今回このノルウェー・オスロからの招聘作品『シミュレイクラム/私の幻影』を担当しています、制作部の計見(けいみ)です。
さて、今年の演劇祭で唯一のダンス作品でもある、『シミュレイクラム/私の幻影』・・・シ、シミュ?シミュレイクラム??と、耳馴染みのない言葉がタイトルにありますが、これは「表象、イメージ」を意味するラテン語<simulacrum>を語源とする言葉で、日本語に訳すと【像、似姿、幻影、面影、偽物、見せかけ】となります。
▲今回の公演チラシ
この作品の演出、振付をされたアラン・ルシアン・オイエンさんは以前より、フランス人哲学者、思想家のジャン・ボードリヤールの「シミュラークル=模擬・模造・幻影の意。複製としてのみ存在し、実体をもたない記号のこと。記号がひとり歩きして現実を喪失する状態のこと。」という思想に興味を持っていました。同じような言葉で「シミュレーション(模擬実験)」というのがありますが、ボードリヤールは<シミュラークルの産出過程をシミュレーション>とし、この考え方は現代美術に大きな影響を与えています。
このような思想を軸に、血筋をもって継承される日本の伝統芸能である歌舞伎をどう捉えるか、というところからこの作品の創作はスタート。確かに、クラシックバレエやフラメンコ、日本舞踊などは模倣することで受け継がれ、その模倣されたものがオリジナルになりますよね・・・
作中でも、アルゼンチン生まれのコンテンポラリーダンサー、ダニエル・プロイエットさんが女形の歌舞伎舞踊を舞うのですが、それをアランさんは、インタビューの中で「完璧なシミュレイクラム」という風に表現されています。
さて、アラン・ルシアン・オイエンさんという方、ご自身が主宰されている芸術家集団ウィンター・ゲスツでの活動の他にも、去年11月にパリのシャイヨー国立劇場で本作を上演後、今年に入ってすでに他の演出作2作品が同劇場で立て続けに上演されていたり、この6月には、 度々来日公演を行い日本でも熱狂的なファンを持つ、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団で長編新作を手掛ける、初めての外部演出家のひとりに選ばれるなど、今ヨーロッパで最も注目を集める演出、振付家です。
▲演出・振付のアラン・ルシアン・オイエンさん
アランさんは、ノルウェーのベルゲンという街で育ちました。このベルゲンには『民衆の敵』の作者でもあるヘンリック・イプセンが設立した国立劇場があり、アランさんのお父様はこの劇場で衣裳係をされていたそうです。その影響で、幼いころから劇場や演劇に触れ、古典作品だけでなく、「イプセンの再来」「20世紀のベケット」とも呼ばれるノルウェー人劇作家ヨン・フォッセの世界初演なども、目の当たりにしていて、その後、ダンサーとしてのキャリアをスタートされますが、幼いころのこういった経験が、現在のダンスと演劇を横断するような作風に大きく影響しているのだとか。
ダンスや演劇などのジャンルを超えて、幅広く楽しんでいただける作品となっていますので、皆さまのご来場を心よりお待ちしております♪
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『シミュレイクラム/私の幻影』
演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン
歌舞伎舞踊振付/音楽『Natsue』:藤間勘十郎
出演・振付:小島章司、ダニエル・プロイエット
製作:ウィンター・ゲスツ
5月3日(木・祝)12:30開演、4日(金・祝)12:30開演
静岡芸術劇場
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