「ふじのくに⇄せかい演劇2016」のトリを飾った『少女と悪魔と風車小屋』。
野外劇場に響くノスタルジックな演奏と歌声、そして珠玉の言葉の数々に胸を打たれた方も多いのではないでしょうか?親子でご来場くださったお客様も多く、「わかりやすい物語・演技で子どもと一緒に楽しめた」とご好評いただきました。
本作の観劇レポートを、シアタークルーの白木菜々美さんが寄せてくださいましたので、ご紹介します。
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この作品は、皆一度は読んだことのある「グリム童話」の中の物語『手無し娘』を、フランスの演出家オリヴィエ・ピィ氏が『少女と悪魔と風車小屋』として潤色したものである。せかい演劇祭の前身となる「SHIZUOKA春の芸術祭2009」にて多くの観客を魅了したが、今回は2014年にアヴィニョン演劇祭で上演した新バージョンとして、野外劇場「有度」に登場した。
ある男が森に迷って悪魔に出会うが、彼は相手が悪魔だと知らず「小屋の後ろにあるものを3年後に渡す」という契約で金持ちにしてもらう。男は小屋の後ろには古びたリンゴの木があるばかりだと思っていたが、実はそのとき小屋の後ろには洗濯物を干している自分の愛娘が居た。
3年の月日が経ち、悪魔が契約の通りに娘をもらいに行くが娘はあの手この手で抵抗する。悪魔は男に娘の両手を切り落とすよう命じ、男は逆らえず斧で娘の手を切り落としてしまう。両手を失った娘は家を出て、行く当てもなく彷徨っていくと偶然王様の庭にたどり着き、そこで王様と出会う。
出演者はたったの4人。彼らは演じる役をころころと替えながら物語を進めていく。また森に囲まれた野外劇場「有度」の舞台上に設置された白い壁と台も、俳優と同じようにころころと変わっていく。それは小屋にもなれば庭にもなる。時には王宮になったりもする。さらに、作中には様々な歌が登場する。娘の歌う風車小屋の歌、悪魔の歌などなど。庭師の歌は、なんと日本語の歌詞であった。綺麗な歌声とたどたどしい日本語が、美しさとコミカルな雰囲気とを両立させていてとても面白かった。どの歌も耳に残り、一緒に歌いたくなるような魅力をもっていた。
物語は、娘が両手を切り落とされて家を出る、というとても悲しい出来事から始まる。それなのに、物語はなんだか楽しげで軽快に進んでいく。時には笑いが巻き起こり、美しい歌声に拍手が送られる。その様子は、両手を失ってもなお前を向いて進んでいく娘そのもののように思えた。
物語の終盤、悪魔の仕業によって命の危険にさらされた娘は、庭師によって森に逃がされる。戦争によって離ればなれになっていた王様と娘は森の中で再会し、元通りになった娘の手を見て王様は「奇跡だ」と大いに喜ぶ。その姿を見て娘は自分の手が生えるように、木々は葉を落としてもまた緑を芽吹かせ、花は咲くのだと話す。そして最後に王様が娘に向かって言う台詞、私はフランス語を話すことも聞いて理解することもできないが、この言葉に心を強く揺すぶられた。「これからはすべての奇跡に驚こう。」
私たちの周りには、多くの奇跡が転がっている。たとえ悲しいことがあっても、その奇跡ひとつひとつを大切に新鮮に驚くことで、幸福な毎日を過ごすことができる。そんなメッセージが込められているように、私は感じた。
SPACシアタークルー 白木菜々美