こんにちは、陶芸をかじっていた音楽好きの制作部の林よりお届けします。
この作品の見どころは、なんといってもジャック・チャールズ!
とてもチャーミングなジャック!のワンマンショーです!
彼はベテランの俳優であり、ミュージシャンであり、現在はエンターテイナーとしてオーストラリアで大活躍していますが、壮絶な幼少期を過ごしました。彼はオーストラリア先住民の子孫として生まれたのですが、政府が施行した同化政策によって、彼の人生は家族と引き離されて生活をするところからはじまります。人種差別的な政策の犠牲者となりながらも、現在は舞台や映画、音楽、陶芸で人々の心を癒しています。どんな境遇の元に生まれても、自らの持てる才能を力一杯に表現することで希望を見出すことができると強く思える作品です。
ジャックが犯罪に手を染めるようになった原因でもあるとされる「同化政策」。1869年~1970年頃まで、オーストラリアでは先住民の子どもや白人と先住民との間に生まれた混血の子どもに対して、白人社会へ同化させようと、強制的に親から引き離し、強制収容所や孤児院などの施設に収容したり、白人家庭の養子にしたりするなどという児童隔離政策が行われていました。その子どもたちは「ストールン・ジェネレーション」(盗まれた世代)と言われているのですが、ジャック・チャールズもそのうちの一人なのです。生後4ヶ月で親から引き離され児童収容施設で少年時代を過ごしました。その後、あるとき知り合いになった同年代の子が自分の兄弟姉妹で、彼らから自分の生みの親や親戚の事、自身のルーツを知ります。そのことを喜びながら白人の育ての親に言ったところ、激怒されてしまい教護院に送られてしまいます。その頃からジャックは自身を受け入れてもらえなかった寂しさや孤独からでしょうか、薬物、窃盗、不法侵入など様々な犯罪に手を染め、ついには刑務所を出たり入ったりの生活に陥ります。そして、ジャックは刑務所の中で陶芸や音楽に出会います。
上の写真で、ジャックがろくろを回しているのに気がつきましたか?なんとこの作品は彼が陶芸のろくろを回すシーンから始まります。ジャックは刑務所で服役していた時に陶芸の技術をみにつけたのだそうです(写真は陶芸の窯に座るジャック)。腕前は確かなもので刑務所でも陶芸ワークショップを開いていたとか!技術はオーストラリア先住民のドリーミングという思想で自分と霊的に繋がりのある鷲が、刑務所にいたジャックを見つけて授けてくれたものであるとジャックは言っています。土は先住民の土地のもの。土の匂いとか、手触りを感じながらジャックは陶芸を通してオーストラリアの太古からの大地やご先祖さまと繋がっているのかもしれませんね。
さてさて、ミュージックショーの時間ではジャックにとにかくしびれてください!歌うジャック。こちらも服役中に自分の音楽の才能で人々を幸せに、おだやかにできると知ったのだとか。この溢れ出る音楽の才能を目の当たりに体感できる上演が楽しみでなりませんね。音楽監督はナイジェル・マクレーンなのですが、ジャズピアニストのジョー・チンダモ等ともヴァイオリンで共演しており、日本へも度々来日しています。そのほかフィル・コリングスのパーカッション、マルコム・べヴァリッジのベースとジャズを聴く方でしたらその名前も知っているかもしれませんね。この作品は、音楽好きの方(ジャズやブルースやファンク)にも響くのではないでしょうか。
ジャックを追ったドキュメンタリー映画『バスターディ(Bastardy)』という作品があります。この作品が英国で上映される事になり、トークゲストとしてジャックは招かれていましたが、数々の自身の犯罪歴からビザの発給を拒否されてしまいます。象徴的にでてくる番号3944は犯罪者としてのジャックに割り当てられた記録番号。その番号は国王から与えられたものだとジャックは議論をします。ジャックは、この時にはすでに更生し、薬物や犯罪とは無縁で、慈善活動も積極的にしていました。しかし過去の犯罪歴は現在の生活に影響を与え、この番号が社会生活の障害となっています。ジャックはこの番号がいまだに与える不利益を解消して欲しいと法廷に立ちます。白人がオーストラリアを植民地にしたのに、犯罪歴を理由にジャックが英国に入国するのを拒否するのは矛盾していると訴えます。この戦いは決着がつくのでしょうか・・・(この先は見てのおたのしみです)。
モノクロだった時代を自らの力で色を塗り続け、時には黒のインクが落ちて再度犯罪に手を染めた時もあったのでしょうが、なんども溢れ出る才能の鮮やかな色が塗り重ねられた色は誰にも到達することのできない味わいを醸し出しています。ジャックの生きた人生をこの作品で体験してみてください。終演の頃には元気がでてくると思います。
上演日は5月6日(日)13時より静岡芸術劇場にて1日限りの上演です。
お見逃しなく!
*こちらから舞台映像の抜粋をご覧いただけます。↓
================
『ジャック・チャールズ vs 王冠』
演出:レイチェル・マザ
作:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル
音楽監督:ナイジェル・マクレーン
出演:ジャック・チャールズ、ナイジェル・マクレーン(ギター・ヴァイオリン)、フィル・コリングス(パーカッション)、マルコム・ベヴァリッジ(ベース)
製作:イルビジェッリ・シアター・カンパニー
5月6日(日)13:00開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら
================