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【シアタークルーレポート】『民衆の敵』

「ふじのくに⇄せかい演劇2018」が閉幕して2週間がたちました。おかげ様で今年は完売の公演も多く、例年以上の盛り上がりを感じました。

そんな今年の演劇祭における最大の目玉は、ヨーロッパ演劇界きっての人気演出家トーマス・オスターマイアーの『民衆の敵』ではなかったでしょうか?イプセンの社会劇をアクチュアルな問題作として立ち上げた本作。バンドの生演奏やペンキを使っての場転など随所にスタイリッシュとも言える演出が見られましたが、中でも町民集会の演説シーンで観客が町民に見立てられ、意見を求められるという演出は、劇中における「とある田舎町の公害問題」という以上に様々な問いを我々に投げかけたと感じます。

本作のレポートを、シアタークルーの野秋昂太さんが寄せてくださいましたので、ご紹介します。

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温泉専属医であるトマス・ストックマン博士は、温泉地の源泉が汚染されていることに気付き告発しようとする。しかし、兄の市長は町の経済のためにこの事実を隠そうとする。博士は兄に対抗するため集会を開くが、その内容はマスコミや周りに流される、多数派の市民を批判する内容だった。

原作では、上記のように社会への問題提起をする作風であるため、重々しいイメージを受けます。 しかし、今回の劇では役者のセリフやしぐさが笑いを誘うものが多く、社会派作品でありながら、エンターテインメントとしても楽しめる作品になっていました。

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上記の点や、テーマに沿った音楽の使い方も素晴らしい演出でしたが、何よりも一番観客を引き込んだのは、中盤のストックマン博士の演説です。

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原作では博士が民主主義を批判し、集会で集まった民衆から怒りを買い孤立するシーンになります。
しかし演出家のトーマス・オスターマイアーは、博士の主張が正しいかどうか、その場にいる観客に直接答えさせる試みを行いました。
それに対して思った以上に発言する観客が多く、演劇というより激しい議論のような雰囲気で、大いに盛り上がりました。
発言の中には、水俣病が起こった国として環境汚染に不安がある、博士の言い分には賛同できないがそうさせたのは周りが追い詰めたせいと、様々な意見が出ました。中には計画の見通しの甘さや、今後の調査内容について激しく追及したときは、会場に一番の笑いと拍手が起こりました。
私は二日間とも見ましたが、上記の試みから新鮮な気持ちで楽しむことができました。公害や原発事故が起こった日本だからか、環境問題の観点から博士への賛同の声が上がったのは興味深かったです。もし日本以外の国だったらどういう意見が飛び出るのか?時代や国によってそれぞれ違った発見ができそうです。

シアタークルー 野秋昂太

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