リチャード、エドワード四世、クラレンス、アン、エリザベス、ヨーク公爵夫人、皇太子エドワード、ヨーク公リチャード、バッキンガム公、ヘイスティングス卿、ケイツビー、グレイ卿、リヴァーズ伯、ドーセット候、ロンドン市長、暗殺者・・・。
沢山のカタカナが並んで目がチカチカするかもしれませんが、全て4月28日(土)から開催される、「ふじのくに⇔せかい演劇祭2018」で上演される『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』の登場人物です。
申し遅れましたが、私は今回の演劇祭で『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』を担当している制作部の太田垣です。
さて、これだけの人数が登場する作品なんて「かなり大きな規模の作品なのではないか?」と思われるかもしれませんが、ジャン・ランベール=ヴィルドは、数々の演出家が挑んできたこのシェイクスピアの問題作を大胆にも二人芝居に仕立て、一人が主人公のリチャード、もう一人が他のすべての役を演じ分ける、という斬新な切り口で新しいリチャード三世の物語を創りあげました。
上の写真の白塗りの道化姿、気になりますよね。 実は本作のもう一つの大きな特徴は「二人の道化が芝居小屋で『リチャード三世』の芝居を演じている」という劇中劇の設定である、ということなのです!
二人の道化の悪ふざけのような雰囲気の中物語は進んでいくのですが、道化とリチャードのアイデンティティーは次第にダブりはじめ、彼らの運命の歯車は軽快にそしてとても残酷に急降下を始めます。 最後に観客の心に残る感情はどんなものなのでしょうか・・・?
演出・主演を務めるジャンさんが道化の姿で舞台に立つのは初めてではありません。
と言うよりも、ジャンさんが舞台に立つときはどんな作品でも道化の姿なのです。
なかなか不思議な話に聞こえるかもしれませんが、気付いた時にはこの道化のキャラクターは既に自分の中に存在していたそうで、ジャン自身の一部であり、常に共に切磋琢磨してきた関係であることをインタビューの中で語っています。
また相手役のロール・ヴォルフさんも同じく白塗りの道化姿で登場し、何人もの人物をダイナミックに演じ分けます。 まるで息をするかのように自然に様々な役を行き来するその姿は鳥肌ものです!変貌自在とはまさにこのこと・・・。
左の写真はこの『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』のフランス公演のポスターです。(出典 :Toute La Culture.com)
血に染まる白薔薇を咥えた猪の写真にジャンさんの眼に映るリチャード像のヒントがありそうです。
もともとリチャード三世という人物像に強く惹かれていたというジャンさん。
リチャードの厳しく一徹な性格や、自身への忠誠心を持っているところに深く共感し、そこに「彼がただの悪漢ではなく、ダークヒーローとして存在できる理由がある」と語っています。
リチャードの旗印は白い猪、銘は「Loyauté me lie(我が忠誠心が我を縛る)」だったことからも、自分の信念に忠実に猪突猛進の姿勢で生き抜いた彼の生き様を思い知ることができます。
最後に特筆しておきたいのは、舞台美術についてです。このグロテスクなおもちゃ箱のような舞台美術とクライマックスに登場するリモージュ焼きの鎧、写真の中でも大変目を引きますね!
デザインを手がけたステファヌ・ブランケさんはフランスを代表するビジュアルアーティストの一人で、そのグロテスクで毒っ気を含んだ作風は世界中で多くの人に支持されています。
2010年に東京で開催された個展もかなりの話題になりましたし、2011年にSPACで上演されたジャンさんの『スガンさんのやぎ』でも舞台美術を手がけていたので、彼の名を耳にした人もいるのでは?
ジャンさんの故郷のレユニオン島は、ヨーロッパやアジアなどの文化が混在し、自然の美しさと厳しさを兼ね備えた南インド洋に浮かぶ火山島です。 そんな島で育ったジャンさんの無国籍、かつアニミズム的な感性と世界観を舞台美術を通して代弁してきたステファヌさん。
二人は10年以上も共に共同創作してきた仲で、ジャンさんが芸術監督を務めるテアトル・ドゥ・リュニオン-リムーザン国立演劇センターのビジュアル部門監督をステファヌさんが任されている事からも、二人の深い信頼関係が伺い知れます。
二人のコラボレーションにも是非注目してみてください。
こんなにもチャーミングな見どころ満載の『リチャード三世~道化たちの醒めない夢~』の日本初演まで、残り約一ヶ月半です。 お時間のある方は、事前にシェイクスピアの原作を読んでからご来場いただけますと、より一層楽しい観劇となると思います。 それでは劇場でお会いしましょう!
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『リチャード三世~道化たちの醒めない夢~』
協同創作:ジャン=ランベール・ヴィルド、エロディ・ボルダス、ロレンゾ・マラゲラ、ジェラルド・ガリュッティ
原作:ウィリアム・シェイクスピア
舞台美術:ステファヌ・ブランケ 4月28日(土)・29日(日)13:00開演、30日(月・祝)11:00開演
舞台芸術公園BOXシアター内
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