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blog 最終更新日:2018年3月21日 12:26 PM

『ジャック・チャールズ vs 王冠』ジャックおじさんの波乱万丈物語

こんにちは、陶芸をかじっていた音楽好きの制作部の林よりお届けします。
この作品の見どころは、なんといってもジャック・チャールズ!
とてもチャーミングなジャック!のワンマンショーです!
彼はベテランの俳優であり、ミュージシャンであり、現在はエンターテイナーとしてオーストラリアで大活躍していますが、壮絶な幼少期を過ごしました。彼はオーストラリア先住民の子孫として生まれたのですが、政府が施行した同化政策によって、彼の人生は家族と引き離されて生活をするところからはじまります。人種差別的な政策の犠牲者となりながらも、現在は舞台や映画、音楽、陶芸で人々の心を癒しています。どんな境遇の元に生まれても、自らの持てる才能を力一杯に表現することで希望を見出すことができると強く思える作品です。

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ジャックが犯罪に手を染めるようになった原因でもあるとされる「同化政策」。1869年~1970年頃まで、オーストラリアでは先住民の子どもや白人と先住民との間に生まれた混血の子どもに対して、白人社会へ同化させようと、強制的に親から引き離し、強制収容所や孤児院などの施設に収容したり、白人家庭の養子にしたりするなどという児童隔離政策が行われていました。その子どもたちは「ストールン・ジェネレーション」(盗まれた世代)と言われているのですが、ジャック・チャールズもそのうちの一人なのです。生後4ヶ月で親から引き離され児童収容施設で少年時代を過ごしました。その後、あるとき知り合いになった同年代の子が自分の兄弟姉妹で、彼らから自分の生みの親や親戚の事、自身のルーツを知ります。そのことを喜びながら白人の育ての親に言ったところ、激怒されてしまい教護院に送られてしまいます。その頃からジャックは自身を受け入れてもらえなかった寂しさや孤独からでしょうか、薬物、窃盗、不法侵入など様々な犯罪に手を染め、ついには刑務所を出たり入ったりの生活に陥ります。そして、ジャックは刑務所の中で陶芸や音楽に出会います。

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上の写真で、ジャックがろくろを回しているのに気がつきましたか?なんとこの作品は彼が陶芸のろくろを回すシーンから始まります。ジャックは刑務所で服役していた時に陶芸の技術をみにつけたのだそうです(写真は陶芸の窯に座るジャック)。腕前は確かなもので刑務所でも陶芸ワークショップを開いていたとか!技術はオーストラリア先住民のドリーミングという思想で自分と霊的に繋がりのある鷲が、刑務所にいたジャックを見つけて授けてくれたものであるとジャックは言っています。土は先住民の土地のもの。土の匂いとか、手触りを感じながらジャックは陶芸を通してオーストラリアの太古からの大地やご先祖さまと繋がっているのかもしれませんね。

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さてさて、ミュージックショーの時間ではジャックにとにかくしびれてください!歌うジャック。こちらも服役中に自分の音楽の才能で人々を幸せに、おだやかにできると知ったのだとか。この溢れ出る音楽の才能を目の当たりに体感できる上演が楽しみでなりませんね。音楽監督はナイジェル・マクレーンなのですが、ジャズピアニストのジョー・チンダモ等ともヴァイオリンで共演しており、日本へも度々来日しています。そのほかフィル・コリングスのパーカッション、マルコム・べヴァリッジのベースとジャズを聴く方でしたらその名前も知っているかもしれませんね。この作品は、音楽好きの方(ジャズやブルースやファンク)にも響くのではないでしょうか。

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ジャックを追ったドキュメンタリー映画『バスターディ(Bastardy)』という作品があります。この作品が英国で上映される事になり、トークゲストとしてジャックは招かれていましたが、数々の自身の犯罪歴からビザの発給を拒否されてしまいます。象徴的にでてくる番号3944は犯罪者としてのジャックに割り当てられた記録番号。その番号は国王から与えられたものだとジャックは議論をします。ジャックは、この時にはすでに更生し、薬物や犯罪とは無縁で、慈善活動も積極的にしていました。しかし過去の犯罪歴は現在の生活に影響を与え、この番号が社会生活の障害となっています。ジャックはこの番号がいまだに与える不利益を解消して欲しいと法廷に立ちます。白人がオーストラリアを植民地にしたのに、犯罪歴を理由にジャックが英国に入国するのを拒否するのは矛盾していると訴えます。この戦いは決着がつくのでしょうか・・・(この先は見てのおたのしみです)。

モノクロだった時代を自らの力で色を塗り続け、時には黒のインクが落ちて再度犯罪に手を染めた時もあったのでしょうが、なんども溢れ出る才能の鮮やかな色が塗り重ねられた色は誰にも到達することのできない味わいを醸し出しています。ジャックの生きた人生をこの作品で体験してみてください。終演の頃には元気がでてくると思います。

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上演日は5月6日(日)13時より静岡芸術劇場にて1日限りの上演です。
お見逃しなく!

