ふじのくに野外芸術フェスタ2019

マダム・ボルジア

© 加藤孝

Program Information

ジャンル/都市名 演劇/静岡
公演日時 5/2(木・休)18:45、5/3(金・祝)18:45、5/4(土・祝)18:45、5/5(日・祝)18:45
会場 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
上演時間 未定(120分以内)
上演言語/字幕 日本語上演/英語字幕
座席 全席自由
構成・演出 宮城聰
製作 SPAC-静岡県舞台芸術センター

作品について

新たな野外劇、まさに誕生のとき
戦国の乱世を生きる悪女が、今宵、炎上する――

男たちの陰謀、嫉妬・・・渦巻く憎悪に翻弄されながら、したたかに生きる女――。ルネサンス期のイタリアに実在し、かのヴィクトル・ユゴーが描いた稀代の悪女、ルクレツィア・ボルジア。宮城聰はこの美しき女傑を、同時期の日本、すなわち戦国時代後期に生み落とす!人を殺めることも厭わない鬼女の顔に、生き別れた息子を想う母の情愛が見え隠れし・・・。舞台は夕刻の駿府城公園、群雄割拠の戦乱に生きる男たちは、時にきらびやかに着飾り、踊りに興じる。華やぐ空気の裏で行き違う思惑。手に汗握る修羅場は次なる修羅場を呼び、愛憎の底へと燃え堕ちていく。祝祭音楽に彩られた痛快スペクタクル、その幕は切って落とされる!!

あらすじ

とある宮殿のテラス、仮面舞踏会でルクレツィアは手許から離した息子ジェンナロを偶然にも探し当て、母であることを隠したまま、ジェンナロの未だ見ぬ母への想いに耳を傾ける。しかし、ボルジア家に恨みを持つジェンナロの友人達からひどい仕打ちを受け、その場で気を失う――。屈辱を晴らすべくルクレツィアは青年らを自国に呼び寄せ、復讐の夜宴での毒殺を企てていた。ある日、ボルジアの宮殿の紋章を汚すいたずら事件が起き、ルクレツィアは夫アルフォンソに犯人の死を誓約させるが、捕らえられたのはジェンナロだった…。

演出家プロフィール

© 新良太

宮城 聰 MIYAGI Satoshi
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡邊守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、またアウトリーチにも力を注ぎ「世界を見る窓」としての劇場運営をおこなっている。17年『アンティゴネ』をフランス・アヴィニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。2004年第3回朝日舞台芸術賞受賞。2005年第2回アサヒビール芸術賞受賞。2018年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

トーク

◎プレトーク:各回、開演35分前よりフェスティバルgardenにて

出演者/スタッフ

上演台本・演出:宮城聰
作:ヴィクトル・ユゴー
翻訳:芳野まい
音楽:棚川寛子
振付:太田垣悠
照明デザイン:大迫浩二
衣裳デザイン:駒井友美子
美術デザイン:深沢襟
ヘアメイクデザイン:梶田キョウコ

出演:SPAC/美加理、阿部一徳、大内米治、大高浩一、片岡佐知子、加藤幸夫、河村若菜、貴島豪、黒須芯、小長谷勝彦、鈴木真理子、関根淳子、大道無門優也、ながいさやこ、布施安寿香、牧山祐大、宮城嶋遥加、森山冬子、山本実幸、吉植荘一郎

スタッフ
舞台監督:山田貴大
演出補:中野真希
演出部:秡川幸雄、山﨑馨
音響デザイン:牧嶋康司(SCアライアンス)
音響:本村実、山下真以子、山口奈津美(以上、SCアライアンス)、澤田百希乃
照明操作:小早川洋也
衣裳:駒井友美子、清千草、高橋佳也子、川合玲子、佐藤里瀬、大岡舞、梅原正子、畑ジェニファー友紀
ワードローブ:清千草
美術担当:佐藤洋輔、吉田裕梨、市川一弥
ヘアメイク:高橋慶光
空間構成:櫻綴
英語字幕作成操作:Ash
考証助手:関根淳子
シアタークルー(ボランティア):笠間友華、平塚敬子、松浦康政、松本孝則、宮原順子、武藤月子
制作:大石多佳子、雪岡純、宮川絵理

技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括:右田聡一郎

音響 株式会社エス・シー・アライアンス
電源 株式会社三光
照明 株式会社アス
会場設営 アートユニオン株式会社
舞台照明機材提供 丸茂電機株式会社
協力 株式会社はなぞの

製作:SPAC-静岡県舞台芸術センター
主催:ふじのくに野外芸術フェスタ実行委員会
共催:静岡市

注意事項

◎未就学児との入場はご遠慮ください。
◎背もたれのない客席になります。
◎雨天でも上演いたします。客席では傘をご利用いただけませんので、雨ガッパなどをお持ちください。夕方以降は冷え込みますので、防寒着をご用意ください。

