<ドキュメンタリー映画>

コンゴ裁判 ~演劇だから語り得た真実~

Program Information

ジャンル/国名 ドキュメンタリー映画/ドイツ・スイス
公演日時 4/27(土)15:00、4/28(日)15:00
会場 グランシップ 映像ホール
上映時間 100分
上映言語/字幕 フランス語上映/日本語・英語字幕
脚本・監督 ミロ・ラウ
製作 フルーツマーケット、ラング・フィルム

作品について

悲劇の現場でのかつてない演劇実験――。現実を突き動かす奇跡の記録。

コンゴ戦争は過去の出来事ではない。レアメタルをめぐる世界経済が複雑に絡み、今も虐殺や民族紛争が続くが、多くは真相が解明されることも加害者が裁かれることもない。この過酷な現実に、スイス人演出家ミロ・ラウが「演劇」で風穴を開ける。彼は現地で模擬法廷を立ち上げ、人々に「演劇作品に参加してほしい」と呼びかけた。被害者、加害者のみならず法曹関係者、多くの市民がこれに応じ、告白の時が訪れる。判決に法的拘束力はないが、このドキュメンタリー映画はコンゴ各地で上映され、実際に法廷を設置する動きが生まれている。『Hate Radio』でルワンダ虐殺を扇動したラジオ放送を舞台上に完全再現したラウが、再び世界に衝撃を与える。

あらすじ

600万人以上の死者を出したコンゴ戦争。ミロ・ラウは、その後も紛争が続く現地を頻繁に訪れ、リサーチを重ねる中で虐殺の現場に出くわす。裁かれることのない紛争の現実を前に、彼は「演劇への参加」を呼びかけた。事件当事者、州知事や内務大臣、国際鉱山会社の弁護士、またハーグ国際刑事裁判所判事や地元の人権派判事らが一堂に集まり、「コンゴ裁判」が撮影される。裁判はコンゴ東部、そしてベルリンでも行われ、虐殺、国際企業による土地収奪、環境汚染など多くの問題が明らかになっていく。

演出家プロフィール

© Hannes Schmid

ミロ・ラウ Milo RAU
1977年、スイス・ベルン生まれ。演出家、劇作家、ジャーナリスト、エッセイスト、研究者、コンセプチュアル・アーティスト、映画制作者として活動し、多彩な才能を発揮している。2002年以降、演劇、映画、書籍など50以上の作品を発表、その創作は主要な国際フェスティバルをはじめ世界30ヶ国以上で紹介されている。07年に「インターナショナル・インスティテュート・オブ・ポリティカル・マーダー(IIPM)」を創立。演劇やファインアート、映画など様々な手法で政治的犯罪を考察する作品を発表する。「ふじのくに⇄せかい演劇祭」では13年に『Hate Radio』を上演。現在、NTヘント(ベルギーの公立劇場)の2018/2019シーズンのディレクターを務める。

出演者/スタッフ

担当調査員:スィルベストル・ビシムワ
裁判長:ジャン=ルイ・ジリセン
ブカヴ陪審員:ヴェナンティ・ビシムワ・ナビントゥ、コレット・ブラックマン、ジルベール・カリンダ、プランス・キハンギ、セヴラン・ムガング、ジャン・ジグレール
ベルリン陪審員:コレット・ブラックマン、サラン・カバ・ジョーンズ、ヴォルフガング・カレック、サスキア・サッセン、マーク=アントワーヌ・ヴミリア・ミュハンド、ハラルド・ウェルザー
ほか

脚本・監督:ミロ・ラウ
撮影監督:トーマス・シュナイダー
ドラマトゥルグ・編集:カーチャ・ドリンゲンベルク
リサーチ&キャスティング:エヴァ=マリア・ベルチー
音響:マルコ・トイフェン、イェンス・バウディッシュ
音楽:マルセル・ヴァイド
音響デザイン&ミキシング:グイド・ケラー
クリエイティヴ・プロデューサー:セバスチャン・レムケ
プロデューサー:アルネ・ビルケンシュトック、オリバー・ゾブリスト

字幕翻訳:平野暁人

製作:フルーツマーケット、ラングフィルム

共同製作:政治殺人国際研究所、SRF、SRG SSR、ZDF/ARTE

協力:ノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)フィルム・アンド・メディア財団、スイス連邦文化局、BKM -連邦メディア文化コミッショナー、ザンクト・ガレン州文化振興協会、チューリッヒ映画財団、ドイツ映画基金、ミグロ・カルチャー・パーセンテージ、ヴォルカート財団

