© Géraldine Aresteanu
ジャンル/都市名 | 演劇・ダンス・サーカス/パリ |
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公演日時 | 4/27(土)13:00、4/28(日)13:00、4/29(月・祝)13:30 |
会場 | 静岡芸術劇場 |
上演時間 | 60分 |
座席 | 全席指定 |
コンセプト・演出・舞台美術 | ヨアン・ブルジョワ |
製作 | ラ・スカラ・パリ – レ・プティット・ズゥール |
そびえ立つ階段、宙に身を投げる男・・・しかし次の瞬間、時計を逆回しするかのごとく身体はステップに舞い戻る。まるでだまし絵のように現象は歪み、無限にループしていく――。今世界中で「サーカス」をバックグラウンドに持つアーティストに熱い視線が向けられている。中でもヨアン・ブルジョワは重力や錯覚を操るマジカルな空間演出で注目を集め、回転する螺旋階段やトランポリン、巨大振り子を用いたパリ・パンテオン廟でのパフォーマンス動画は日本でも話題になったばかり。パリ・スカラ劇場で創作された“Scala”は、イタリア語で「階段」の意味も持つ。アクロバット・アーティストの驚異的な身体が生む異次元空間、体験しない手はない。
入り組んだ無機質なフロア。あるのは簡素な椅子と机、ベッド、そしてどこへ続くともしれない階段。ドアから外に飛び出したはずの男は、また空間に立ち尽くしている・・・。彼、彼女は一人なのか、それとも?
ヨアン・ブルジョワ Yoann BOURGEOIS
ジャグラー・俳優・ダンサー・演出家。フランス東部ジュラ県の小さな村で育つ。シャロン=アン=シャンパーニュの国立サーカス芸術センター、アンジェ国立コンテンポラリーダンスセンターを卒業後、リリュー=ラ=パプ国立振付センターや、カンパニー・マギー・マランなどで様々な作品に出演する。2010年よりサーカス、コンテンポラリーダンスそして演劇を融合した独自の作品創作を開始。パリのパンテオン廟でのパフォーマンス動画は、世界的に話題となる。18年10月に、パリ・スカラ劇場のリニューアルオープン作品として『Scala』を発表、現在フランス各地をツアーしている。16年よりグルノーブル国立振付センターの芸術監督を、振付家ラシッド・ウランダンとともに務める。
◎プレトーク:各回、開演25分前より
◎アーティストトーク:4/29(月・祝)終演後
コンセプト・演出・舞台美術:ヨアン・ブルジョワ
出演:メヘディ・バキ、ヴァレリー・ドゥセ、ダミアン・ドゥロワン、オリヴィエ・マチュー、エミリアン・ジャヌトー、フロランス・ペイラール、ルカ・ストゥルナ
アーティスティック・アシスタント:津川友利江
照明:ジェレミー・キュズニエ
衣裳:シゴレーヌ・ペテー
音響:アントワーヌ・ガリー
舞台装置デザイン・設計:イヴ・ブーシェ、ジュリアン・シアルデッラ
舞台美術アドバイス:ベネディクト・ジョリス
技術監督:アルバン・シャヴィニョン
衣裳インターン:ポリーヌ・エルヴェ
舞台監督:フランソワ・ユベール
舞台監督助手:バルトシュ・ポゾルスキ
照明操作:ヴィルジニー・ヴァトリネ
音響操作:オリヴィエ・マンドラン
プロダクションマネージャー:ジュリエット・キング
製作:ラ・スカラ・パリ―レ・プティット・ズール
共同製作:ナミュール劇場、プランタン・デ・コメディアン―モンペリエ、ラ・クリエ―マルセイユ国立劇場、CCN2グルノーブル国立振付センター、セレスタン―リヨン劇場、ル・リベルテ―トゥーロン国立舞台、Mars-モンス・アール・ドゥ・ラ・セーヌ、ニース国立劇場
<SPACスタッフ>
舞台監督:村松厚志
舞台:降矢一美、菊地もなみ
照明:樋口正幸、島田千尋
音響:右田聡一郎、竹島知里
ワードローブ:高橋佳也子
通訳:石川裕美
制作:計見葵、太田垣悠
シアタークルー(ボランティア):鈴木瑠美子、大石夢子
技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括:右田聡一郎
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
助成:文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
◎静岡芸術劇場には、未就学児と一緒にご観劇いただける親子室がございます(先着3名様)。未就学児との観劇をご希望の方は、お問い合わせください。
◎4/28(日)の公演は、グランシップ託児サポーター(ボランティア)による無料託児サービスがございます。ご希望の方は、4/21(日)までにSPACチケットセンターへご連絡ください(対象:2歳以上の未就学のお子様)。
乗越たかお