寄稿

『ルクレツィア・ボルジア(マダム・ボルジア)』とボルジア家
 ルネサンス文化に隠されたヨーロッパの闇と激動

立田 洋司

 2019年は、「海道一の弓取り」と謳われた戦国武将・今川義元の生誕500年。いっぽう世界では、今年5月2日はレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年。多くの企画がありますが、焦点の当て方次第で内容は大きく変わる可能性があります。レオナルドにしても軍師や城郭設計者の顔をもっており、彼は1502年の夏から、ルクレツィア・ボルジアの兄で、ロマーニャ公爵に叙せられたチェーザレ・ボルジアの命を受けて、城郭都市イーモラの設計に携わりました。
 実はルネッサンスには、芸術・文化における華やかで多様な面、いわば「光」溢れる部分が注目される反面、侵略や権力闘争に絡む血なまぐさい「闇」の部分も様々な場にまとわりついているのです。
 百年戦争(1337~1453)が終わってからまだ半世紀もたたないうちに、神聖ローマ帝国(ハプスブルグ家)とフランス(ヴァロワ家)との熾烈な争いがイタリアを舞台に繰り広げられます。これがいわゆる「イタリア戦争(1494~1559)」。この戦争は、やがてヨーロッパ諸国を巻き込み、幾多の同盟とそれに対抗する同盟が結ばれ、権力と領土を争う戦争となり、暗殺や裏切りが頻発しました。
「毒薬カンタレラ」で知られたボルジア家の盛衰はまさにこうした「闇」の時代を背景にしていたとも言えるでしょう。
 ルクレツィア・ボルジアは、こうした時代とボルジア家の運命を背負い、またそれらに翻弄されながら稀有な人生を生きた女性。そして彼女の没年も、1519年(享年39)。
 さらには、ルクレツィアが最後に嫁いだフェラーラ公アルフォンソの姉で聡明なイザベラ・デステと結婚したマントヴァ公フランシスコ2世も、何かの符合のように、この年の春に亡くなりました。フランシスコ2世と言えば、ルクレツィアとの不倫でも知られていますが、1495年、彼が率いたミラノ公国とヴェネツィア共和国の同盟軍が、フランス王シャルル8世に勝利し、ナポリはシチリアを支配していたスペインのアラゴン王国の手に戻りました。そして実に、アラゴンの一角にボルジア家の基盤があったのです。
 ボルジア家はバレンシアからやや内陸に入ったハティバ(旧シャティバ)の出で、シャティバは8世紀以来イスラームの先進文化で栄えていた都市でした。「ボルジア家の毒・カンタレラ」(多くは不明)は、この歴史的背景と関連しているのかも知れません。
 ハティバのボルジア家からは、第209代ローマ教皇カリストゥス3世(在位1455 ~1458)と、第214代教皇でサボナローラを処刑したことでも知られるアレクサンデル6世(在位1492 ~1503)が輩出していますが、このアレクサンデル6世と愛人の間に生まれたのが、ルクレツィアです。アレクサンデル6世が教皇の地位を金(賄賂)で手に入れたと噂された年は、カトリックがスペイン支配を取り戻した(レコンキスタ)1492年、コロンブスが新大陸に到着した年でした。この年、ルクレツィアの同腹の兄チェーザレ・ボルジアが16歳でバレンシア大司教に就任。やがて政治的野心をみせ始めたチェーザレは弟を暗殺(?)した後、ルクレツィアを再婚させたアラゴン家のビシェリエ公アルフォンソを暗殺。1501年にはルクレツィアをフェッラーラ公アルフォンソに嫁がせ、さらにはイタリア戦争の最中に北イタリア東部アドリア海岸沿岸の都市(イーモラ、フォルリ、リミニなど)に進出・制圧。残酷さで知られたリミニの支配者シジスモンド・マラテスタをも降伏させ、ボルジア家の最盛期を現出させました。
 しかしボルジア家は、1503年の夏、アレクサンデル6世の謎めいた死(毒殺説あり)により命運が尽きたようです。
 1504年夏にチェーザレは、弟フアンの殺害容疑でスペイン中央部の荒野の中に立つ城に収監され、脱出してナバーラ王国へと逃れたものの、1507年春、ナバーラ王国とスペイン(カスティーリャ=アラゴン)との闘いで戦死しました(享年31)。このとき、ミケランジェロは33歳になったばかり。ルターによる宗教改革の始まりとされる年は、10年後の1517年。
 この宗教改革以降、人間の世俗的な姿を描く演劇がようやく現れ始めました。
 そして、磯崎新設計のSPACの楕円堂や野外劇場の原型となったテアトロ・オリンピコ(イタリア・ビチェンツァ)の開場が1585年。
 歴史的には、ちょうどこの頃からヨーロッパは、ブルボン家が以後二百年以上にわたって主導権を握っていくことになるのです。
 宮城聰監督が感じておられるはずの日本・戦国時代との符合や戦国武将(とくに毛利元就など)とチェーザレ・ボルジアとの類似点など、今回の上演に興味は尽きませんが、ルクレツィアはどのように描かれるのでしょうか。
 多くの噂が尽きないルクレツィア・ボルジア。西ヨーロッパでは「femme fatale(悪女・毒婦)」としてとみに知られた存在。キリスト教社会のヨーロッパでは、ルクレツィアは確かにイゼベル(旧約列王記に登場)的な雰囲気を持っていたと人々は感じていたように思われもするのですが、私には彼女の魅力は、むしろギリシア神話に登場するヘレネーに近いような気がします。
 先日お会いした主演女優の美加理さんも、妖艶というよりはずっとneat(清楚)な感じなので、宮城聰演出のルクレツィアも、過去の海外制作の演劇や映画よりも、余韻や後味が新鮮味に裏打ちされた印象になるのではないかと思っている次第です。


<筆者プロフィール>
立田 洋司 TATSUTA Yoji
静岡県立大学名誉教授。東京藝術大学・大学院修了(芸術学・西洋美術史専攻)。静岡県立大学では「比較文化論」、「オリエント文化論」などを担当。著書に『埋もれた秘境カッパドキア』『唐草文様」(共に講談社)、『トルコの旅』(六興出版)、『カッパドキア―はるかなる光芒』(雄山閣出版)など。他に論文多数。

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