 

*こちらから舞台映像の抜粋をご覧いただけます。↓

 

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『ジャック・チャールズ vs 王冠』

演出:レイチェル・マザ
作:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル
音楽監督:ナイジェル・マクレーン
出演:ジャック・チャールズ、ナイジェル・マクレーン(ギター・ヴァイオリン)、フィル・コリングス(パーカッション)、マルコム・ベヴァリッジ(ベース)
製作:イルビジェッリ・シアター・カンパニー

5月6日(日)13:00開演
静岡芸術劇場
*詳細はこちら 
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blog 最終更新日:2018年3月10日 4:15 PM

『リチャード三世〜道化たちの醒めない夢〜』 猪と薔薇のダークヒーロー

リチャード、エドワード四世、クラレンス、アン、エリザベス、ヨーク公爵夫人、皇太子エドワード、ヨーク公リチャード、バッキンガム公、ヘイスティングス卿、ケイツビー、グレイ卿、リヴァーズ伯、ドーセット候、ロンドン市長、暗殺者・・・。
沢山のカタカナが並んで目がチカチカするかもしれませんが、全て4月28日(土)から開催される、「ふじのくに⇔せかい演劇祭2018」で上演される『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』の登場人物です。

申し遅れましたが、私は今回の演劇祭で『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』を担当している制作部の太田垣です。
さて、これだけの人数が登場する作品なんて「かなり大きな規模の作品なのではないか?」と思われるかもしれませんが、ジャン・ランベール=ヴィルドは、数々の演出家が挑んできたこのシェイクスピアの問題作を大胆にも二人芝居に仕立て、一人が主人公のリチャード、もう一人が他のすべての役を演じ分ける、という斬新な切り口で新しいリチャード三世の物語を創りあげました。

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

上の写真の白塗りの道化姿、気になりますよね。 実は本作のもう一つの大きな特徴は「二人の道化が芝居小屋で『リチャード三世』の芝居を演じている」という劇中劇の設定である、ということなのです!
二人の道化の悪ふざけのような雰囲気の中物語は進んでいくのですが、道化とリチャードのアイデンティティーは次第にダブりはじめ、彼らの運命の歯車は軽快にそしてとても残酷に急降下を始めます。 最後に観客の心に残る感情はどんなものなのでしょうか・・・?

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

演出・主演を務めるジャンさんが道化の姿で舞台に立つのは初めてではありません。
と言うよりも、ジャンさんが舞台に立つときはどんな作品でも道化の姿なのです。
なかなか不思議な話に聞こえるかもしれませんが、気付いた時にはこの道化のキャラクターは既に自分の中に存在していたそうで、ジャン自身の一部であり、常に共に切磋琢磨してきた関係であることをインタビューの中で語っています。
また相手役のロール・ヴォルフさんも同じく白塗りの道化姿で登場し、何人もの人物をダイナミックに演じ分けます。 まるで息をするかのように自然に様々な役を行き来するその姿は鳥肌ものです!変貌自在とはまさにこのこと・・・。

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左の写真はこの『リチャード三世~道化たちの醒めない悪夢~』のフランス公演のポスターです。(出典 :Toute La Culture.com)

血に染まる白薔薇を咥えた猪の写真にジャンさんの眼に映るリチャード像のヒントがありそうです。
もともとリチャード三世という人物像に強く惹かれていたというジャンさん。
リチャードの厳しく一徹な性格や、自身への忠誠心を持っているところに深く共感し、そこに「彼がただの悪漢ではなく、ダークヒーローとして存在できる理由がある」と語っています。

リチャードの旗印は白い猪、銘は「Loyauté me lie(我が忠誠心が我を縛る)」だったことからも、自分の信念に忠実に猪突猛進の姿勢で生き抜いた彼の生き様を思い知ることができます。

 

 

最後に特筆しておきたいのは、舞台美術についてです。このグロテスクなおもちゃ箱のような舞台美術とクライマックスに登場するリモージュ焼きの鎧、写真の中でも大変目を引きますね!

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

RICHARD III - LOYAULTÁEME LIE

デザインを手がけたステファヌ・ブランケさんはフランスを代表するビジュアルアーティストの一人で、そのグロテスクで毒っ気を含んだ作風は世界中で多くの人に支持されています。
2010年に東京で開催された個展もかなりの話題になりましたし、2011年にSPACで上演されたジャンさんの『スガンさんのやぎ』でも舞台美術を手がけていたので、彼の名を耳にした人もいるのでは?

ジャンさんの故郷のレユニオン島は、ヨーロッパやアジアなどの文化が混在し、自然の美しさと厳しさを兼ね備えた南インド洋に浮かぶ火山島です。 そんな島で育ったジャンさんの無国籍、かつアニミズム的な感性と世界観を舞台美術を通して代弁してきたステファヌさん。
二人は10年以上も共に共同創作してきた仲で、ジャンさんが芸術監督を務めるテアトル・ドゥ・リュニオン-リムーザン国立演劇センターのビジュアル部門監督をステファヌさんが任されている事からも、二人の深い信頼関係が伺い知れます。
二人のコラボレーションにも是非注目してみてください。

こんなにもチャーミングな見どころ満載の『リチャード三世~道化たちの醒めない夢~』の日本初演まで、残り約一ヶ月半です。 お時間のある方は、事前にシェイクスピアの原作を読んでからご来場いただけますと、より一層楽しい観劇となると思います。 それでは劇場でお会いしましょう!

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『リチャード三世~道化たちの醒めない夢~』
協同創作:ジャン=ランベール・ヴィルド、エロディ・ボルダス、ロレンゾ・マラゲラ、ジェラルド・ガリュッティ
原作:ウィリアム・シェイクスピア
舞台美術:ステファヌ・ブランケ
4月28日(土)・29日(日)13:00開演、30日(月・祝)11:00開演
舞台芸術公園BOXシアター内
*詳細はこちら
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