強い身体性と高い芸術性。いま世界の舞台芸術で最も熱い盛り上がりを見せているのが現代サーカスである。なかでもヨアン・ブルジョワはひときわ高く評価されており、筆者が来日を切望していたアーティストの一人だ。さすがSPACである。
もっとも「階段を登っては落ちる…そして再びスウッと階段上に戻ってくる」という動画がネットでバズっていたので、なんとなく知っている人も多いだろう。今回静岡で上演される『Scala』は、その究極発展型の作品である。
しばらく見ていると、倒れた先にトランポリンがあるのだとわかる。しかし体技でいえば体操競技のトランポリン選手の方がよほどすごいことをしているわけだが、我々はこの「倒れて戻るだけ」の方になぜか「ダンス的なもの」を感じてしまう。そこが不思議なところだ。
ヨアンが映像作家ルイーズ・ナルボニと共作した映像作品『グレート・ゴースト〜偉大なる幽霊たち〜』(2017年)を見ると、おぼろげにその秘密が見えてくる。この映像作品はパリのパンテオンで、静謐ななか奇妙な5つのパフォーマンスが行われるものだが、それらは本質的に「回転」と「重力」に対する、新しいアプローチなのである。
『Scala』はパリにできた新しい民間劇場スカラ座のこけら落とし公演用に作られた。タイトルの「スカラ(Scala)」と同じ語源を持つ物理学の「スカラー(Scalar)」は「方向性を持たない大きさ」のこと(ちなみに方向性と大きさの両方を持つのが「ベクトル」)。まさに本作のパフォーマーの身体は重力などないかのごとく、そして時間軸を自由に行き来するかのような、物理法則を攪乱する動きに満ちている。映像の中だけと思われた「逆回転」が、目の前の舞台上で展開するのだ。ちなみにラテン語で「スカラ」は「階段・梯子」という意味なのだが、本作の舞台中央には宙に向かって階段が伸びており、なかなかシャレが効いている。
青を基調とした照明のなか、同じ服を着た者があちこちから現れては消えていく。無限に続く「階段落ち」。椅子やテーブルがひとりでに崩れては元に戻っていく。濃密な悪夢のような舞台は、たとえようもなく美しい。
さて筆者がフランスの現代サーカスを取材していた時にパリで見たのは、「回転」の作品『Celui qui tombe』である。この作品はダンス・シリーズにプログラムされていた。ヨアンは現代サーカスとコンテンポラリー・ダンスの両方からダントツで高い人気を得ているのである。
8メートル四方くらいの大きな板(というよりも十分な厚みのある「床」)がワイヤで吊られてゆっくりと傾きながら降りてくる。機械がきしむ重く不穏な音が鳴り響く。床の上には3組の男女がいて、滑り落ちそうになったりバランスを取ったりと必死だ。やっと舞台上に着陸したかと思うとそれは動力装置の上で、「床」は巨大な皿回しのように回転を始めるのである。これがまた結構な速さで、遠心力により身体が斜めになるほど。人々は支え合ったり走ったり抱き合ったりする。しかもこの「床」は、その後も次々に様相を変え、ときにパフォーマーへ襲いかかりさえする。
いわゆるジャグリングとか、わかりやすいアクロバットの類いではない。しかし明らかにサーカス・アーティストならではの「危機に立つ身体」を見せてくれる。それは現代サーカスが抱いてきた、重要な課題のひとつでもあるのだ。
70年代に動物やテントから離れた「ヌーヴォー・シルク(新しいサーカス)」、2000年代に周囲のアートを取り込んで爆発的に多様化した「アート・サーカス」、さらにより自由な表現を獲得して「現代(コンテンポラリー)サーカス」と呼ばれるような進化を遂げてきたサーカスには、ある疑問がついてまわった。
なるほど現代サーカスは、幅広い表現手段を手にすることができた反面、伝統サーカスが長年培ってきた、「失敗したら死ぬかも」という限界に向かって突き詰めていった身体性、もっと言えば「野生の魅力」を失ってしまったのではないか、というものだ。
しかしヨアンの作品には、高い芸術性を保ちつつも、そうした「危機に立つ身体性」もしっかり残っている。「危険さ」の代わりに、アンバランスでフラジャイルな仕掛けに満ちているのである。床は動き回り、椅子も机も崩れてしまい、安心して身を委ねることができない。それはまた、我々が安心して暮らしたいと願う現実の世界が、同じような危機の中にあることを思い出させる。必死に立つパフォーマーの姿は、理不尽な問題に囲まれて日々を生きている我々自身の姿と、見事に重なるのだ。そしてそこに我々は「何か(ときにダンス)」を見るのである。
<筆者プロフィール>
乗越たかお NORIKOSHI Takao
作家・ヤサぐれ舞踊評論家。株式会社ジャパン・ダンス・プラグ代表。世界のフェスをめぐり、現代サーカスにも詳しい。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(作品社)、『ダンス・バイブル』(河出書房新社)他著書多数。現在、月刊誌「ぶらあぼ」で『誰も踊ってはならぬ』を連載中。