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生きるための劇場

生きるための劇場

 「人間が人間らしく生きるためには芸術が必要だ。」これはこれまで、芸術を発信する側がしばしば語ってきた言葉だと思います。芸術に関わる仕事を選んだ人たちにとっては、実体験にもとづく切実な言葉です。
 しかしいま、この言葉はうっかりすると社会の分断をいっそう広げかねない危険をはらむようになりました。
 というのも、「自分は“ただ生きる”だけで精一杯なんだよ」と思っている多くの人が、「この先いまより余裕ができるとはとても思えない」と感じてしまうこんにちの状況では、“人間らしく”生きるというフレーズが、なんだかとても呑気のんきな言葉に聞こえてしまうからです。ともすれば、「いまどき芸術を享受しているとはずいぶん優雅なご身分だ」という反発さえ起こり得るでしょう。
 しかしこの2年間の新型コロナ禍で、私たちは、“ただ生きる”ためにも芸術を必要とする人々が存在することをはっきり知りました。そういう人々にとって芸術は「心の水」であって、これが無いと心が枯れてしまうのです。そして言うまでもなく人間の心と体はぴったりくっついていますから、心の健康を失うことは肉体の健康を失うことに直結します。
 つまり、劇場とか美術館とか音楽ホールは、ある人々にとっての、心の健康施設、心の療養所であって、肉体の病院と同じような機能を果たしているんですね。
 いまの日本では、これらの「心の療養所」に通う人の数はたしかに過半数に満たないでしょう。でも、肉体の病気と同じように、心の療養所を必要とする立場に置かれる可能性は誰にでもあるのです。
 例えば、孤立、という心の状態。それをいくばくか癒やす機能が、劇場にはあります。舞台の俳優たちは、その日、客席にいる方々全員に、まったく分けへだてなく、全力でエネルギーを届けようとします。日々の社会生活で「私は取り残された」「私は無視されている」と感じてしまった心に、劇場はじんわり働きかけます。

 今年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」では、劇場のその効能をきっと実感していただけることと思います。 宮城 聰

宮城聰(SPAC芸術総監督)

© 新良太

宮城 聰 MIYAGI Satoshi
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡邊守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、またアウトリーチにも力を注ぎ「世界を見る窓」としての劇場運営をおこなっている。17年『アンティゴネ』をフランス・アヴィニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。18年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。19年4月フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受賞。

ふじのくに⇄せかい演劇祭とは

SPAC‐静岡県舞台芸術センターでは、1999年に開催された世界の舞台芸術の祭典「第2回シアター・オリンピックス」の成功を受けて、2000年より「Shizuoka 春の芸術祭」を毎年行い、各国から優れた舞台芸術作品を招聘・紹介してきました。SPACが活動15年目を迎えた2011年からは、名称を「ふじのくに⇄せかい演劇祭」と改め、新たなスタートを切りました。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭」という名称には、「ふじのくに(静岡県)と世界は演劇を通して、ダイレクトに繋がっている」というメッセージが込められています。静岡県の文化政策である「演劇の都」構想と連携しながら、世界最先端の演劇はもちろん、ダンス、映像、音楽、優れた古典芸能などを招聘し、静岡で世界中のアーティストが出会い、交流する――そんなダイナミックな「ふじのくにと世界の交流(ふじのくに⇄せかい)」を理念としています。
2020年は、新型コロナウイルス感染症拡大により中止となり、代わりにオンラインの「くものうえ⇅せかい演劇祭」を実施しました。

SPAC-静岡県舞台芸術センター

公益財団法人静岡県舞台芸術センター(Shizuoka Performing Arts Center : SPAC)は、専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う日本で初めての公立文化事業集団であり、舞台芸術作品の創造・上演とともに、優れた舞台芸術の紹介や舞台芸術家の育成を事業目的としています。1997年から初代芸術総監督鈴木忠志のもとで本格的な活動を開始。2007年より宮城聰が芸術総監督に就任し、更に事業を発展させています。演劇の創造、上演、招聘活動以外にも、教育機関としての公共劇場のあり方を重視し、中高生鑑賞事業公演や人材育成事業、アウトリーチ活動などを続けています。13年、全国知事会第6 回先進政策創造会議により、静岡県の SPACへの取り組みが「先進政策大賞」に選出。18年度グッドデザイン賞を受賞、無形の活動が一つのデザインとして高く評価されました。2022年7月に活動開始25周年を迎えます。

お問い合わせ

SPAC-静岡県舞台芸術センター
〒422-8019 静岡県静岡市駿河区東静岡2丁目3-1
TEL:054-203-5730 FAX:054-203-5732
E-mail:mail@spac.or.jp

[ふじのくに⇄せかい演劇祭2022]
主催:SPAC-静岡県舞台芸術センター
助成:令和4年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
ふじのくに芸術祭共催事業

[ふじのくに野外芸術フェスタ2022静岡]
主催:ふじのくに野外芸術フェスタ実行委員会

文化庁 ふじのくに芸術回廊 GOOD DESIGN AWARD
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