注意事項

◎未就学児との入場はご遠慮ください。

寄稿

『コンゴ裁判』が照らし出す真実

武内進一

 アフリカ大陸中央部に位置するコンゴ民主共和国の東部では、20年以上にわたって紛争状態が続き、その中で虐殺や強制移住、性暴力など、あらゆる種類の人権侵害が蔓延している。なぜこのような事態に至ったのか。事態は極めて錯綜しており、誰に責任があるのかもわかりにくい。本作品は、こうしたなかで企画、実行された「コンゴ裁判」というイベントをめぐるドキュメンタリーである。
「コンゴ裁判」は、コンゴ東部紛争に関わる多様なアクターを集め、公の場で聞き取りを行って、結論を下す試みである。一種の模擬裁判であり法的拘束力はないが、登場するのはすべて何らかの意味でこの紛争の関係者であり、演技をしているわけではない。鉱産物採掘企業に移住を強いられた住民、隣人を目の前で虐殺された村人、州政府の知事や閣僚、国連職員などが証言し、弁護士や人権活動家、そしてコンゴ紛争の専門家として知られるジャーナリスト(コレット・ブラックマン)やグローバリゼーション研究で有名なサスキア・サッセンら研究者が判事役として質問を投げかける。
「コンゴ裁判」は、2015年5月29-31日にコンゴ東部のブカヴで、同年6月26-28日にドイツのベルリンで開催された。合計で6日に及ぶ審理と証言は、すべてインターネット上に公開されている(http://www.the-congo-tribunal.com/)。本作品は、裁判の場面を中心としつつ、採掘による強制立ち退き、鉱毒被害、そして紛争の中での虐殺という「コンゴ裁判」が取り上げる3つの事件の現場記録を含めて構成される。複雑なコンゴ東部紛争を理解するために、優れた映像資料である。
 この紛争の背景を簡単に述べておこう。コンゴという国家の原点は、19世紀末のアフリカ分割の際、ベルギー国王レオポルドII世の私有地となった地域である。西ヨーロッパに匹敵するコンゴの国土には、同じ国家に属することなど考えもしなかった共同体(部族)が数多くひしめき、統一国家としての運営は容易ではない。国土には銅、ダイヤモンド、スズ、金、タンタルなど数多くの希少鉱物が大量に埋蔵されているが、その所有や取引を巡ってしばしば紛争が引き起こされてきた。
 1960年の独立直後、東南部の産銅地域カタンガ州の分離独立宣言をきっかけに「コンゴ動乱」が勃発し、東部地域には約5年にわたって暴力が吹き荒れた。これを収拾したのは、陸軍参謀長のモブツである。彼は米国の支援を受けてクーデタを起こし、独裁的な支配体制を築き上げた。米国がモブツを支持したのは、アフリカ中央部の大国コンゴを共産主義化させないためだったが、冷戦終結とともに米国が手を引くと、この国は政治的にも経済的にも大混乱に陥った。
 1996年に勃発するコンゴ内戦の直接の原因は、東隣の小国ルワンダの内戦であった。凄惨なジェノサイドによって知られるルワンダ内戦は、ゲリラ組織「ルワンダ愛国戦線」(RPF)の軍事的勝利によって終結したが、それによって旧政府軍を含む200万人近い難民がコンゴ東部に流入した。RPF政権はコンゴ東部を自らの勢力下に置くために派兵し、そこで反政府勢力を支援してコンゴ内戦を引き起こした。コンゴの親RPF勢力は、その後もルワンダに隣接する南北キヴ州で影響力を保ち、彼らを通じてタンタルやスズ、金などの鉱物資源が大量にルワンダに持ち出された。これらの鉱物は携帯電話やパソコンなどの材料として不可欠で、高価で取引されたからである。
 鉱物資源は、東部コンゴ紛争長期化の主因である。政府軍を含め、武装勢力は鉱物資源から活動資金を得る。また多国籍企業のなかには、政府との不透明な取引で鉱産物採掘権を獲得したと指摘されるものがある。本作品に登場するカナダのバンロ社もそのひとつで、採掘地域から住民を強制移住させたり、深刻な鉱毒被害を引き起こしたりしたと報じられている。不満を持った住民が武装活動に走るため、治安悪化に歯止めがかからない。こうした中で住民は虐殺や性暴力など想像を絶する人権侵害に晒されているが、政府も国連PKO部隊も有効な対応ができていない。
「コンゴ裁判」は、数多くの証言を通じて、複雑かつ深刻な状況に光を当てる。単に複雑だというだけでなく、コンゴ政府や国際的鉱業企業グループの責任が強調されている。ただ、コンゴ政府の不作為の背景には低開発があり、その原因を突き詰めれば、植民地化の問題に行き当たる。企業が採掘した鉱産物は、マレーシアの精錬所を経て、私たちの携帯やパソコンに使用される。こう考えると、東部コンゴの紛争は、私たち自身の問題でもあるのだ。


<筆者プロフィール>
武内進一 TAKEUCHI Shinichi
東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター長。1986年以来中部アフリカ諸国の研究に従事。主著に『現代アフリカの紛争と国家―ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』(明石書店)。

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