけで表現する脳性まひの画家/作家の半生、そして主演の名演技が記憶に残る名作。主役は経験豊富な俳優に、そして劇団スタッフで脳性まひのクリスにアドバイスをもらって・・・と構想は進むが、とんだ行き違いで稽古場は大混乱?!障がい者を「演じる」ことって?「インクルーシビティ」って?自らも脳性まひである演出家ソフトリー・ゲイルがブラックユーモアも交えながら問いかけ、パワフルな俳優たちが共に生きる今を豪快に歌いあげる!
映画『マイ・レフトフット』を舞台化することになったアマチュア劇団。スタッフとして働くクリスが脳性まひで右足に障害を持っていることから、演出家のアミーは彼に聞き取りし、脚本をよりリアルに書き直そうと考える。一方、クリスに想いを寄せるジリアンは、「クリスが主役に抜擢された」と嘘をついてしまう。自ら障がい者を演じることに胸を高鳴らせ、稽古場に向かうクリス。しかしそこには、障がい者役を演じる主役グラントの姿が・・・。
ロバート・ソフトリー・ゲイル Robert SOFTLEY GALE
俳優・パフォーマーとして多くの作品に出演するとともに、作家、演出家、障がい者権利活動家として高く評価されている。出演作『Girl X』(ナショナルシアター・オブ・スコットランド)では、ベルギーの演出家との共作も行うなど独自の活動を展開。2013年のソロパフォーマンス『If These Spasms Could Speak(もしこの痙攣が話せるのなら)』はスコットランドで大ヒットし、ブラジル・エストニア・アイルランド・インド・アメリカなどで上演される。12年より障がいのあるアーティストと障がいを持たないアーティスト、そして主要な劇場・劇団との共同製作を推進する劇団バーズ・オブ・パラダイス(BOP)の芸術監督を務める。ナショナルシアター・オブ・スコットランド理事。
◎プレトーク:各回、開演25分前より
演出・作:ロバート・ソフトリー・ゲイル
作詞・作曲:リチャード・トーマス、クレア・マッケンジー、スコット・ギルモア
出演:
エイミー:ケイティ・バーネット
イアン:リチャード・コンロン
ナット:ナタリー・マクドナルド(イギリス手話ディレクター)
アレックス:アレックス・パーカー(音楽監督)
クリス:クリストファー・インブロスチアーノ
ジリアン:シャノン・スワン
グラント:ニール・トーマス
シーナ:ゲイル・ワトソン
ムーヴメントディレクター・振付:レイチェル・ドラゼック
舞台美術・衣裳デザイナー:レベッカ・ハミルトン
照明デザイナー:グラント・アンダーソン
映像デザイナー:ルイス・デン・ヘルトフ
音響デザイナー:リチャード・プライス
編曲・音楽制作:ローレンス・オーウェン
クリエイティブプロデューサー・ドラマトゥルグ:マイリ・テイラー
キャスティングディレクター:ローラ・ドネリー(キャスティング・ディレクターズ・ギルド)
プロデューサー:カラム・スミス
プロダクションマネージャー:ニーアル・ブラック
技術監督:ジェマ・スワロウ
舞台監督(カンパニー付き):リー・デイヴィス
副舞台監督:エマ・スケア
舞台監督(技術):デイヴィッド・ヒル
照明監修:ポール・フロイ
音響監修:アンディ・スチュアート
映像監修:アンディ・リード
衣裳監修:ケイティ・ロンズデール
衣裳:レスリー・マクナマラ
製作:バーズ・オブ・パラダイス・シアターカンパニー
ナショナル・シアター・オブ・スコットランド
協力:ブリティッシュ・カウンシル
ふじのくに地球環境史ミュージアム
<SPACスタッフ>
舞台監督:村松厚志、内野彰子
舞台:渡部景介、降矢一美、守山真利恵、菊地もなみ、杉山悠里
照明:樋口正幸、久松夕香、花輪有紀、島田千尋
音響:右田聡一郎、牧大介、竹島知里
ワードローブ:高橋佳也子
通訳:齋藤啓、山田カイル
字幕翻訳:齋藤啓
制作:髙林利衣、清水聡美
シアタークルー(ボランティア):新久保梓、藤田泰史
スロームーブメント静岡(ボランティア):青木敏規、漆畑貴子、嶋村彩、金田由美、海野静江、帯金史
技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括:右田聡一郎
助成:文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
◎静岡芸術劇場には、未就学児と一緒にご観劇いただける親子室がございます(先着3名様)。未就学児との観劇をご希望の方は、お問い合わせください。
◎5/2(木・休)の公演は、グランシップ託児サポーター(ボランティア)による無料託児サービスがございます。ご希望の方は、4/21(日)までにSPACチケットセンターへご連絡ください(対象:2歳以上の未就学のお子様)。
◎一部刺激の強い表現があります(16歳以上推奨)。
町山智浩
