演劇祭も折り返し地点を過ぎた5/4(水・祝)、『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』関連企画として、ハンドスプリング・パペット・カンパニーによる人形ワークショップを開催しました。
本作は、「動くドローイング」で知られる美術作家・演出家ウィリアム・ケントリッジと、南アフリカ随一の人形劇団、ハンドスプリング・パペット・カンパニー(HSPC)との共同創作。随所にはまるで生命を吹き込まれたような人形が登場し、アパルトヘイトという重い作品テーマに戯画的なおかしみを添えています。
日本では、2014年渋谷ヒカリエで上演された『War Horse~戦火の馬~』の等身大の馬の人形で大きな話題ともなったHSPC。その精巧な人形と卓越した操作を間近でみることができる貴重な機会とあって、当初の定員30名を上回る多くの方が参加しました。
WS会場に作品に登場する人の人形とワニかばん!?の人形が登場すると、周囲にはさっそく参加者が集まり・・・一斉に写真におさめていました(笑)
講師は、ガブリエル・マーチャンドさん、マンディセリ・マセティさんのお二人。マンディセリさんは、ガブリエルさんの人形操作に憧れて、この道に入ったそうです。
お二人の自己紹介の後、早速ワークショップ開始!!
俳優は人間なので、呼吸や鼓動、目線の動きやちょっとした仕草をごく自然に行っている。一方人形は、それ自体生きているものではなく、操作している人間の意識が頭から腕を伝わって人形に入っていく。では、それ自体「自然な動き」というものはない人形に「生命を与える」ポイントとは・・・頭文字を取って「BERPI」というメソッドだそう。以下ご紹介いたします!
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1)Breathing(呼吸)
全ての生命にとって最も根源的なものである「呼吸」を人形でも表現しなければ、自然な動きとはならない。人形使いの呼吸している状態が人形に伝わることもあるし、その逆もある。走った後なら、人形の息遣いも走った後のようになるし、人形がストーリーの中で走らなければならない場面があれば、人形使いもその呼吸を意識しなければならない。呼吸の仕方、例えば早めたり、ゆっくりしたりすることで色々な表現が生まれる。また呼吸はストーリーを語ることもできる。目を閉じて呼吸音を聞くだけで、そのストーリーをある程度把握することができる。もちろん人によって解釈の仕方は変わるかもしれないが、目に見えるもの(人形や人形使い、俳優など)から伝わるイメージが、呼吸のリズムや呼吸から生まれるストーリー性という新たな次元が加わることで、更に観客に伝わるようになる。
2)Eye Line(視線)
人形使いは、右から左へ180度全てに視線をやり、自分の周りで何が起きているのかを把握しなければならない。そして人形がどの方向を向いているのか、何に向いているのかを全て把握しておかなければならない。人形の視線によって、「何を見ているのか」だけでなく、「何を考えているか」も決まる。進化の結果、人は視線だけで相手の感情を読み取ることができるようになった。そのため、例えばある人形が違う人形と会話しているシーンがあったとして、観客が人形の視線に違和感を覚えてしまうと、その人形が生きているという効果・感覚への信用が薄れてしまうし、舞台上で起きていることの関係性も薄くなってしまう。人形に生命を埋め込むために、視線はとても大事なこと。
自分が人形を操作していると、人形が何を見ているのか、読み取ることは難しい。そのため、自分の人形の視線の送り方を知るためには、ペアで練習しなければならない。厳しい練習が必要な上、経験豊富な人形使いでも、人形が変わればまた新たに練習をしなければならない。
また、人形の視線だけでなく、人形使いの視線も重要である。同時に複数の人が1体の人形を操作する時、全員が人形の頭を見ていなければならない。例えば左側にいる人形使いが人形の頭を見ていても、反対側の人が手元を見ていると、観客はつい手元を見てしまう。観客の集中力が人形に行くよう、人形使いも視線を意識しなければならない。
3)Rhythm(リズム)
演劇全般において、リズムはとても大事なこと。人形にはもとからリズムが入っているわけではないし、一方で人間は意識していなくてもリズムが出てしまうことがある。リズムを人形に意識的に埋め込まないといけない。例えば重いものと軽いもの、速いものと遅いもの、大きいものと小さいもの…、様々なリズムの差を組み合わせて人形の動きを作っている。リズムは、呼吸や視線と同じくらいのインパクトを持ってストーリーを語ることができる。
4)Physics(物理学)
人形使いがつくる物理的な世界、つまり観客との約束事のことである。例えば、この人形には足がないが、観客と同じように床の上を歩いている、という目に見えない契約を結ぶとしたら、人形はずっと同じ高さでいないといけない。ちょっと人形の身体を揺らすのであれば、地面が凸凹していることになるし、そうすると人形の視線を少し下にやるなど、地面が凸凹であることを強調した方がより自然に見える。
5)Intention(意識・意図)
これまでにあげた全ての要素を総合的に組み合わせて、人形の意識を創り上げる。これらの要素を全て意識的に埋め込まないといけない。息をしていない人形を、まるで生きているかのように見せることが最終目標。
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これらのポイントを、実演を交えながら、楽しく、わかりやすくレクチャーしてくださいました。まるで生きているかのように動く個性的な人形たちは、人形使いの方たちの血のにじむような努力と、そこから生まれる卓越した技術があればこそのものなのですね。
その後の触れあいタイムでは、お二人が実際に人形を操る中、至近距離で改めて写真を撮影させていただきました!舞台の上では存在感を放つ人形の実際のサイズが意外と小さなことにも驚きです。ちなみに本作の人形はまだ小さな方で、大きなものになると本当に重く、親指の付け根あたりに人形の全体重がかかるので、操作が本当に大変だそうです。
本番前のお忙しい中時間を割いて様々なお話をしてくださったガブリエルさん、マンディセリさん、本当にありがとうございました!!
これらの人形が登場した『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』、観劇レポートはまた後日お伝えいたします★