演劇祭は多くのシアタークルー(ボランティア)の方々に支えられています。
皆さんも劇場にいらした際、チケットをもぎったり、当日パンフレットを渡したり、カフェコーナーで給仕をするクルーさんを目にしていると思います。
そんなクルーさんの活動の中で、「執筆」があることをご存じですか?
先日、演劇祭のキックオフミーティングについてレポートしてくださったクルーの岩橋くるみさんから、『三代目、りちゃあど』の素敵なレポートが届きましたのでご紹介いたします。
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「ふじのくに⇄せかい演劇祭2016」の開幕式、そして『三代目、りちゃあど』の初日に行ってきました。
開幕式では、野球の「始球式」ならぬ「始演式」として、SPAC俳優の方々による、『リチャード三世』の一節の朗読が行われました。しんとした会場に響く朗読の声に、思わず聞き入ってしまいました。会場では、草薙ツアーグループによる呈茶サービスもあり、きりっとした美味しいお茶を頂くことが出来ました。
開幕式の後は、いよいよ『三代目、りちゃあど』の開演です。
始まった瞬間、まず俳優の完璧な動きに目を奪われ、そして音楽や様々な演出でぐいぐいと物語の中に引きこまれていきました。
また、『リチャード三世』の話、シェイクスピア自身の話、そして裁判と色々な違う話が舞台の上で自然につながっていき、その様子は不思議で、夢のようであり、まるで一人の人の想像の世界を巡っているようでもありました。
今回は、紹介にもあるように、多彩な国籍・ジャンルの俳優の方々が出演する舞台でした。その中で何より印象的だったのは、異なる言葉による台詞、それぞれの演じる役の「個性」が舞台上で際立ちつつも自然に存在していることです。普段の生活では、価値観や言葉や文化の違う相手とともにいるのはなかなか簡単ではない、と感じがちですが、今回の作品では至って自然に、それぞれが強い個性を持ちながらもありのまま舞台上に存在し、調和を創り出しているようでした。
最初はそのような異なる言語や強い個性が共存していることに違和感をおぼえましたが、徐々にその状態がとても自然に見えてきて、そのことに自分でも驚きました。そして、舞台上で異なるものがこんなに自然に共存していることが、「現実世界においても、自分と異なる価値観や文化を持つ相手とうまくやっていくことは可能なのではないか」と感じさせてくれました。
また劇中では、「影絵」が演出で随所に使われていました。これは時にそのものである小さな人形に見え、時に舞台の人間と同じ大きさになります。「人間が作った人形が人間と同じになる」という点で、シェイクスピアと彼の想像が作った悪役が、裁判という同じ場所に立ち、想像の産物であるはずの悪役が「お前と俺は同じ人間だ」と語る、それと似ていました。シェイクスピアと彼の作った悪役は本当に同じ人間なのか、それともどちらも誰かの想像によってつくられたものなのか・・・?それを考えた時、一瞬、自分の存在すらも危うく思われます。
「想像」が作り出すもの、「想像」から作り出されたもの、もしくは想像自体に潜んでいるそれぞれの哀しさやどこにも向けようのない憤り。それを感じた時、登場人物だけでなく、作者自身もまた作者の作り出した想像に操られ、飲み込まれてしまっているのではないか…、ふとそう感じました。
まだまだ演劇祭は続きます。次はどんな作品に出会えるか、楽しみです。
最後になりましたが、観劇にあたり、内容についていけるだろうか・・・、と不安に感じる方には、開演前のプレトークをご覧になることをオススメします。分かりやすく、楽しく、作品の背景やあらすじをお話してくださるので、その話にスッと入っていくことができます!私は今回プレトークで登場人物の関係を知ることができ、作品がより分かりやすくなりました。劇場にちょっと早く着いたら、プレトークへ。オススメです!
SPACシアタークルー 岩橋くるみ