沢山のお客様とともに駆け抜けた「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」。舞台写真がそろいましたので、演劇祭後半を写真とともに振り返ります。
5月3・4日、静岡芸術劇場で上演された『シミュレイクラム/私の幻影』は、フラメンコの小島章司さんとコンテンポラリーダンスのダニエル・プロイエットさんによるデュオ。お二人のダンス、そして人生をじっくりと味わうような舞台でした。
スペイン語、日本語、英語で丁寧に発せられる言葉、そしてダンスで物語を紡ぐ。
日本で生まれスペインでフラメンコ舞踊を極めた小島さん、そしてアルゼンチンで生まれヨーロッパで活躍し日本で歌舞伎舞踊を習得するに至ったプロイエットさん。この作品を日本で上演することには、お二人とも特別な思いがあったそうです。静岡公演用に台本にも手が加えられ、プロイエットさんの日本語のセリフも増えていました!
細かく刻まれる力強いステップ、78歳とは驚くばかり。
後半は、歌舞伎舞踊の衣裳に身を包んだプロイエットさんが登場。小島さんの亡き母の幻影として、静かに舞い踊ります。二人の人生と出会いを飾ることなく舞台に乗せる、その強さを感じさせる作品でした。
3日の午後、駿府城公園では「広場トーク」も開催されました。フェスティバル・ガーデンという野外の会場ならではのオープンな雰囲気で、「世界で勝負する舞台芸術とは?」をテーマに和やかなトークが展開しました。
▲(向かって左から)司会の中井美穂さん、国際交流基金理事長の安藤裕康さん、Noism芸術監督の金森穣さん、そしてホストにSPAC芸術総監督の宮城聰
金森さんは、「今の時代を生きる“地球上の一芸術家”として、感じる苦悩や未来への意思に普遍性を見出したい。そこにあるのは言語の壁ではなく、世界の中の一個人という認識に立てるかという精神的な壁」だとお話しされました。その壁を打破する方法は、「自己否定。自分を培ってきたものを疑うことから始まる」と言う金森さんに対し、宮城は「僕は逆の作戦かもしれない。外から(外国人)からどう見られるか意識することで、彼らの方が一生懸命僕らをのぞき込んでくれる」という持論を展開。また安藤さんは、「世界の違うものと出会ったときに新しい衝突が起きて新しいクリエーションができていく、そこが芸術の一番大切なこと」だと、若いアーティストにもエールを送られました。
▲トークに聞き入るたくさんのお客様
3日夕刻、駿府城公園でいよいよ開幕したのは『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』。
▲市街の夕景をバックに上演が始まる
前日2日の大雨も上がり、3~6日の4日間はお天気に恵まれました!この時期ならではの夜の冷え込みはありましたが空には星も見え、満員の観客とともに一体感のある熱い舞台となりました。
『マハーバーラタ』は2015年にも同じ駿府城公園で上演されていますが、その時よりもリング状の舞台の高さを少しだけ抑えられた分、駿府城公園の木々が近く感じられ、まさに「絵巻舞台」の一部に。リズミカルな生演奏と客席を取り囲むダイナミックな俳優たちの動きに、連日大きな拍手が送られました。
4~6日、静岡市の繁華街にあるレストラン・フランセでは、メキシコのVaca35による『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』が上演されました。以前は結婚パーティなども行われていたフロアの昭和レトロな待合室で、開演前に演出家のダミアン・セルバンテスさんからラム酒が配られます。そして薄暗い場内に入ると、痩せぎすと巨漢の女優さんお二人がすでに向き合ってスタンバイ!極小空間に着席すると・・・、「カーン!」とゴングが鳴ったかと錯覚するほど唐突に、二人は大声でセリフをまくしたてせわしなく動き回り始めます。
▲写真はゲネプロの様子
しかし倒錯した時間も束の間、つましく静かな日常の時間が訪れ、最後には二人肩を寄せ合い童話を語り始めます。小さい頃に読んだ本の1ページのように、いつかこの濃密な時間が心によぎる――そんな予感が胸に残る舞台でした。
演劇祭後半は、街にも演劇があふれました。
「ストレンジシード」は昨年よりも上演ステージを増やし、駿府城公園を中心に6カ所で16組のアーティストが様々なパフォーマンスを展開しました。公演の合間に全ては見尽くせませんでしたが、それぞれの場の特徴を活かしたパフォーマンスに、「演劇」という先入観なく、幅広い観客が楽しんでいる様子が印象的でした。
▲商店街ステージ(七間町名店街~札の辻)を沸かせた「壱劇屋」の路上パフォーマンス
▲「off-Nibroll+山中透」のパフォーマンスは芝生ステージ(駿府城公園内)の緑に映える。
▲初登場の「ままごと」。街の風景をダイナミックに取り込んだ作品『Tour』(市役所ステージにて)
6日最終日。静岡芸術劇場の『ジャック・チャールズ vs 王冠』は1回だけの貴重な上演。
オーストラリア先住民に対する政府の人種隔離政策という負の遺産を、まさにその被害者の一人であるジャック・チャールズ本人が舞台上で語る。事実の重さもさることながら、本人がその場にいることの重みは、彼が明るく朗らかに語るほど身に迫ってきました。
▲バンドの生演奏とともに、ジャックの明るい歌声が響く
終演後、舞台を下りたジャックさんは、スタッフとの別れを惜しみながら「オーストラリアに帰ったら、収監者への厚生プログラムをもっと充実させていきたいんだ」と情熱的に語っていました。まるで舞台の続きを見ているようで、彼が舞台上だけでなく現実の中でも多くの人に希望を与え続けていることに改めて感銘を受けました。
そして6日の最終日は、満員御礼の『マハーバーラタ』をもって終了しました。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」へのご来場、誠にありがとうございました!
大・小、そして野外など様々な劇場で上演された8演目、そして街中で行われたストレンジシードのパフォーマンスの数々。演劇と一口に言っても、その広さ、深度は計り知れないことを私たちスタッフも体感した7日間でした。
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』は今秋、フランス・パリでの日本博「ジャポニズム2018」での上演を控えています。「ふじのくに⇄せかい」の名称のように、作品もまた静岡と世界を行き来し、多くのお客様との出会いを重ねていきます。
SPACの今後の活動にも、ぜひご注目ください。
◆ジャポニズム2018 https://japonismes.org/
公演日時 2018年11月19日(月)~25日(日)
会場 ラ・ヴィレット(仏パリ) https://lavillette.com/
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