『カメラを止めるな!』が大ヒットしたように、映画や芝居ができるまでを描くメイキングは、時に完成した作品よりも面白い『マイ・レフトライトフット』は、スコットランドの小劇団が、映画『マイ・レフトフット』を舞台劇にしようとする過程を描くミュージカル・コメディだ。
彼らは一幕劇コンテストに出場するための題材を探すうちに思いつく。
「身体障害者や難病ものはウケる!」
それを演じれば、俳優は高く評価される。『博士と彼女のセオリー』で筋萎縮性側索硬化症のホーキング博士を演じたエディ・レッドメイン、『ダラス・バイヤーズクラブ』でエイズ患者を演じるために危険な減量をしたジャレッド・レト……みんなアカデミー賞を取った。
「逆に、身体障害者を演じてアカデミー賞を取れなかった奴がいたか?」
そして彼らは『マイ・レフトフット』(1989年)の舞台化を決める。CP(脳性マヒ)で左足以外の全身が動かない作家で画家のクリスティ・ブラウンを、ダニエル・デイ=ルイスが演じて、やはりアカデミー主演男優賞に輝いた。
『マイ・レフトフット』はパワフルなエンターテインメントだ。原作はクリスティ・ブラウンが1954年に書いた自伝。1932年、アイルランドの首都ダブリンのレンガ職人の子として生まれた。クリスティは合計20人を超える兄弟の10番目だった。子沢山で、貧しく、飲んだくれで、情熱的というアイルランド人の典型のような家族に愛されて育ったクリスティも、障害なんかものともせず、大酒飲みで、喧嘩っ早く、惚れっぽくて、失恋しては大泣きする男。特に父の葬儀の後、酒場で父をバカにされたクリスティがそいつに怒りのレフトフットをぶち込んで、兄弟総がかりで大乱闘するシーンは笑っちゃうほど痛快。しかも最後はラブラブのハッピーエンドで号泣必至。
これはコンテストにもってこいの演目じゃないか! 劇団員は盛り上がる。
「ダイバーシティ(多様性)だ!」
「インクルージョン(包括)よ!」
それは今、世界のアートやショービジネスのキーワード。登場するキャラクターやキャスティングにさまざまな民族や人種、身体障害や、LGBTを取り込んでいくこと。
ただ、この劇団が『マイ・レフトフット』を上演するのは、ただ、それがウケそうだから。主役の俳優グラントは演技の能力を発揮できそうだと興奮する。
ところが、その劇団の部屋で雑役をしていた若者クリスがおずおずと歩み出る。
彼は本物のCPだった。
クリスは言う。「みんな、『マイ・レフトフット』については、ダニエル・デイ=ルイスの話しかしない。クリスティ・ブラウンは忘れられている」
ちなみにブラウンは映画の最後で自分を介護してくれた女性と結ばれるのだが、彼が亡くなった時、体に数多くの傷が発見され、妻に虐待されて死んだとも言われている。だが、『マイ・レフトフット』に感動しても、ブラウンの人生を知ろうとする人は多くないだろう。
そして、さまざまな議論が戦わされる。障害者やLGBTについての映画は、彼らを娯楽として利用しているだけではないか? もし、彼らを本当に多様性を求め、インクルージョンするなら、俳優に演じさせるのではなく、本当の障害者やLGBTをキャスティングすべきではないか? いや、障害者やLGBTでない人が演じることで彼らを理解することになるのでは? いや、それは障害者やLGBTの俳優から仕事を奪うことになるのでは?
それは、自身もCPである作・演出のロバート・ソフトリー・ゲイルから観客への問いかけだ。
実際、それは現在、ハリウッドで議論の的になっている。たとえば去年、実在のトランスジェンダーの男性(女性として生まれた)を演じることになったスカーレット・ヨハンソンが、本物のトランスジェンダーの俳優の仕事を取るなと批判され、役を降りることになった。
とはいえ、難しく考える必要はない。この『マイ・レフトライトフット』も、元の映画と同じくパワフルなエンターテインメントだ。最初から最後までギャグまたギャグ。FUCKやスラングも連発。それに歌も、『ロッキー・ホラー・ショー』やザ・フーの『トミー』的な七〇年代ロック・ミュージカル風でノリがいい。笑って踊ってるうちにあっという間の二時間だ。
<筆者プロフィール>
町山智浩 MACHIYAMA Tomohiro
映画評論家。コラムニスト。1962年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。雑誌映画秘宝創刊後渡米。現在カリフォルニア在住。著書に「映画の見方がわかる本」「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」「トラウマ映画館」「最も危険なアメリカ映画」など。BS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るTV」出演中。